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倭都タケル=吾のまほろば=  作者: 川端 茂
第五章
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女人に扮して王宮前へ、遂に恵枇タケル国主が現れる

 難和なわ川沿いを進み、房主ぼうず山の麓を越える、およそ半里の道を二人が先導して砦の東方へ回る道をゆっくり進む。


 徒歩兵二人が列の後ろに付き、途中で怖くなって逃げ出さないか、娘子たちを見張るように歩く。時々シウリが振り向いて、心配そうに確かめる。


 ずっと後方で多くの村人が、心配そうに口の前で手を合わせたり、顔を覆ったりして見送っていた。


「神様、我が娘をお守りください、村の娘たちをお守りください。」


 最後尾をニコルと歩くコウスの耳に、何処からか悲痛な声が聞こえた。空耳か……いや全村人が天に祈る空気の震えに違いない。


 平和なこの倭南州へ突然攻め込んで、政務舎に火を放って滅ぼした蛮族が、同じ場所に我が者顔で王宮を建造している。

 その棟上げ祝いに、二十三人もの村の若い娘子が狩り出されて、連行されている。


 国主は宴にあたって、よく働いた兵や職人のために、大勢の華子と饗子を集めたと自慢気に話すだろう。その内容次第で、娘子たちの命運が左右される。


 コウスは国主に近付けるように、シウリとの約束を守って村の娘子を無事に帰すようにと、恐れと期待が入り混じった心境で、伊勢神に祈りながら歩く。


 茶蓮ちゃれ山の麓が近付いてきた。二重の柵の間に入ると、左に曲がって幅一丈半ほどの坂道が見えた。先頭の兵がシウリに何か説明し、指差している。


 木立に挟まれた緩やかな坂だ。柵の中で祝宴を待っている兵が、坂を上がる艶やかな行列を見ようと木立まで集まり、思い思いの声を掛けてくる。


 半丁ほど上がると、藁を分厚く重ねて葺いた王宮の屋根が、木立の間から覗き見えた。壁面はまだ張っておらず、柱と梁が縦横に組まれている。


 坂を上がり切った所で、整列して待機を指示されると、新調の草履が痛いのか、娘子が数人しゃがみ込んで足指を擦ったり、衣装の崩れを直したりしている。

 

 恐怖と緊張で、誰も声を出す者はいない。


 王宮の前は、村から眺めて想像していたより狭く、幅二丈ほどしかない。それは広場ではなく、人の行き来や荷運びの道だった。

 道の端に柵はなく、すぐ石段だ。うっかりすると転げ落ちそうで、戦略家らしい意図があっての造作だろう。


 王宮前の道一面に御座むしろが敷かれ、出入口前に椅子が置かれている。御座むしろには、すでに多数の側近、役人が座って楽しそうに話しながら、国主の着席を待っている。


 日が天頂まで昇った。シウリがコウスとニコルの方に来て、誰にも聞こえない小声で前列へ来るように促した。


「そろそろ恵枇タケルが出る頃でしょう。コウス皇子、ニコル様、ご無事を祈っております。恵枇タケルは、この中から美しい娘子を何人か、華子として選ぶはずです。お二人は国主の目に留まりやすいよう、一番前へ行きましょう。」


 王宮前の華子に選ばれないと、恵枇の国主に近付くことが不可能になり、討つことができない。シウリの機転に心の中で感謝した。


「そうだな。国主に強く印象付けないと、目的は果たせない。そうしよう。」


 二人はシウリに連れられる体をして、最前列に変わった。

 石段を見ると、兵は二十人ずつ二十組に分かれた四百人が座っている。千人ほど集まると想像していたが、これも見当が外れた。


 国主はもう、倭都軍や倭台軍の攻撃はないと確信しているようだ。

 だが万一でも間者の潜入を想定してか、王宮の柱の間に槍兵十人、剣や斧を持った兵十人を、少数だが置いている。


 外の木立の傍にも弓兵五人が睨みを利かせている。祝宴なので手薄の警護だが、さすがに注意深く、用意周到だ。


「恵枇タケル国主の、御出ましぃー。」


 側近のひとりが、国主の出現を大声で知らせた。側近十人を従えて王宮の奥から現れた国主は、頭に兜を被っているものの、白の着衣と茶色の袴で平服に近い軽装だ。

 用心のため胴巻きは欠かさないだろうが、腰に短剣を差しているだけ。


 続いて兵舎の方から、赤い着物で揃えた女人が三十人現れた。小鼓や笛、御幣ごへい)を手に、御座むしろの手前まで駆け寄り、国主に一礼して一列に並んだ。

 女人の踊りや演奏もあるのだ。


 国主が立ち上がって、左右と石段を見回す。側近や兵は緊張して国主を見上げ、王宮前の道も石段も静まった。


「今より棟上げの祝いを行う。まだ王宮は完成しておらんが、皆の尽力よって、ここまで工事が進んだ。もう少し時は掛かるが、今日は恵枇国の強固な発展と、国の拡大を念じて盛大に祝おうではないか。」


 王宮前と石段の面々から拍手と歓声が沸き起こる。次は娘子の話になると、コウスは息を呑んで、その時を待つ。


「まず、王宮の祈場で市気いちき神社の宮司が祓詞を捧げ、王宮に神髄を与えて恵枇国の発展を祈る。その間、皆の者は配っておいた昼飯を食しながら、巫女の演奏と踊りを楽しんでもらう。」


 それがあったか。兵舎の前で楽器や御幣を手にしている女人たちは、神社の巫女だった。次こそ村の娘子の話になるだろう。


 宮司が祓詞の準備をしている間に、巫女が楽器を鳴らし、御幣を振って踊り始めた。二列になったり回ったり、一糸乱れない美しい舞踊だ。高揚した石段の兵たちが、やんやの歓声を上げる。

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