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倭都タケル=吾のまほろば=  作者: 川端 茂
第七章
78/108

倭台市散策を希望すると、ハル帝がエル帥に案内役を

 全員が一斉に杯を高く掲げ、声を揃えて乾杯する。室の煌びやかな装飾も、微かに揺れて呼応したように見えた。

 緊張で大切な同道者の紹介が遅れたので、ここを逃がしては出来なくなると急いで紹介に入った。


「恵枇の砦で、幾度も命を護ってくれたニコル女剣士とマイヤ隊長、シモン副隊長を紹介致します。」


 マイヤとシモンは津で帝に顔合わせをしたが、ニコルはしていなかったのだ。三人は名を呼ばれた順に、席を立つ。


「この三人は西国への道程でも、苦難に遭う度毎たびごとに対策や知恵を提案してくれ、敵の嗅助から逃れる事が出来ました。手前にとって命の恩人であり、また目的達成の要でもありました。」


 三度目の大拍手が室にとどろいた。女人がニコルとマイヤ、シモンを囲み、酒を勧める。


 我が武勇伝ではなく、仲間を賛辞することを忘れないコウス。帝は、マキム大王の教えを受け継ぎ、立派に育っている人物だと感心し、息子のエル帥もこうあって欲しいと思った。


「祝い料理はたっぷりあるので、どんどん呑み、遠慮なく平らげて良いぞ。そうだ、コウス皇子から山ほどの土産物や農機具、工職具を頂戴していることも伝えておく。今日は嬉しい日だ、無礼講にしよう。自由に席を変わって、倭都の諸氏と女人も入り乱れて騒ごう。」


 早速トウ・リン将軍がコウスの横に座り、酒を勧めてきた。あまり呑むと、針間の宴のように酔い潰れるので、少しだけ戴いて返杯する。

 次に帝が横に座ったので、兄に嫁いだハルタヒメの近況を伝える。


「ハルタヒメ様はお元気で暮らしておられます。婿の兄は賊に連れ去られて行方知れずになり、父は一年間捜索しましたが、無事に戻る願いを断念し密葬を決意しました。その後のハルタヒメ様は持ち前の明るい御性分で、女人と仲良く童子に優しく接し、宮廷で読み書きを教え慕われております。」


「そうか、兄上は不運だったな。あの神々しかった祝言を挙げて三年だから、もう十六歳になると言うことは、コウス皇子と同い歳か。ハルタが元気で良かった。あの祝言は感動した、今でもまぶたの奥に鮮明に甦るぞ。」


 しんみりした帝とコウスの会話とは裏腹に、宴席は盛り上がって倭台の兵や役人、訪問の一行、美しい女人が入り乱れて騒いでいる。訳伝のマサキも、いつの間にか宴席に溶け込んで楽しんでいた。


 ニコルは数人の兵に囲まれて、話し相手をしている。西国に向かう道程の奇策や、砦での活躍を聞かれているのか。倭南州のコルノ当代は大きな地声で笑い、また笑わせている。


「気さくな御方ばかりで、我々一行は古い友に再会したかのようです。今夜は泊めて戴き、明日は倭台の市を歩いて、交易や工職などの一端でも学びたく考えております。新しい倭南州の当代も飛び入りして、学習を望んでおりますので。」


 注いだ酒を煽り、赤くて辛い料理を口に運びながら、帝は感心した。


「コウス皇子は、どこまでも学びに熱心だな。そうだ良い案がある、市中の案内役は余の息子エルと、トウ・リン将軍にしよう。商人や職人に直接会って、話を聞くことを許す。あの快活なコルノ当代の望みに沿えばよいが。」


 顔を赤くしたトウ・リン将軍を呼び付けた帝は、エル帥を室に来るよう、そしてコルノ当代もコウスの横に座るよう指示した。

 それを聞いたマサキ訳伝役が、帝の息子は倭都語が話せないだろうと、急いでコウスの傍に戻ってきた。


 しばらくして、呼ばれたエル帥が帝の横に座り、コウス一行を鋭い目で見回す。


「お呼びと伺い、参上致しました。祝宴は盛り上がっておりますね。」


 帝の第一子で二十四歳のエル帥は、勇ましそうな体躯で目付きは厳しく、声も太くて威圧感がある。


「おう、呼んだのは他でもない。明日の朝から三時ほど、トウ・リン将軍と二人で、倭都から訪問された御一行の市中案内を申し付ける。目的は交易倉庫や工職現場を見て歩き、出来れば商人や職人の話を聞きたいとの仰せだ。」


 なぜ自分が市中案内を……と、怪訝そうなエル帥。帝はそんなことはお構いなしに、コウスを紹介する。


「余の前におわす御方が、倭都マキム大王の御子息コウス皇子である。コウス皇子は八日前に、恵枇タケル国主を見事討伐し、その報告と我が軍の応援の返礼に、わざわざ訪問してくれたのだ。嬉しいではないか、多くを見聞して回り、倭台市を知ってもらいたい。」


「承知いたしました。準備を致しますので、下がってよろしいでしょうか。」


 まだ下命された、真の意味を汲み取れないでいるエル帥に、帝が説得を始める。


「少しで良いから、コウス皇子とコルノ当代と酒を御一緒せよ。其方を選んだのは、先々この倭台市を背負う立場だからで、コウス皇子も同様に纏向を治める。すれ違いでは勿体ないではないか。」


 優しい声の帝。エル帥を諭すように、またコウスやコルノにも聞かせるように話を続けた。


「遅かれ早かれ、施政者は代わる。だが変わらず倭台、倭南、纏向が強い連携を保っておれば、針間や伊勢とも絆が深まり、倭都国は盤石となって反乱や内戦が失せる。エルとコウス皇子が、将来を見据えて手を組む良い機会だ。任されてくれるか。」

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