土産に焼物が許可され、もう一泊滞在が延期となる
「君主は、前へ出て現場に口出しをしないものだと、教えて来たはずだ。」
「その通りで、現場の苦情や悩み事は、役人の勤めと教わって参りました。」
コウスは問答が長引けば、夕刻に出発したい旨を伝えられない。この辺で思い切って口を挟もうと決めた。
「サイマ帝に申し上げます。エル帥はよく心得られており、マサキ訳伝役に物品改良の工夫は、現場でないと出来ないと仰せられ、熱心な其方なら良い縄が作れると、励まして下さいました。」
コウスが、敢えてエル帥を弁護したと受け取った帝は、急ぎの用件を伝えたいのだろうと、この問答を打ち切った。
「蛮族が襲って来た時は、女人や童子を避難させる手配もエル帥の御判断です。時が迫っておるので、民の誘導を願うと、手前らに指示して下さいました。すぐ防衛隊が来られ一方的に勝利されたので、民は誰ひとり危害を被りませんでした。」
「そうか、民が護れて良かった。そうだ、食事は止まっていないか、酒は足りておるか。」
さすがに帝は話の分かる人物だ。意図を汲んで貰えたと、コウスは頼みたいことを話す。
「美味しい料理を戴いております。朝にお会いが叶いませんでしたので突然になりますが、三件お願いを申し上げます。市中散策を十分に堪能させて頂きましたので、目的は果たせました。ひとつ目は、日良村で同志が帰りを待っておりますので、我々が夕刻に出発することをお許し願いたいのです。」
十二
もう一泊くらい滞在すると思っていた帝も、エル帥も驚いた。すでに一行の夕食は準備している。帝は引き取めることが出来ないかを考えたが、あとの二件も聞いて判断しようと続いて用件を尋ねる。
「直ぐにこの地を出立したいとは、驚いたものだ。願い事はもう二件あったな、それを聞こう。」
「恐れ入ります。ふたつ目は、新しくなった倭南州の目付け役をひとり、御派遣願いたいのです。同道しておるコルノは手前が首長に任命したのですが、まだ政務に慣れておりません。御指導と倭南州安定のために、御無理をお聞き頂きたいのですが。」
甦った倭南州を、就任したばかりのシウリに任せて帰れないと、コウスは言う。帝は尤もだと思い、先々のことも考えているコウスに感心した。
「目付け役の派遣か。そうだな、ひとりでいいのか。」
「兎農からもひとり、お願い致そうと考えております。御指導の期間はコルノが慣れるまで、半年くらいかと。」
「了解した。政務と武術に長けた者を派遣しよう。さて、もう一件は何だ。」
「焼物工房を御案内頂き、穀物の保存壷を拝見しました。それは内側を平滑に仕上げ、磨いた表面に朱色の液体で模様を描き、化粧してありました。また酒壷や杯、食べ物を盛る椀も固くて持ちやすく、酒や水が沁み込まないとのことで、土の焼物とはとは思えない美しい姿に、感動致しました。」
目を輝かせて話すコウスに、帝とエル帥は驚いたが、何が目的なのか見えない。職人を纏向に連れて帰ると言うのなら、それは受けられない話だ。
「学ばせて頂いて、なお御無理を申し上げるのは、甚だ恐縮では御座いますが……。」
そこまで聞いて、帝が身を乗り出してコウスの話を遮った。
「壷を仕上げる材料と、優秀な職人を工面せよと言うのなら、それは断る。倭台市の焼物は、この地で生まれて育った独自の産物だ、作り方を他言する気は毛頭ない。たとえマキム大王の御要望でも無理だ、諦めて頂こう。」
険しい顔で断りを入れる帝の鋭い声に、エル帥は壷の説明中に、余計なことを言っていたのかと震え上がった。
帝の怒りが、こちらに向かわない事を一心に祈るエル帥。
「いえ、壷の材料とか職人とか、そんな大それた事では御座いません。持ち帰れそうな小さな皿や酒杯、汁椀を、土産に頂戴できればとのお願いです。」
厳しかった帝の表情が、にわかに笑顔に変わった。
「そういうことなら、何も問題はない。まだ日は高い、気に入った土産を選ぶ時は十分にある。晩餐でコルノ首長と話したいこともあるので、もうひと晩泊って明日の朝早くに発て。出航を待っておる船に、誰かが出立の延期を告げれば混乱はないだろう。」
予告のない願いだったが、快く受けてくれた帝に感謝し、安堵したコウス。夕刻の出立は成らず、半日遅れるが、この願いは折れても良いと思った。
食事を終えた同伴者を見回すと、困惑した顔をする者はいない。
「とても美味しい料理、ご馳走様でした。そしてサイマ帝のお心遣いに感謝して、もう一晩お世話になります。」
「ご馳走様でした。もう一晩、よろしくお願い致します。」
同伴者も一斉に帝とエル帥に深く礼をし、今夜も厄介になることを感謝した。
「それでは船の出航延期については、マイヤとシモンを伝達役とし、焼物工房へはエル帥にお願いして、手前とニコル、ケイシ、訳伝役マサキの四人で伺いたいと存じます。よろしいでしょうか。」
十三
軽食を兼ねた会談は、半時少々で幕を閉じた。
この結果にひと安心したエル帥は上機嫌で、明るいうちに焼物工房へ案内すると席を立った。




