試作中の高台酒杯も、帝の許可を得てコウスの胸中は
マイヤとシモンも津へ向かうと席を立った。残った五人はトウ・リン将軍が、議事舎と津の間にある交易会合舎と、津で停泊している弁韓の商船を案内することになった。
焼物工房に着くと、仕上がった酒杯、汁椀、料理皿などが重ねられ、所狭しと並んでいる。そして今まさに、酒杯二十個を単位として、細い縄で纏めているところだ。
別の場所では汁椀と料理皿が十個ずつ束ねられ、薦袋に収められていた。
エル帥がニコルの横に立ち、酒杯を指差す。美しい模様が彩色された器高が低い大小の酒杯、高台が付いた酒杯や料理皿が多数、広げた筵の上に伏せて積まれている。
どれも目移りする仕上がりだ。女人の審美眼を期待して、ニコルに選別を任せようとコウスは考えた。
「まず酒杯から見せて貰おう。ニコルが気に入った形と模様を選んでくれ。エル帥、肩に掛けて歩けるように重くない数で括って欲しいが。」
まず二十個を細い縄で纏めた酒杯を、エル帥がコウスに差し出した。それをケイシに渡し重量を確認させると、思ったより軽いと言う。
ニコルとシモンは纏向や針間への土産と思い込んでいるが、ケイシは気付いただろうか。この焼物が出雲への貢物だということを。
「これ一束で二十個ですか。軽いので二束を繋いで頂けますか。あと汁椀も、手に乗る料理皿もあるのですね。」
ケイシの要望で、二束になった酒杯を肩に掛けてみたコウスも、重さに満足した。
「うん、これくらいなら肩は痛くない。ニコルが選んだ椀も料理皿も、同じくらいの重さに縛ってもらおう。」
荷出し職人に指示しながらエル帥は新たに、色鮮やかに彩色した酒杯をニコルに見せる。
「この酒杯は馬韓からの要望で、試しに焼いた酒杯だ。外側全体に竹箆で細かく彫った模様に、今までの朱の彩色に、白く光る新しい液と黒を加え仕上げておる。まだ誰も見ていない希少な産物だ。多くは渡せないが、持ち帰られるか。」
受け取って三色使いの模様に目を丸くし、手にした彫刻の感触にも驚くニコル。黙ってコウスに渡し、どう反応するかを上目遣いで窺う。
「こんな御立派な酒杯は、土産に戴くには勿体ない代物だ。」
本当はこのような珍しい物が欲しいと、コウスは願っている。だが、ここで遠慮すれば、エル帥がどんな反応を示すか興味がある。駄目でも、元々なので。
「良い酒杯でしょう。今は試し作り中なので、三個ならお渡しできます。如何ですか。」
---やった、上手くいったぞ。これを出雲の国主に差し出せば、大そう喜ぶに違いない。精一杯、大袈裟に感動しておこう。
「希少な宝物を三個も、本当に戴いてよろしいのですか。何と御礼を申し上げて良いか。持ち帰る途中で何かに当たったり落としたりしても、絶対に割れないよう厳重に包んで下され。お願い致します。」
日は西に傾いて雲を赤く染め、青い水平線には眩しい輝きを投影し、近付く夕刻を呼び掛けている。
職人が選んだ焼物を手際よく束ね、外から見えないよう薦袋に収め、肩掛けの縄も取り付けてくれた。
エル帥と職人に感謝を述べたコウスと四人が、想像以上の贈呈物を肩に掛け、楽しそうに話しながら議事舎へ引き返す。
コウスは念のため、於訳や針間、出雲の国主や豪族に、同じ物が出回っていないか心配になり、それとなく確かめてみる。
「素晴らしい焼物を、沢山頂戴して有難うございます。倭台市以外で見られない鮮やかな土器を見た人は、驚いて大そう喜ぶでしょうね。感激した顔を想像して、今から楽しみです。」
「この焼物は、辰韓、弁韓、馬韓にしか出しておらん。倭都には人や動物の形をした壷や、木や竹先で絵を描いた壷や桶は各地にあるが、どれも大きくて催事に使う物だ。色付き、模様付きの酒杯や皿があるとは、聞いた事がない。其方らが倭台市の土器を土産として持ち帰る、初めての訪問者だ。」
確かに人型の壷や棺は、古くからある。コウスはエル帥の話を信じ、出雲の国主に会うことが叶えば、胸張って差し出そうと思った。
十四
議事舎では、船出の延長を告げに言ったマイヤ達、馬韓の商船などを見学に行ったマナキ達が、すでに戻って待っていた。
接見の室で、戴いて束ねたままの土器を皆に見せると、頭を突き合わせて見入る。
「うわ、こんなに沢山戴けるなんて……。サイマ帝、エル帥、有難うございます。」
誰もが感激していると、帝が来て並んだ土器を検分する。問題は、まだ試し作り中の高台酒杯で、帝が出せないと言えば、返さねばならない代物だ。
たとえエル帥が勧めてくれたとはいえ、帝の許可なく持ち帰る訳にはいかず、コウスは薦袋から出して披露した。胸の鼓動が高鳴る。
「エル、試し作り中の高台酒杯も出したのか。」
「はい。職人が磨きも焼きも、彩色も美しく出来上がり、水漏れもないと勧めたので、三個だけ包みました。」
「そうか……。うーん、三個だけなら良いだろう。」




