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倭都タケル=吾のまほろば=  作者: 川端 茂
第六章
72/108

船内で討伐の話が出て、まだ終わっていないと断る

 朝食は赤米と海苔の吸い物に、細長い焼き魚と貝が添えられた海産物の料理。高尾や纏向に住む者にとって珍しく、誰もがうなずきながら味わった。


「美味しいですね、力が漲ります。」


 喜んでくれたと笑顔のタルシが、酒も出しましょうかと聞いたが、これで十分とコウスが丁重に断りを入れた。


「ではそろそろ、桟橋の方へお願い出来ますでしょうか。」


 桟橋へ向かうと、荷積みを終えた幅の広い船が係留されていて、船員や荷役人、櫓の漕手が桟橋に並んで迎えてくれた。


「ようこそ、倭台市への御一行様。お待ちしておりました。」


 この船の船長らしき男が、後ろへ身を反らすほど背を伸ばして迎えの言葉を発し、腰を折って深く頭を下げる。すると後ろに並んでいる船員や荷役人、櫓の漕手も一斉に深く頭を下げた。

 まるで軍隊の迎礼のように、揃って毅然とした動きに一行は驚き、目を見張る。


「船乗りで、この美しい礼儀は凄い。」


「交易の船だから各地に赴くので、敬意を表すために身に付けたのだろう。」


 すでに乗船口に渡り板が架かっている。船員たちは二列に分かれて一行の通り道を作った。

 コウスを先頭にして、十一人が乗船口に向かう。コウスが前に来ると深く頭を下げ、全員が通り過ぎると背を伸ばす。これも美しい礼儀だ。


 乗船すると船長らしき男が立っていて、屋形へ導く。幅の広い甲板に設えた屋形は、ひと部屋に八人が座れる仕切りで、ゆったり寛げる余裕が感じられる。

 先に乗船したコウスとマイヤが、ひと部屋二人、四人、五人に分けて、宿舎と同じ配分に指示した。


 漕手の掛け声が響き、船はゆっくり進み始めた。海は静かで、船の幅が広いためか揺れもない。部屋もゆったりして快適だ。

 船は滑るように海洋に出た。それを見計らってだろう、船長がコウスの部屋に訪れて、入口で正座した。


「ご乗船、有難うございます。皆様はマキム天皇の代理の御方と聞き及んでおります。それがしは船長を勤めております、タクラと申します。航行中、船員の御無礼があるかと存じますが、何卒ご猶予をお願い申します。」


 船長の丁寧な挨拶を受けて、船中なのでマイヤが膝で立ち、コウスを紹介し、自身とシモンも紹介した。


「交易船に相乗りし、また突然の事で迷惑とは存じるが、三室十一人の面倒を宜しくお願い申す。倭台市へは、コウス皇子の恵枇国主討伐に於いて、援軍派遣の礼節に向かうためであり、我々十人は同道者である。」


 マイヤの応礼を聞きながら、船長はコウスの方へ膝を向けた。


「コウス皇子様、よろしくお見知り置き下さいますよう、お願い致します。ちまたの流言話ですが、恵枇国主討伐で目を見張るご活躍と……。」


 マイヤが手を上げ、船長の話を封じた。船長は驚いて口をつぐむ。



十一  

「すまないが船長、まだ恵枇国主討伐は終わっておらぬので、その話は無用に願いたい。倭台市のハル・サイマ帝にお会いして戻り、ようやく討伐が決したことになる。」


「大変失礼いたしました。平にご容赦を。」


 慌てた船長は平伏して許しを乞う。まさか討伐が決していないとは。祝辞を用意していた話が失言だったのか、その理由を聞くことも出来ず困惑する。


 倭台市へ赴く途中で、浮いた戦勝の話題はコウスが止めている。マイヤが話を封じたのは、討伐や戦勝の話は征西隊全員が揃ってこそで、今は場が違うからだ。


 コウスは交易が盛んで、繁栄している市を治めるハル・サイマ帝は、どのような人物か、賑わっている市の状態や民は……。

 直接帝に会って話が聞きたいと、期待が膨らむ一方、頭の何処かに恐れの緊張もある。


「いや船長、失言ではない。戦さは勝ち負けに関わらず禍根や後悔が残らないよう、吾は処置が済むまで終わっていないと教わっておるので……。驚かせて悪かった。」


---この皇子はまだ若い。それほどの戦禍を踏んだとは思えないが、君主としての広く、気高い思考で側近たちを掌握している。マキム天皇の、人間大事の教えで育っていて、いずれ倭都の守護神になる人物だ。


「有り難い仰せ、恐れ入ります。もうすぐ於訳津に着き、荷を下ろします。於訳は交易の市で多くの人民が暮らし、大そう活気に満ちております。およそ半時お待ちいただきますが、その間に於訳の家並みや景色など見物されては如何でしょうか。」


 まだ津は見えないが、大きな交易津らしい。於訳も交易の市なら、ぜひ観てみたいとコウスは胸が躍った。


「そうさせてもらおう。下ろすのは、船の後方に山ほど積んでいる荷だな。何を運んで来たのだ。」


「荷が何かを申し上げる訳には参りません、某どもは一介の荷運び人ですので、ご勘弁を。ただ帰りに立ち寄って、米や建築材料、反物をたっぷり積み込みます。」


 船の荷運び人が、たとえ天皇代理であろうと守秘義務は守って然りだ。

 コウスは帰りに積む荷が米や建築材料、反物といった生活品なら、積み荷は軍備品や武器だろうと想像できるが、それには触れず、黙って海を眺めた。


 於訳津に着くと五本の桟橋が突き出て、船はその左端にある最も長く、幅の広い桟橋に横付けした。

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