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倭都タケル=吾のまほろば=  作者: 川端 茂
第七章
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縄撚り工房でエル帥は、コウスの態度に疑念を感じる

 縄撚りはマサキが職人なので、案内をお願いしたいとニコルが告げて、後ろに下がった。

 少し後ろで見学していたコルノは、ニコルの落ち着いた素振りや感想を聞いて、育ちや人格の違いを思い知らされた。


---ニコル様が美しい女人だからではない、口調や態度を見習えと、コウス皇子は伝えたかったのだ。拙者は倭南州の首長だから、これも勉強だ。


「縄を撚る職人が同道しておりますので、ご案内戴けますか。後ろで訳伝役をしているマサキです。よろしくお願い致します。」


 先頭に出たマサキが辰韓の言葉で挨拶すると、エル帥はうなずいて縄撚り工房を指差した。

 だがその表情に笑顔はない、マサキよりニコルと並んで歩き、話したかったようだ。


 山手を半丁歩くと前庭が広く、数台の回荷が並んだ大きな工房に着いた。入口手前にわら(よし)を縛って積み上げた小屋があり、中では十人の職人が忙しそうに働いている。

 エル帥が先頭に立って、壁伝いに大きな風通し窓の方へ向かう。


「足元の藁を踏むと滑るので、気を付けて入るように。工房は二軒あり、細い縄から太い綱まで引き受けておる。建築や橋、運搬に必要な縄は引き合いが多く、海の向こうへも出荷するので、壷と並んで倭台の主力産物だ。今は縄を撚っておるので、作業が一望できる窓の下へ行こう。」


 マサキが最初に注目したのは、材木を組み立てた高さ三尺ほどの撚り道具だ。職人が持手を回すと、藁の束が回転しながら吸い込まれていく。その光景にマサキは目を輝かせて見入る。


「おお、てのひらで撚らなくても、差し込んだ藁束わらたばが勝手に回って撚れている。あの凄い道具は、この市でお考えになった物でしょうか。」


 エル帥はそれに返答しなかった。マサキは隈伊くまいの職人だが、都がある纏向でも撚り道具はなく、細々と手で撚っていると聞き、可笑しさが抑えきれない。


「手撚りでは間に合わない量を方々から求められ、職人が工夫しているうちに、こうなったのだ。」


 道具によって回転させ撚った縄は、撚り目も太さも揃って丈夫そうだ。そのうえ早く作れて、次に控える職人が不良の有無を調べている。


「実に素晴らしい。きちんと長さを測って巻き取っているのも凄い。手前は近隣の農家だけでなく、倭台にも稲を束ねる縄を納めております。工夫して良い縄をお届け出来るように致します。」


「改良の工夫は、現場でないと出来るものではない。其方なら良い縄が作れる。」


 纏向の一行は倭台市の、進んだ製造技術を目の当たりにして刺激を受けた。エル帥は市中案内役として、いささかでも励みになっただろうと満足した。


 ふとエル帥は、マイヤ、シモンと並んで歩いているコウスを見た。表情を変えず黙って歩く態度に、得体のしれない疑念を感じた。

 

 市中を見聞したいと帝に希望したコウスは、一体何を求めているのか。

 この案内方法では気に食わないのか。それを探らねば終われないと思い、ひと息入れようと足を止める。


「そろそろ昼時です。食事処で昼飯を用意しておるので、案内しましょう。昼飯の後は、田畑が広がる農村へ向かう予定ですが、よろしいかな。」


 先頭を歩くエル帥の横に、コウスとマイヤが付いた。案内中、次第に一行を見下した言葉遣いになったが、一変して丁寧な口調になった。

 我々はマキム天皇の代理ではなく、個人の希望として市中散策を依頼した。エル帥の変化を感じたコウスは、ねぎらいと感謝を示そうと横に付いたのだ。


「朝からのご案内、有難うございます。交易倉庫はコルノ、焼き物はニコル、縄撚りはマサキに丁寧なご説明を頂き、手前も一緒に拝聴させていただいて、とても勉強になりました。昼からも続いてお願い致します。」


 マサキの訳伝で、エル帥はオウスがあらかじめ見聞役を決めていたのだと、前に出ず黙っていた疑念を払った。だが釈然としない何かが、まだ心に引っ掛かっている。


 エル帥の顔付きが固いので、すかさずマイヤも感謝の言葉を述べる。


「倭台市の主要産物をご紹介頂き、我々にとって今日の見聞は、このうえない財産を得た心境です。纏向を拠点とする倭都もマキム天皇の指令で、難波に交易津を建造しておりますので、少しでも倭台市に近付けるよう、励む所存です。その節は、ご指導賜りたく願います。」


 一丁ほど歩いて食事処に着き、先にエル帥が入った。中で食事の手配などを話している間、外で待つ。風はあるが日差しが温かく、それほど寒くはない。

 後方でトウ・リンが一行を警護しているので、気付かないようにマイヤがコウスの耳元で囁く。


「エル帥は、我々を警戒しておりませんか。市中散策を装い、何かを詮索しているとでも思っているのでしょうか。」


「いや違うと思うが、表情が硬いのは気になる。」


 しばらく待つと、若い女人が中に入るよう手招きして、食事処の入口扉を大きく開けた。

 女人の案内で区切られた奥の室に入ると、給仕らしき女人四人とエル帥が、入口で立って待っていた。中央に全員が座れる卓があり、すでに料理と酒杯が並んでいる。

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