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倭都タケル=吾のまほろば=  作者: 川端 茂
第七章
83/108

農民の避難中に蛮族が現れ、軍と激しい戦いが展開

 村長の家が近付くと若い男がひとり、こちらに走って来る。何か慌てているように見える。目の前まで来ると、地面に座って叫んだ。


「どなたがマキム大王様の御一行を案内されているエル帥様でしょうか。手前はハツタ村長の遣いでハクサと申します。折角お越し頂いたのに一大事が起こっておりまして、ご案内出来ないかもしれず、お知らせに参りました。」


 前に出たエル帥が、座って叫んでいる男を立たせて話すよう促す。


「何事だ、村長は家にいるのか。一大事とは何か、詳しく話せ。」


「へい、村長は米倉です。実は今朝早く、割棉さくめ山の向こうで蛮族が集まり、この集落を狙っていると伝助が知らせに来ました。村から十人が蛮族の偵察に行き、伝助と村の者三人が防衛兵のお願いに、市へ走っているところです。」


 これは大変なことだと、エル帥は焦った。まさかの出来事なので武装しておらず、訪問の一行も丸腰だ、万一でも危害が及べば、帝の顔に泥を塗ることになる。


 じきに防衛兵が駈け付けるから、市中へ避難しようと決め、トウ・リン将軍に一行の守護を指示した。


「仕方ない、農場は眺めただけで終わったな。御一行は、急いで安全な市中へ引き返して下され。トウ・リンは、一行の警護をせよ。拙者は防衛兵を待つ間、村長に会って防戦の手配をする。村の者が見えないな、何処へ行ったのだ。」


「村の者は米倉を護るため周りの柵を強固にし、外側にまきをばら撒き、蛮族が入れないようにしています。」


 エル帥の手筈は正しいとコウスは思ったが、我々だけが安全な場所へ避難するなんて出来ない。

集落の女人や童子、病んだ民もいるだろう。蛮族から護るべきは、収穫物より農民の命ではないか。


 出過ぎた真似かもしれないが、エル帥に断りを入れ、遣いのハクサに問うてみる。


「伝助の知らせは確かなのか。集まっていた蛮族とやらの数は多いのか。」


「へい、まだ偵察の者が帰っておりませんが、伝助が見た話では武装した族が馬に乗って、三十人くらいかと。」


 蛮族がいつ仕掛けてくるか、防衛兵が何人駈け付けるか、どちらが先かも分らないが、手をこまねいている間はない。

 巻き添えにしてはならない女人や童子を、急いで避難させる手筈をエル帥に確かめ、提案もしてみた。


「女人や童子が一緒に防戦すれば、掴まって殺され、たてにもされて犠牲が増えるばかりか、足手纏あしでまといにもなります。今すぐ割棉山の反対方向へ逃げるよう伝えませんか。良ければ我々が集落へ走り、誘導いたします。」


 村長の家へ歩き出したエル帥は、女人や童子は米倉内に避難させる考えだったが、もしも火を点けられたり、侵入されたりした場合は手に負えない。

 うなずいてコウスの提案を受け、避難の誘導を依頼した。


「大切な客人に、そのような危ない役目を頼むなんて申し訳ない。時が迫っておるので、民の誘導を願う。トウ・リンは避難者の最後尾に付いて、訪問者と民を蛮族から守れ。」


 まだ蛮族が仕掛けてくる様子は見られない。コウス一行十一人が二十ある集落に散り、女人と童子を集めて、割棉山の反対方向へ誘導する。

 幼子を抱えたり病む人を背負ったり、走れる童子の手を引いたりして、避難が始まった。


「来た。足元に気を付けて、急げ。」


 集落の騒ぎに感付いた蛮族が、割棉山の西麓に姿を現した。

 その数およそ五十騎で、黒い槍を高く掲げて田の土を蹴散らしながら迫る。その後ろに回荷や空馬を引いた、荷役者三十人ほどが付いている。


 時を同じくして、倭台市の防衛兵が警笛を鳴らしながら、騎馬隊七十人と徒歩隊百三十人で姿を見せ、坂を下って近付く。


「おぉ、防衛隊が来てくれた。もう安心だ。」


「かかれー。」


 防衛隊長のサイヤの号令で、蛮族と倭台軍が正面から激突。騎馬が入り乱れて、倭台の赤い槍と蛮族の黒い槍が、離れては突進を繰り返す。

 槍と槍、槍と剣が弾ける乾いた音が響き、血飛沫が散る激しい戦いが展開される。


 ここは足場の悪い稲田の中、転倒した馬から落ちた蛮族に赤い槍が刺さり、雄叫びと悲鳴が絶え間なく交錯。

 馬数で圧倒する倭台軍は、二騎が一騎を挟む攻撃と守りを兼ねた戦法を取っているため、次々に蛮族の馬数が減っていく。


 訓練を重ねた倭台軍と戦えば、武力と連携の差は歴然。次第に蛮族の騎馬が孤立し、後退を余儀なくされる。

 そこへ倭台軍の徒歩隊が加わり、騎馬を囲んで槍で攻め込む。徒歩隊は集落に詰め寄る荷役者にも襲い掛かり、容赦なく殲滅してしまった。


 生き残った蛮族の十騎が、敗走態勢を取る。だが徒歩隊が行く手をさえぎり、馬から引きずり下ろして捕らえた。


 凄絶せいぜつな戦いは半時足らずで決着し、集落に被害はなかった。捕らえられた蛮族は後ろ手に縛られて、荷運び道で力なく正座している。


十  

 ハツタ村長とエル帥が倭台軍に走り寄ると、防衛隊長のサイヤが片膝を突いて二人を迎えた。エル帥が立って話すように促し、ねぎらう。


「蛮族の防衛、御苦労であった。立派な戦いぶり、見事であったぞ。こちらの兵に被害はなかったか。」

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