倭都タケルとなり、国主を斬り裂いて討伐を達成する
---倭都のタケル。倭都タケル。うん、良い名だ。
「おお、頂戴する。」
纏向のコウス皇子は、倭都タケルになった。
「そして……この者……たちを…………よろしく……頼む。」
喘ぎ苦しんでいる国主を、もう楽にしてやらねば。コウスは、右手に下げていた神剣を両手に持ち、上段に構える。
その時、苦しそうだった国主の顔に笑みが見えた。
「承知したーーっ。」
日の光を浴びた神剣を振り下ろすと、虹色の閃光となって、国主の左肩から右脇腹を斬り裂いた。その衝撃で国主の兜が脱げて飛び、石段を転々と転がる。
おびただしい血飛沫が舞い上がり、頭と右腕がゆっくり胴体から離れ、兜を追うように石段へ落ちた。
兵舎の前では、気を失った巫女が介抱されている。王宮前でも石段の宴席でも、娘子が吐いたり気を失ったりして、柵内に入った後方警護隊に介抱されていた。
国主討伐は、この世の出来事とは思えない凄惨な光景になっている。
十二
コウスは、王宮前の道に立ち、石段に向かって叫んだ。
「恵枇の諸氏に告ぐ。たった今、吾は勇猛な恵枇タケル国主より、タケルの箔名を頂戴した。これより吾は倭都タケルと名乗る。」
王宮前の側近や役人は、地面に片膝を突いて首を垂れた。石段の兵たちも正座して、コウスの発声を聞く。
「戦いは決した。恵枇国へ帰る者は止めることも、追うこともしない。この地に残る者には、今後の政について後日沙汰をする。」
石段の兵に騒めきが起こり、王宮前の側近や役人も、小声で相談し合っている。ここに残ったら、今後どう扱われるのか不安なのだろう。
「まだ日は高い。我々は火良村へ戻るので、諸氏は茶蓮山の何処かに穴を掘り、勇敢に戦って犠牲になった仲間たちを埋め、丁重に冥福を祈ってやれ。その後、恵枇国へ帰る者は道中、気を付けて帰るように。しかと申し付けたぞ。」
倭都タケルになったコウスは、恵枇の役人や兵に指示を終えると、半ば放心状態で立っているニコルに向かって歩く。正面に立つと、右手の神剣を足元に落とし、小さく微笑んで見せた。
「怪我はないか。ニコルが援護してくれたお蔭で、何度も命拾いができた。有難う、感謝する。」
黙ってうなずいたニコルが、泣き顔になり大粒の涙をこぼす。困ったときは冷静沈着に判断してくれたニコルの、泣き顔を見たのは初めてだ。
コウスが血まみれの手で抱き寄せると、ニコルも身を寄せてくる。柔らかい乳房がコウスの胸で、小刻みに震えている。
この涙は討伐を果たした喜びか、故郷の高尾へ帰還できる嬉しさか、どちらであってもいい、喜びの涙であるなら。
コウスの衣装は血飛沫で染まり、顔も血糊で見るに堪えない状態だが、二人は離れようとしない。
そこへマイヤを先頭に、後方警護隊が坂道を上がって来た。
コウスの神剣と国主を刺した懐剣を抱えて、呆然と立つシウリに、まずマイヤが一礼して声を掛けた。
「シウリ首長、ご苦労様でした。ご無事で何よりです。ここの娘子たちは大事ございませんか。石段の娘子たちはひとり残らず、柵の外に保護して無事です。」
それを聞いたシウリは急に大声で泣き出し、剣を抱えたまま地面に座り込んだ。
「良かったぁ、良かったぁー。皆様のお陰でございます。有難うございます。」
マイヤは振り向き、横で抱き合っている二人を見て笑い、声をかけた。
「コウス皇子、ニコル様。恵枇タケル国主の討伐、誠にお見事でした。それにしても、いつまで抱き合っているのです、さあ宿舎へ戻りましょう。その血まみれの衣装を着替え、窯で顔や手の血を洗い流しましょう。」
二人はマイヤの声に気付いて、そっと離れた。後方警護隊が二人を囲み、口々に賛辞を送る。ニコルの衣装はコウスが移した血で、肩から裾まで汚れていた。
石段を見ると、恵枇の兵は死体を兵舎の前に集めて並べ、王宮前の流血を水で洗い、申し付けた埋葬の準備をしている。




