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倭都タケル=吾のまほろば=  作者: 川端 茂
第七章
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戦った蛮族を許すコウスの器に、エル帥は感動する

 蛮族とはいえ、堅固な武具で武器も遜色のない物だった。心配したエル帥が尋ねると、悲しそうに答えるサイヤ。


「騎馬隊二人と、徒歩隊ひとりが犠牲になりました。無念です。」


「敵は、盗賊の群れでなく武力に長けた一団だった。何処かで共同体でも結成されており、裏で糸を引く者がいるな。」


「手強かったのは事実です。そう感じました。」


 民の非難を手伝ったコウス一行も集まって、うな垂れているサイヤと、エル帥の問答を聞いている。


 単なる荒ぶれた盗賊団や山賊ではないと、コウスも感じていた。背後に農民の収穫物を奪い盗る、首謀者が潜んでいるはず。

 それを突き止めないと、今後も同じことが繰り返されるだろう。


「うぬらが寄せ集めでないことは、見るからに明白だ。どこから来た盗賊か白状しろ。」


 防衛隊長のサイヤが、髭の長い屈強そうな男の首に剣を当て、怒りに任せて荒々しく尋問する。だが男は口を一文字に結んで、サイヤを睨むのみ。


「……」


「いい度胸だ。うぬらは白状するまで小石の上で正座したままだぞ、耐えられるなら耐えてみろ。誰か白状する者はいないのか。」


 すると後方に座っている賊のひとりが、何か言いたげな表情で身体を揺っている。

 口を割る意志と見たコウスが、エル帥に目配せしてトウ・リンと二人で、その男を群れから引き出した。


「お願いです、命はお助け下さい。村で腹を空かせたせがれと、病いの女房が帰りを待っています。某が帰らなきゃ、飢えて死にます。」


 髭の長い男が身体を捻って、わめくなと言わんばかりの顔で、泣き声の男を睨む。髭の男は覚悟を決めていても、全員がそうとは限らない。

 泣き声で叫ぶ男の前にコウスが座り、目線の高さを揃えて優しい声で諭す。


「其方の気持ちはよく分かる。しかし農民が暑い日も雨の日も、日照りが続いても苦労して育て、収穫した食糧を暴力で奪うのは、鬼畜の所業ではないか。心を入れ替えて真面目に働けば、子供は腹を満たし、家族の病いも治せる。よく考えよ、これを扇動した首謀者は誰か、何処から来たのかを正直に白状すれば、むやみに各々の命を奪うことはしない。」


 捕らえられた十人の中に、改心すれば敵でも罰しないと言う、コウスの言葉を聞きながら、涙を流す者がいる。今までの愚かな行為が身に沁みたのか。

 

 首謀者に近いと言う、別の男が白状を始めた。襲撃したのは竹下ちくけの丘と、割棉さくめ山の中腹で陣を張る三賊の集合隊で、剣士と槍士を合わせて総勢百人いることを。


 首謀者は、割棉さくめ山の西麓に陣を張るノイ・モシという魏人で、襲撃には一切出ないとのこと。今回の農村襲撃は、そこを拠点としてノイ・モシが企てたことを白状した。

 回荷と空馬を引いた三十人は、首謀者ノイ・モシが抱える荷役を兼ねた槍士だった。


「よく話してくれた、正直な白状と信じて良いな。首謀者ノイ・モシとやらは、倭台市と竹下の首長と話し合って、遠からず掃討しよう。だが、この地を襲撃した者が生き残って、出て来なかった者が掃討されるとは、皮肉だな。」


 防衛隊長のサイヤが白状した者を褒めたが、コウスの説得は命令調でないのに、白状に持ち込んだ強い力を秘めていたと、後方で話を聞いていたトウ・リン将軍。

 少し離れた場所に立っている、エル帥の顔を横目で見た。


---この皇子は弁舌も確かだが、それ以上に心を込めて説いておる。これが倭都マキム大王の御子息か。もしもエル帥だったら、どうなっていたか。


 民の苦労や暮らしを思い、いま戦ったばかりの敵さえも許容するうつわ。この皇子になら、誰でも付いて行くと感動さえ覚え、身体が震えた。


「某は過去の悪行を悔い改め、これからは真面目に働きます。お許しがあれば、この地で働かせて下さり、ご指導をお願い申します。」


 泣き声の男が泣き顔になって感謝と嘆願をすると、他の者たちも同様に嘆願した。命さえ助かれば、この場を逃げ切れると、考える者もいるだろうが改心した者は確かにいる。


 トウ・リンの指示で、兜と胴巻き、剣を外された十人全員が、縄を解かれ立ち上がった。髭の長い男からも、憎々しい表情が消えている。

 村長、マイヤ、シモンを従えた格好で、エル帥が十人の前に立ち、戦闘の処理を命じる。


「うぬらの襲撃は敗北で決着した。そこで今後の指示をするのでよく聞け。まず田や荷運び道に転がっている、同志のむくろを片付けろ。回荷や馬を使って割棉山の北麓に穴を掘り、埋めること。その後、荷運び道の血を洗い流せ。」


 戦闘の事後処理を申し付けたあと、この地で働きたい者の処遇にも触れた。


「次に倭台市で働く意思のある者は申し出よ、家族共々引き受ける。武術に長けておれば兵に取り立てる、工職作業が得意なら希望する工房に入れる、米の収穫を手伝うなら農村が迎える。倭台市民になることが嫌な者もいるだろう。遠慮はいらぬ、申し出て去れ。」


 ハツタ村長と五人の耕作人が、捕らえた十人に犠牲者の片付けを指示する。


「さあ、割棉山の麓に七十人を埋める穴を掘ろう。必要な道具は貸すので言ってくれ。死体を運ぶのは大変だろうから、米を詰める薦袋を用意してやろう。何度も往復せねばならないが、其方らがいた種だ。頑張ってくれよ。」

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