表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
倭都タケル=吾のまほろば=  作者: 川端 茂
第六章
70/108

己実の提案で航路に変更、そこへコルノ当代も同行を

「倭台市はそんなに遠いのか。留守を預かる者に十八日も待たせるうえ、途中に山越えがあり、同道者と馬の疲労や怪我も心配だ。もっと早く行ける道はないのか。」


 すると見送りに来ていた己実みみのタルシが、何やらシウリに耳打ちして船なら早く着くと、コウスに言ってきた。


「誠に失礼とは存じます。道案内の方と馬の手配もされた後で、言いにくいのですが、往復十八日がご負担でしたら、船を使われてはどうでしょうか。明日、於訳おわけへ荷物を運ぶ便があり、その船で倭台市の津まで足を伸ばし、急げば四日で着きます。」


 タルシの提案に驚いたコウスが、航路を詳しく聞きたいと尋ねる。


「倭台市までの船路は、ひどく大回りと聞いていたが、そんなにも早く着く方法があるのか。」


「己実津から北の羽経はねけまでは追い潮ですので、船の速度が出ます。於訳津まで半日、芦野あしのまで一日で、海が荒れれば宿泊できます。その後は向かい潮になりますので、三日の船内泊をお願いすることになります。倭台市で滞在されるなら、津で待機させていただきます。」

 

 津で待機するとは、帰りも船で四日だ。喜んだのはコウスだけではない。ニコルは一日も早く高尾に帰還したいので、満面の笑みを浮かべている。


 マイヤも七人が騎馬で、朝早く出て夜に着く日が往復で十六日も続けば、怪我や病いが生じたり、風雨に祟られたりすれば、さらに日程が増えると心配していたところだった。

 

「これは重々有り難い。ではタルシ当代の船に同乗させてもらおう。道案内人の二人も同行して、辰韓人との通訳と口伝に勤めてもらう。馬は折角だったが無用になったので、荷役馬三騎とともに己実津まで使いたい。」


 突如、倭台市行きが航路に決まった。十八日の行程が十日で戻るのは、火良村で留守を預かる者にとっても嬉しい。


 十人がシウリ首長と、街道の村人に出発の挨拶をして、留守の間は伊勢の弓士二人に任命し、馬首を己実方向へ返した。


「さあ、急いで出発だ。タルシ当代、世話になるが宜しく頼む。」


 そこへ、新しく倭南州の当代に就いたコルノが、軍隊長と政務官三人を引き連れて来た。急ぎの出発を止められ、マイヤが顔付きを変えてコルノに迫る。


「お前たち、何用か知らないが我々は今から出発する。用があれば留守役か、シウリ首長に話せ、無礼な。」


 五人を無視して、騎馬を進めようとあぶみを蹴る。だがコルノが、マイヤの騎馬の前に走り出て座り、両手を前に上げて叫んだ。


「お願いです、拙者ひとり同行させて頂きとう御座います。この倭南州を治める者として、倭台市で見聞を広げ、人民や政治の一端でも学びたいと存じます。決して皆様の邪魔は致しません、ご無礼とは存じますが、何卒ご同行の御許可をお願い致したく。」


 真っ当な気持ちで同行を持ち掛けたのか、何か裏があるのか……。コウスは半信半疑だが、ここで議論するには時が足りない。

 ひとまず己実津まで同伴し、着くまでに真偽を見極めればいいと考え、シウリを呼んで馬を一頭加えた。


「コルノ当代、同行は其方だけだな。決まった訳ではないが、己実津への道中で詳しく話を聞き、皆で決める。それで良いか。」


「皆様、お願いいたします。」


 願いが叶ったコルノは、喜色満面で十人に頭を下げて回り、シウリが引いて来た馬に乗った。

軍隊長など他の一行は、礼を言って引き返した。コルノはコウスとマイヤに挟まれた状態で、己実津へ進む。

 真偽を見極めるため、マイヤが敢えて脅す声と口調で質問する。


「我々との同行願いは、いつ誰が考えたのだ。」


「昨日です。使いの者がシウリ首長に、政務舎の見取りをご検分いただきたく、お伺いした時です。首長は明日の昼、倭都タケルのみことが倭台市へ向かわれるので、帰られてから検分すると仰せられました。その時、拙者も倭台市を知っておくべきと、心が騒いだ次第です。」


 同行願いの理由を答えたコルノ。マイヤはその弁に何も反応せず、コウスに質問を譲った。

 コウスはシウリから検分の件は聞いていたが、道案内人に聞くまでは六~七日後に戻ると思っていたので、帰ってから検分すると答えていた。


「其方の思い付きで倭台市へ行くと言って、誰も異論や反対はしなかったのか。」


「軍隊長が背中を押してくれました。今後さまざまな優れた技術や通商を学べる倭台市に立ち、市中を歩いて人民の暮らしや工房を見学し、倭南に帰って役立てることを、失礼ながら考えた訳で御座います。」


 倭南州の政務を前向きに考えているコルノ。これが真意なら任命して間違いなかったと、コウスは思った。

 行く道で、残留者の気持ちのあり方、働き状態についても聞いた。


「誰もが倭都タケルのみこと様の、風神と見紛みまがうほどの精錬された戦いぶり、倭都マキム天皇の御言葉を代弁された威厳に、心から感服致しております。」


 今までの恵枇とは、施政方針が大きく変わったので、苦情を言う者が出ると思っていたコウスは、くすぐったい誉め言葉を並べられ、返事に困った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ