コウスとニコルが華子に選ばれ、恵枇タケル国主が
祓詞とお祓いの準備が整ったと、神社の者が報告に現れ、国主と役人十五人が王宮内の祈場へ消えた。
半時ほどして、再び現れた国主は、王宮の東の方へ歩く。艶やかな衣装を纏った女人たちに向かっている。ここが生死の分かれ目だと、胸の鼓動が激しく高鳴るコウス。
---何人を華子にするのか、聞いておらん。頼む、どうか吾とニコルを華子に選んでくれ。
国主が目前に来た。列の先頭にいたコウスとニコルは、目が合うと微笑みながら浅く、ゆっくり一礼した。
深々と頭を下げれば、背中に隠した剣が見付かるため、敢えて国主の目を見ながら頭を下げた。
国主はコウスとニコルをじっと見て、すぐ優しい顔に変わり、二人を指差して側近に華子と告げた。
---やった、吾もニコルも選ばれた。よし、これで国主に近付ける。
コウスは喜びと安堵で、大声が出そうになったが、唾を飲み込んで堪えた。国主は二人の前を通り過ぎ、さらに三人を華子に選んで席に戻る。
シウリと恵枇の兵が、選ばれた華子五人を御座むしろの手前に導き、他の娘子は少し離れて並ばせる。シウリも二人が華子になれたので、嬉しさを隠せない顔だった。
「皆の者、よく聞け。昼飯と神社の祓詞が済めば酒盛りだ。酒はたんまりあるぞ、酒肴もある。分隊ごとの班に分かれておるので、艶やかな饗子を班にひとりずつ付ける。酔い潰れるまで呑んで騒げ。」
---いけない。国主は約束を守らない気か。村の娘子二十人が石段の兵に囲まれたら、何をされるか分からない。二十班もあれば後方警護隊でも救助は出来ない、マイヤ隊長、どうすればいい。
コウスは焦り、頭の中は混乱状態に。兵が酔っ払って、生け捕りにした子鹿を弄ぶように、娘子を扱ったら手に負えない。国主に近付いたら素早く斬り殺そう。そして宴は終わった、解散せよと叫ぼうか。
国主の合図で饗子になった娘子を、役人が連れて石段を下りる。班にひとりずつ渡し、側近数人が酒壷と酒盃、酒肴を置いていく。兵の中には、もう饗子に手を出そうとする者がいる。
そろそろ国主に呼ばれる。傍に行ったら一気に斬ると、背中の神剣に心を込める。だが華子を呼び寄せる前に、立ち上がって石段の兵に叫んだ。
「皆の者、呑んで騒ぐのは良いが、おいから一言申し付ける。座に加わった饗子は、祝宴を華やかに彩り、盛り上げるべく集めた火良、笹台、馬込村の女人である。」
兵たちは国主が饗子を用意したので、有難く思えと捉えた。そのとおり美しい女人が加わって、席に花が咲いたように明るくなった。だが、一言申し付けるとは何だろうと、聞き耳を立てた。
「村の首長は快く承諾したが、村の存続に必要な娘子だと言った。よって、ひとり欠かさず村へ帰さねばならない。皆の者、耳糞をほじって聞け。酒の酌をしたり、話をしたりは構わないが、絶対に手を握ったり抱き付いたり、無理に酒を呑ませる行為は禁ずる。軽い出来心であっても、命令に背いた者には、厳しい処罰が下ることを覚悟せよ。」
国主がシウリとの約束を反故にしたと、諦めかけていたコウスは心が躍った。饗子に指一本触れるなと直々に命令したので、二十三人の娘子たちは無事に村へ帰ることが叶う。
---ああ良かった。シウリの命を盾にした直交渉の成果だ。
強硬冷徹に見えるが、誠実でもある国主。殺すには惜しい人物だが、倭都国の安寧には相応しくない敵将だ。生かしておけない。
浮かれて騒いでいた兵たちは、想像もしなかった国主の命令に愕然とした。
頭を抱える兵もいたが、隣の兵が気付かれては大変と、手を下ろさせた。命が惜しければ、大人しく酒を酌み交わすしかない。
「おう、ここへ来い。」
役人が華子五人を国主の前に立たせると、コウスとニコルを席の横に座らせるよう指示をした。他の三人は役人や側近の間に座らせた。
席の左側に座ったコウスの薄蒼の衣装が、天頂の日に照らされて微かに輝く。右側に座ったニコルには、傍に座る役人たちの垂涎の的になっていた。
幼さと美しさを全身で放つコウスを、国主は見下ろしたまま目を離さない。酒壷を抱えた役人が王宮の奥から現れ、コウスの前に酒壷を置いた。
酒肴を配っていた側近のひとりが駈け寄って、国主の前へ酒肴を置く。皆に酒が渡ったことを確認した国主が、王宮前の面々に向かって叫んだ。
九
「酒が行き渡ったな。それでは美しい華子に酌をして貰い、乾杯しようぞ。」
国主の指示が下り、華子が役人や側近の酒盃に注いで回る。王宮前に酒の香が立ち込める。
「愛い娘子だな。歳はいくつになる。名は何という。」
「コルルと申します。十六歳です。」
国主や恵枇兵、嗅助に、コウスの名が知られている可能性は高いと、マイヤが言ったので偽名を作っていた。
コルルはコウスに似ていて、味方に呼ばれて気付きやすいが、敵には気付かれない。




