気が荒く強引な性格という、敵の国主がまだ知れず
「あと半数、無事であって欲しいですね。実は、三日前に大きな地揺れがありまして、この村も多くの家が潰れ、難和川が逆流して坊主山の先まで洪水になりました。伝助の情報ですと旅人の姿が消え、山賊は物盗りを諦めていると聞いております。恵枇の砦も石段が何ヶ所か崩れ、柵も倒れて修復が大変そうでした。」
シウリが、先日の地揺れで難和川が火良村の手前まで氾濫し、山賊や見回り兵が動きを止めたようだと言った。あの恐ろしかった海峡の高波は、難和川を氾濫させていた。
それを聞いたコウスは身体が震えた。まさか、まさか伊勢神が大きな地揺れと高波を起こし、我々の旅を助けて下さったのなら……。
地揺れ、高波、嵐、長雨、日照り、罪のない民が犠牲になり、悲しみを生む幾多の災害。神の御意志が関わっているなら、有難いと手を合わせて良いものか、心が痛む。
二日目も最終の組が夜半に到着し、決められた宿舎で長旅の疲れを癒した。誰も皆、着替えは高波で流され、傷んだ旅の着物や草鞋を手直しし、洗いながら火良村に到達したと言った。
強い警戒による、旅路の心労と疲弊を忘れたかのように、全員が無事だったことを喜び合った。
翌朝、穀物倉庫の脇にある集会場に全員が集まり、シウリが挨拶を兼ねた朝餉の宴を催してくれた。
まずマイヤが前に立ち、征西旅の成功を祝って乾杯の音頭を取った。
「長旅お疲れ様でした。出立地から誰ひとり脱落者が出ず、今日を迎えたことを何より嬉しく存じます。それでは、小さな声で乾杯。」
酒盃を上げた数人から笑い声が出た。マイヤが小さな声と言ったのは軽言でなく、集会場の外に聞き耳を立てる曲者がいると諭したのだ。皆がそれに気付き、小さな声で乾杯と声を揃えた。
乾杯の酒盃を飲み干すと、シウリとアムアが前に出て、改めて迎えの挨拶に入った。
「皆様お揃いでのご到着、お目出とう存じます。昨日コウス様、マイヤ様、ニコル様とはお会いしましたが、改めて手前が当代を勤めるシウリと申します。横の者は地御山の麓で芋を作る、アムアと申します。積もる話は色々ございましょうが、それは後々に。まず朝餉の後で皆様にお召し物をお配りしますので、宜しくお願い致します。」
シウリは、外で聞いているかもしれない嗅助を意識して、何者の集まりで、集まった旅人の目的は何人いるのかを、さっぱり理解できないように、言葉を選びながら挨拶した。
その昼過ぎにコウスが泊まる宿舎に、シウリがニコルを連れて入って来た。国主の風貌や性格について、収集した限りの情報を伝えたいと申し出た。
「恵枇の国主は目が吊り上がって眉毛が太く、頬から口周りに長い黒髭を蓄え、身の丈六尺近い大男です。いつも赤い馬に乗っているので、よく目立ちます。」
続けて、王宮建造中にあった動向も語った。気が短く強引な性格で、兵に大声で怒鳴り、否応なく斬り殺したこともあったと言う。
兵や役人は恐がって近付かないように見えるが、従順な者には優しいのか、魏のキル・タオとウ・ルクが常に傍に付き従い、十人ほどの兵も取り巻いているそうだ。
ニコルが聞いた限りの、国主の感想を述べる。武力で兵や民を押さえ付ける政治は長く続かない。
コウスは武力だけでなく、独自の戦略と機動力を備えている、優秀な政治家だと感じた。
人伝に聞いただけで、コウスは確心を得られず、遠くからでも実際に見てみたいと強く思った。
シウリの情報を踏まえて、国主の発する声や動作、騎馬の動き、兵や役人の様子を見れば、どれほどの能力を有する人物かが想定できる。
「王宮や石段周辺を片付ける気配がないので、まだ日はあります。一度や二度は姿を現すでしょう。」
五
次の日の朝、今度はニコルが泊まっている宿舎に、シウリがコウスとマイヤを連れて入って来た。
話は十日前のこと、副将軍と名乗るスモンが、従臣二人を伴って訪ねて来た。
内容は棟上げの宴を盛り上げるため、村の美しい娘を三十人、宴席へ遣わすよう命令が下ったと言うのだ。
「三十人のうち、五人は国主と要人や招待者に酌をする華娘、二十五人は役人や上級兵を回って酌をする饗娘だそうです。国主が催す宴に相応しい衣装で、棟上げの朝に王宮前へ来るよう命令されたのです。」
それはシウリにとって驚愕の命令だった。村の娘が手籠めにされると思い、命令に沿える自信がないと地面に額を付けて平伏した。
「この村に、若い娘はそんなに多くおりません。周隣の集落から集めても三十人いるかどうか。そして娘たちが疵者になったり殺されたりしたら、村は成り立ちません。勘弁してくださいと懇願したのです。」
祝宴で娘子の危害を危ぶむ、シウリの勇気にコウスは感服した。
「するとスモンは、祝賀の宴なので娘たちに感謝こそすれ、手を出さないと約束しました。そして三十人が無理なら、二十人でも集めろと言い捨てて帰ったのです。」




