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倭都タケル=吾のまほろば=  作者: 川端 茂
第六章
65/108

征西隊も娘子も火良村へ、だがコウスの衣装と剣が

 征西隊は全員無事で、宿舎へ戻った。誰も皆が目的を果たして、表情は晴れ晴れとしている。


 後方警護隊は、柵の外で王宮の二人と村の娘子の安否を見守っていたが、祝宴が始まってすぐ国主が傷を負った。

 そのため兵たちの目が王宮に釘付けになったため、荷役人に紛れていた者はひとりも見破られず、下方での戦闘や揉め事はなかった。


 唯一、王宮でコウスとニコルが国主に近付き、激しく戦っていた時、伊勢の三人が柵外から弓兵を射て援護しただけで結末を迎えた。

 後方警護隊にとって、拍子抜けの感もあったが、無事に目的を達成し脱出できたのは、何事にも替え難い喜びだ。


 まずニコルと世話係の女人が、窯で顔や手の血を洗い流し、祝宴の衣装を村で用意した着物に着替えた。

 続いてコウスが窯に入り、後から入ったシウリが、コウスの頭髪から足まで、おびただしい血痕を洗い流した。


「いやあ、これは凄い血です。目や鼻、口にも入っているのでは。湯が足りないので、沸くまで少々ご辛抱願います。柱の所で何人斬ったのですか。」


「分からない。必死だったので何も覚えていない。」


「手前が見ておりましたところ、三十人か四十人くらいは斬ったように思います。たったひとりで凄いですね。」


「そうか。死ぬのは国主だけで、兵や役人まで巻き添えにしたくなかった。」


 不思議そうな顔をするシウリに、コウスは殺された者には家族がいる、どこかで無事であることを願っている。戦場なので覚悟はあっても、家族にとっては悲しいと言った。

 シウリは連れ出された娘子が心配で、居ても立っても居られなかった祝宴を回想し、大勢斬り殺したコウスを讃えた自分を恥じた。


 窯で血と汗を流したコウスは、白い着物と蒼の袴に着替えて宿舎に戻った。戦った衣装は伊勢から持参した物なので、シウリが洗って干さなければと、畳んで竹籠に入れた。


かぶった血は取れそうもないですが、出来るだけ綺麗にしてみます。それにしても、元々の蒼より血の赤の方が多いとは。」


 畳んだコウスの衣装が異様に見えたマイヤは、竹籠から出して驚いた。コウスとニコルを呼び、むしろに広げて叫んだ。


「これは、どう言うことだ。コウス皇子、其方が着ていた衣装は切り裂かれ、無残な状態になっております。右の振り袖は切り飛ばされていますが、其方は一度も斬られておられないのですか。」


 まさかと、コウスが手に取って驚愕した。マイヤの言うとおり肩や胴部、腰から裾にかけて十ヶ所以上切り裂かれ、背中も二ヶ所切られているではないか。

 それも引っ掛け破れでなく、確かに剣の斬り痕だ。コウスは背筋が震えた。


「吾は酔っ払った敵の剣をかわし続け、一度も斬られなかったと思っておった。だがこの斬り痕は何だ、普通なら吾は何回も死んでいる。背中は二本とも致命傷の斬り痕だが、神剣の鞘が護ってくれたようだ。」


 最も近い場所で戦いを注視していたニコルも、衣装は剣の痕と認めて目を見開いた。しかしニコルは立ち回りの情景を思い出し、コウスが斬られなかった理由はあると言う。


「コウス様の動きが速くて、衣装が大きく振り乱れていました。振袖は横に広がって回ったりもして、コウス様の身体がどこなのか、分からないほどでした。敵は衣装に惑わされたと思います。」


「衣装が隠れ蓑になったと申すか。だが、ひと振りも身体に届かなかったのは、幸運としか考えられない。」


 この騒ぎで、針間のシモンが宿舎に入って来た。無残に切り刻まれた衣装に驚いたが、傍らに置いてあった神剣を、恐ろしい物でも見るように指差した。


「コウス皇子はあの剣だけで、向かって来る兵を何十人も倒し、恵枇タケル国主も断ち斬ったのですか。」


「そうだ、この神剣で斬った。シウリが血は綺麗に落としてくれたが、何か気になることでも。」


 コウスは黄金色に輝く鞘から、剣を抜いて見せた。


「その剣に付いた血糊は、シウリ首長とケイシが拭き取って、綺麗にしたのです。ケイシが言うには、コウス皇子は大勢の兵を斬り、飛んできた矢も斬り落とした。そして最後に恵枇の国主の兜から胴体まで、ひと振りで断ち割ったとお聞きしたそうですが、刃のこぼれが全然ないのです。」


「相手は武具を付けておらなかったが、数えきれないほど剣や槍を払った。柱や梁に当たることもあった。いくら刃が鍛えられていても、刃毀れはあるだろう。」


 コウスは手にした神剣の、剣先まで刃を見回すが、確かに何処にも刃毀れはない。


「本当だ、何処にもない。囲まれて剣や槍を払ったし、飛んできた矢も斬り落とした。それなのに何故だ。」


 思い起こせば、隠れたところから向かって来た剣や槍を、意識する前に神剣が何度も払った。飛んできた矢を斬り落としたのも狙ったのではなく、神剣が勝手に動いた。これはやはり、神の剣なのか。


---伊勢の叔母様、手前がこうなる事を予知して、神威を秘めた御衣と御裳と神剣を、授けて下さったのですか。叔母様は命の恩人です、目的も果たせました。何と感謝して良いか。

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