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倭都タケル=吾のまほろば=  作者: 川端 茂
第六章
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祝盃を終え、残留兵への施政の沙汰をマイヤに相談

 まだ日は高い。征西隊は昼飯を食べていないので、村の女人が大きな握り飯と茶を運んで来た。

男衆は、方々から集めた茣蓙ござをシウリの家の前へ敷き始める。

 茣蓙は街道まではみ出て、相当数が座れるまでになった。


「宿舎で別々に食べるより、皆様ここで御一緒して頂けませんか。花見遊山のつもりで食べて呑んで、騒いでください。」


 村では誰もが、討伐隊と連れ出された娘子の安否が心配で、昼飯の心境ではなかったと言い、討伐隊と一緒に食べたいと笑った。


 握り飯を頬張りながら、柵の外から警護していた者が襲い掛かる兵を斬り、国主に止めを刺したコウスの活躍ぶりを、手振りを交えて口々に讃える。


「祝宴が始まってすぐ、国主の腹を刺したでしょう、あれで敵の兵も荷役人も国主の異変を知り、皆が安否を心配して見つめ、拙者が横にいても気付きませんでした。」


「コウス皇子とニコル様が、余りにも強すぎたのです。我々は弓も剣も使わず仕舞いでした。」


 それを聞いたニコルがつぶやく。


「私も周りに気付かれず、背に隠していた剣を一度も抜くことは、ありませんでした。」


「それじゃ、戦ったのはコウス皇子ひとりだったのですか。」


 ニコルはうなずいたが、コウスは槍兵に囲まれた窮地にニコルの投げ刃で救われ、弓の奇襲でも絶体絶命の危機を救ってくれたと、ニコルを讃えた。

 また国主を警護していた弓兵五人に狙われた時は、伊勢の三人が一気に片付けてくれたことも加え、後方警護隊を賛辞した。


「娘さんに手荒なことをする者もおらず、全員が無事に帰って万々歳だ。見ろ、恵枇の奴らを。黙々と片付けをしておるぞ。」


 民と兵士が身分差を取り払って茣蓙むしろに座り、楽しそうに喋りながら、遅い昼飯を頬ばる。


「暗くなったら、遅めの夕餉を支度致します。お泊りの宿で別々になりますが、もう嗅助も伝助もおりませんので、遠慮なく騒いでください。」


 日が沈み、空に三日月と無数の星が輝いているだけで、地上は真っ暗になった。砦では兵や役人が王宮横の兵舎に入り、火良村も人々の行き来がとだえ、普段の静寂に戻っている。


 宿舎に配られた遅い酒と夕餉を囲み、コウスはマイヤ、シモン、そして兎農とのうの当代マセラと、静かに祝盃を交わした。


「コウス皇子、お疲れ様でした。それと何より、見事に恵枇の国主を討ち取ったこと、全員が無事に砦を出られたこと、誠にお目出度く存じます。纏向へ凱旋され、お心待ちの天皇に胸を張って、ご報告が出来ましょう。」


 マセラが高く酒盃を掲げて、祝辞を述べた。続いてマイヤが緊張の連続だった往路の旅を思い起こし、そして想像を絶した砦での戦いを賛辞し、笑顔で労った。


「ひと時たりとも気が抜けなかった征西の旅、そして潜入での緊張と国主への一撃。次々と兵に取り囲まれ、迫られて戦った王宮前。よく最後まで踏ん張られました。」


 シモンもマイヤの言葉を付け加えるように、感慨深い表情で賛辞を述べた。


「いやはや、常人とは思えないご活躍でした。頭が下がります。」


 祝盃と夕食を終え、寝床で横になったコウス。すると途端に激しい疲れが全身に沸き上がった。まるで全身が膨らむような疲れだが、眠気はない。

 行灯の明かりだけになった天井を眺めながら、マイヤが言った纏向出立から決戦までを回想していると、いつしか深い眠りに落ちた。

 

 目覚めたら、小窓から見える日は天頂を過ぎていた。頭はすっきりしたが、身体が痛い。あれだけ跳び回ったのは武術鍛錬でも経験がないので、仕方ないかとコウスは思った。


「お目覚めになられましたか、寒くなかったですか。すぐにお食事をご用意いたします。」


 シウリが部屋を覗いて、すぐ引き返した。入れ替わりにマイヤとニコルが部屋に入って来た。


「お早うございます、コウス皇子。相当お疲れだったのでしょう、よく眠られましたね。もう大丈夫ですか。」


 疲れは取れたが、あちこち身体が痛いと伝えると、痛くなければ皇子は化け物ですと、二人は笑う。布団から出たコウスに、マイヤが砦の片付け状況を報告する。


「ほぼ砦は片付き、恵枇へ帰る者は旅支度を始めています。恵枇は州になり、人のウ・ルクが首長として治めるそうです。この地に残る者は兵百五十人と、工職人、荷役人が百人ほどで半数弱です。残った者の処遇をどう致しますか。」


 そうだ、まつりごとの沙汰をしなければと、何も考えていなかったコウスは焦った。

 天皇が熊曽を倒して、新しく倭南州を宣言した時、現状の見取りを潰して新たな指揮官を任命した。これに習おうと思った。


 そこへシウリと女人が、昼餉の膳を運んできた。ニコルが湯椀に茶を注ぐと、まず腹ごしらえだと、食しながら話を進めることにした。


「夕刻に残った全員を集めよう。征西隊は全員帰還するので、今後の施政を説明して残った者の中から、政務の指揮官を数人決める。完成間近の王宮は取り壊し、下の平地に建て直して政務舎にする。あとの細かな事は、倭台やまだい市のハル・サイマ帝と、シウリ首長に任せる。」

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