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倭都タケル=吾のまほろば=  作者: 川端 茂
第七章
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石畳の道や巨大倉庫に感激するコルノに、コウスは

 納得したのか、諦めたのかエル帥は、女人を呼んで酒壷と杯を受け取り、コウスの杯に酒を注ぐ。


「明日の案内役、お任せくだされ。卓越した剣豪で、戦略家の御仁ごじんに拝謁出来たこと、喜ばしく存じます。市中を散策しながら、拙者も学ばせていただきます。」


「勿体ないお言葉。恐悦に御座います。明日は宜しくお願い致します。」


 二人が酒を酌み交わす姿を見て帝は安堵し、自らも女人からの酒を呑み干す。隣のトウ・リンも呑みながら、気性の荒いエル帥が大人しく対応したことを喜んだ。


 祝宴が御開きとなり、訪問の一行は誰も彼も相当酔っていた。女人の案内で一泊する広い客間に通され、本来は別の部屋になるコウスも、一緒に入った。

 同部屋になったのは、明日の散策と見聞を話し合うための、帝の計らいだろう。


 二日目の夜が明けた。昨日のどんより雲の空が、嘘のように晴れ上がって清々しい。


「お早うございます。入ってよろしいでしょうか。」


「どうぞ。」


 トウ・リンが客間の扉を開くと、美しい女人十一人が朝餉の皿と茶を部屋の横に並べる。


「長旅でお疲れとは存じますが、市中散策を心待ちにされておられるかと、少々早目の朝食をお持ちしました。ごゆっくりお召し上がりくだされ。」


 隣の部屋で泊まったニコルと世話人が加わって、大きな卓に配膳し、全員揃って朝餉を囲む。


「まだ酔いが醒めぬ。頭が痛い。強い酒だったが美味いので、少々呑み過ぎた。」


 マイヤが頭を叩きながら、呑み過ぎを反省する。ケイシも美味かった酒を讃える。


「辰韓の酒は、知らぬうちに酔ってしまう。下手すると、あの席で吐いて潰れていたな。貰って帰りたい美酒だった。」


 ニコルは料理の味わいに堪能したようだ。また高尾ではむしろに敷く布団だが、寝台に乗った布団は柔らかく、心地よかった眠りに喜んでいた。


「料理も美味しかったので、たくさん戴きました。私は台が付いている寝床が快くて早く寝付け、朝まで目覚めませんでした。酔いもあったでしょうが。」


「台に乗った寝床は寒くない。辰韓は、あれが普通だろうか、羨ましいな。」


 口々に祝宴の楽しかったことや、寝台の快適さを話しながら、朝餉を頬張る。食事が済んだ頃合いを見てか、エル帥が入って来た。


「よく眠れましたか。準備が整い次第、出発しようと思うが如何かな。民には普段の動きや働きが見えるよう、何も情報を与えていない。今日はいい天気だ、楽しいぞ。」


 エル帥の身なりは、私的な外出や市を視察する際に着る、形式的でない感じの衣服で、胴巻もせず剣も腰に差していない。

 エル帥の衣服を見て、暴動や喧嘩のない平和な市だとコウスは察した。

 倭都の正装で出る予定だったマイヤが、旅の気取らない服装で良いか尋ねる。


「我々の服装はどう致しましょうか。倭都の正装以外に、旅の衣服しかございませんが。」


「旅の衣服で良い。正装だと民がかしこまるので都合が悪いだろう。工房や作業所に足を踏み入れることもあるし。では準備が整い次第、玄関へ下りて来るように。そこでトウ・リン将軍と待っておるから。」


 コウスはエル帥の気遣いに感謝し、懐剣だけは身に付けると断りを入れた。平和な市でも何が起こるかしれず、警戒を解く訳にはいかない。


 出発の支度を整え、一行は議事舎の玄関に下りた。扉の中には美しい女人と役人が五十人、外には剣礼で迎えてくれた兵が、百人ほど整列しているらしい。

 扉が開くと、胴巻きと剣で身を固めたトウ・リンと、懐剣だけのエル帥が外から入って、コウスの前に立つ。


 ところが困ったことに、ハル・サイマ帝の姿が見えない。挨拶なしで出発して良いのか戸惑ったコウスは、エル帥に問うてみる。

 市中散策から戻った夕刻には、すぐ火良村へ出立したい旨を、帝に告げていないからだ。

 もう一泊せよと言われても、征西隊の帰還を伸ばす訳にはいかない。


「ご案内よろしくお願い申す。ハル・サイマ帝に御挨拶したいが、さて何処に……。」


 その言葉を待っていたのか、すぐさまエル帥が言葉を返してきた。


「帝は所用があり、御見送りは失礼すると仰せられた。加えて市中散策は、纏向と倭台のおおやけの交流ではなく、コウス皇子と拙者の親睦にするので、羽を広げて楽しめとも仰せられた。戻る頃には御見えになられる。さあ、出発しようか。」


「皆様お気を付けて、行ってらっしゃい。」


 大勢に見送られて、津の奥に並ぶ倉庫らしき大きな建物に向かう。朝から作業人らしい人が大勢出て、荷を運び込んだり、回荷で船に積み込んだりして活気に満ちている。


 訳伝役は一人しかいないので、常にマサキがエル帥の後ろに付いて、双方の会話を伝える。


 周囲の兵舎や工房の建物や、人の服装などを眺めていたコルノが足元を指差して、誰にともなく大きな声で叫んだ。


「あれ、この辺りは津から離れているのに、道がずっと石畳になっておる。雨で足元がぬかるまないようにしているのか、天気が良くても歩きやすいな。」

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