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倭都タケル=吾のまほろば=  作者: 川端 茂
第七章
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帝の期待に乗じてエル帥を褒め上げ、宴は盛り上がる

 この問答でコウスが恐れていたのは、帝に無断でコウスに渡した事による逆鱗げきりんに触れて、エル帥の面目が潰れることだった。

 だが帝は酒杯を手に取って隅々まで眺め、うなずいて許可した。危うい事態が避けられ、安堵したコウスは高台酒杯を大事そうに扱い、皆に回す。


「細かい細工で、何と美しい酒杯だろう。」


 この季節、日が沈むと夕暮れが早い。冷たい風が少し強くなっているが、水平線に輝いていた赤く染まった雲は、明日も晴れると告げていた。


 今夜は議事舎で、もう一泊するが本来は、今時分が己実みみ津へ帰還する、船出の予定だった。

 己実の船長には申し訳ないが、倭台市訪問は上手く事が運べたので、朝早く発てば清々しい航海になるだろうと、コウスは感無量の心境だ。


 女人に案内を頼み、今夜も泊る広い客間で早朝出立の身支度を整える。コウスはケイシマナキ、マヤムを呼び、土産の分類を始める。

 火良村への土産、ハリマへの土産、纏向と高尾への土産、伊勢と桑菜くわなへの土産、そして出雲への貢物に分け、縄撚りのマサキに再結束と薦包みを指示した。


 その間に接見の室へ、次々と夕餉の豪華な料理や酒が運ばれている。


「御食事の御用意が出来ました。皆様お揃いでお越し下さいませ。」


 女人に連れられ接見の室へ戻ると、十数人ずつ座れる卓が四角に並んで、料理や酒が配膳されていた。

 その卓に囲まれた空間には、倭台市と纏向の昇り旗が高い天井から垂れ下がり、その下の床で火鉢のような四角い暖炉が、赤々と燃え盛っている。


---また何と派手な拵えだ。室に昇り旗を吊るなんて恐れ入った。この様な見事な宴席作りは、誰が考えるのだろう、いつか見習いたい。


 女人に代わって役人二人が室で迎え、訪問の一行を奥の卓に誘導する。コウスを真ん中にして、十一人が卓に座ると、役人や側近、兵が二十人入って来て左右と正面の卓に座った。


 左右の卓は、奥がそれぞれ三人分空いている。そこへ帝、エル帥、トウ・リン将軍の順で左側の卓へ奥から座り、右側の卓は空いたままだ。


 右側の三人席に農園のハツタ村長、工房の頭取イン・タン、縄撚り工房のナル・シャが来て、帝とエル帥、トウ・リン将軍、そしてコウスにも深く礼をして座った。

 席が埋まったところで、卓の後方で酒壷を抱えていた女人十人が、言葉を掛けながら酒を注いで回る。


十五

 高い天井から垂れ下がった二旒 (りゅう)の昇り旗が、暖炉の熱で揺れ、生き物のように戯れている。コウスは昇り旗を感慨深げに見つめる。


---風のように過ぎ去った二日半の倭台市滞在だったが、得たものは数え切れず、有意義だった。帝は吾のことを、孫を見るように優しく接してくれ、エル帥は難しい性格だが良い人物だった。農村で蛮族の襲撃に遭った時、倭台軍の洗練した兵力も見られた。


 帝が立ち上がり、コウス一行に笑顔で礼をして役人や側近、兵を見回し、杯を手に取って宴の開始を発声する


「酒は皆に回ったな。では明朝出立するコウス皇子との、別れを惜しむ晩餐ばんさんを始めよう。私的ではあるが纏向からの訪問に恵まれ、本日が我が息子エルと、コウス皇子の親睦が叶った目出度い記念日になった。出席の諸氏も、この記念日を祝う楽しい宴にしてくれ。乾杯。」


 最も高位で主者となる奥席に案内され、恐縮しながら座ったコウスは、帝の発声で思惑おもわくを知った。

 市中散策という当方の希望を利用し、エル帥を案内役にして交流の場を作り、将来の君主として学ぶ機会を作ったのだ。


 エル帥の将来を案じている、帝ならではの機転だろう。その成果を見たのか、今日を記念日とまで言ったことに驚いた。

 豪華な夕餉を食しながら、この場はエル帥を持ち上げようとコウスは考え、立って応礼する。


「エル帥はハル・サイマ帝の御子息でありながら、市中では民に優しく接せられ、御立派に手前共を導いて下さり、倉庫、工房、農場で丁寧な説明を頂戴し、多くを学ばせて頂きました。」


 さらに豪華な昼餉を戴いたことや、蛮族襲来の対応も付け加えた。


「また昼は絶品のお食事を戴いたうえ、突然の蛮族襲来では迅速な御判断によって、手前共と農民をお護り下さいました。本日の御厚意を恩義とし、胸に仕舞って成長していきたく存じます。誠に有難うございました。」


 晩餐は女人の舞いも加わって盛り上がり、一時半があっという間に過ぎた。客間に戻った一行は、酒酔いと満腹で倒れるように眠りにつく。


十六

 翌朝、マイヤとシモンが号令を掛けて身支度を急がせる。


「さあ身支度して出立の用意だ。」


 出立前夜に酔い潰れることを恐れたコウスは、酒は控えていたので目覚めが良く、素早く起きて身支度し、分類した土産の土器を確認し、ケイシ、マナキ、マヤムを呼ぶ。


「この三束は其方三人が運べ。高台酒杯は吾が運ぶ。」


 まだ誰にも明かしていないが、指示された三人は渡された土器が出雲への貢物だと悟り、神妙な顔で目を見合わせた。

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