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倭都タケル=吾のまほろば=  作者: 川端 茂
第五章
56/108

火良村に到着し、完成間近の恵枇の砦を遠くから偵察

 とうとう不安と恐れが入り混じる、決戦の地だ。


 纏向を出立して、難波、針間、尾道、未羽、夙卦、そして己実へ上陸して、予定より八日早い二十二日で征西の旅を終える。苦しい旅だったと、コウスは思った。


 コウスの朝隊が、火良村に到着した。三路に分けた朝隊はあと二組あるが、まだ到着していない。


 迎えに出たシウリとアムアが恵枇の目を避け、急いで宿舎の方に三人を導く。穀物倉庫の裏にある一棟の宿舎に、とりあえず入った。


「ようこそご無事のご到着、恐悦に存じます。其方様がコウス皇子ですね。手前がこの村で当代を勤めております、シウリと申します。この者はマキム天皇の側女レミアの、父親アムアでございます。宜しくお願い申します。」


「わざわざの迎え、かたじけない。手前は恵枇タケル討伐大将を任命された、コウスと申す。これから十数日、何かと面倒を掛けるが、よろしく配慮願いたい。」


 火良村へ着いたらシウリにレミアの父親、アムアを紹介してもらい挨拶するよう、母イナビヒメから聞いていたコウスは、さっそく挨拶をした。


「其方がアムア様ですか、お話は聞き及んでおります。レミア様は纏向宮廷で、元気に天皇にお仕えしておりますので、ご安心くだされ。」


 シウリと一緒に来ていたので、レミアの近況を伝えることができた。


「なお、こちらに控えますのが伊勢のマイヤで後方警護隊長、そしてこちらが高尾のニコルで、手前と一緒に砦へ潜入し、警護してくださる同志です。」


 紹介を受けたマイヤとニコルは深く礼をして、マイヤが二人に挨拶した。


「これから十日間、四十六人が滞在せて戴きます。色々と面倒を掛けますが、よろしくお願い申す。」


「いやいや、何なりとお申し付けください。明日の夜隊が入られ全員揃いましたら、改めてご挨拶申し上げますので、それまで宿で長旅のお疲れをお癒しください。」


 宿舎は穀物倉庫の裏に四棟、房主ぼうず山が遮って恵枇の砦から見えない場所に五棟の、九棟準備されていた。

 内部は新しいが、外観は周りの家々に溶け込むよう、古びた材料で覆っている。


 コウスが倉庫裏にある一棟を女四人に決め、七棟は六人ずつに分けて後続の到着を待つことにした。もう一棟は汗を流すむろだった。


 三人は荷を下ろして宿舎を出た。気になる恵枇の砦を、穀物倉庫の裏から注意深く眺める。

 砦は茶蓮ちゃれ山の麓に、多数の柱と梁で組まれた三層の王宮が建造中で、完成に近い姿でそびえている。


 王宮の前には広場があり、そこから裾まで、茶色や黒、灰色が混在した石段で埋め尽くされ、仕上がっているようだ。

 その四角に切り出した石を、五十段ほど積み上げた小山の頂上に、王宮が乗っているように見えて美しい。

 裾には長々と高さ六尺の柵が二重に張り巡らされている。


「あれが恵枇の砦だ。広場から裾まで石積みの段で、その上に王宮とは。攻め上がるとしたら、ひと苦労だな。こちらからが正面だから、王宮と兵舎を加えて幅が三丁はある。石積みは五十段として広場までの高さが五丈、射程は柵から一丁半か。」


 柵は半丁ごとに兵や荷役人の出入口が、不規則に開いている。二重の柵と高い石段は、敵の襲撃を受けた事態まで考えた、堅固な造りだろう。


 マイヤは棟上げの宴で、国主が陣取る場所を想定し、後方からの射程位置を探している。


「広場から裾までの奥行きが浅いので、後ろの柵の外からでも狙えるな。柵の中は石段に兵千人ほどが座り、前の柵から外は荷役人や工職人の立ち見だろう。我々は荷役や工職人に紛れ込んで、後方警護することになる。」


 王宮は、向かって左側に建っている。右側は兵舎や倉庫などを集めているためだ。

 国主と招待者、側近と役人が王宮の中央を背にして、見栄え良く座るとマイヤは見た。状況にもよるが、マイヤは左の位置に寄って警護する気だ。


 茶連山を背景にして威圧的に、存在感を誇示する三層の王宮。まだ顔も姿も見ていない国主が、王宮前で見得を切る様子が、コウスの脳裏に浮かぶ。


 黙って砦を眺めるニコルも、敵集団の中に潜り込んだ自身を想像しているだろう。


「潜入は棟上げの宴が始まってからですね。あの石段に兵が集まっていて、その間を上がるのでしょうか。」


 少し震えた声でニコルがつぶやく。まだ王宮への潜入方法が決まっていないので、ニコルの不安が痛いほどわかる。

 コウスも同じで、早く潜入経路を見つけ、策を講じないと不安が募るばかりだから。


「いや、上への出入りは石段だけではない。荷運びがあるので右からと、左からの道を作っているだろう。」


 一日目は最終の組が夜半に着いて、全員無事だった。

 山賊に囲まれたり、見回り兵に尋問されたりした組もあったが、道案内人が上手くやり過ごしたと言う。

 マイヤとシウリが、あらかじめ決めていた宿舎へ、次々に案内していく。

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