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倭都タケル=吾のまほろば=  作者: 川端 茂
第五章
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火良への道で山賊に遭遇したが、道案内人が追い払う

 コウス、マセラ、ニコルの組は一日目の朝、三路の中で最も短い街道を選んで出立した。順調なら一時半で火良に着き、火良の宿舎で後続の組を待てるためだ。


 大きな難和なわ川沿いの街道は人通りがあり、恵枇の嗅助や、見回り兵の注意を逸らしやすいこともある。

 道案内人は旅人の会話を聞かないのが礼儀とされ、コウスの組から一丈ほど先を歩いている。


「色付き始めた山や、右の大きな川を愛でながら、楽しそうに歩こう。」


 一里ほど歩くと両側から山が迫り出して、難和川が右へ左へと曲がり始める。街道は平坦だが川に沿っているので、見た目より遠く感じる。

 両側の山から、小さな川が多数流れ込んでいて、そこには丸木の端が架かっていた。


「この辺りは何処にも集落がないでしょう。大雨が降ったり長引いたりすると、すぐ川が氾濫して田畑は水没し、家も流される住めない土地なのです。」


「この大きな川に、多くの小さい川が流れ込んでいるからだ。平坦で住みやすそうに見えるのに、畑がなければ仕方がない。」


「そうなのです。そのため、この山は山賊の巣になって、多くは夕刻ですが荷運び人や旅人が襲われます。人目がないので稼ぎ易いのでしょう。」


 景色は申し分ないのに、物騒な場所だ。まだ朝なので安全だろうが、もし襲われたらどう対処するか。蹴散らすのは簡単だが、それを嗅助や伝助に知れたら恵枇に伝わって、大変なことになる。


「旅人なら地べたに座り込んで平謝りし、泣いて助命を乞うでしょう。でも奪う物を捜すので、身ぐるみ剥がされ、丸裸にされます。もし襲ってきたら某が話を付けるので、地べたに座って震えていてください。」


 マイヤは思った。経験に培われた道案内人は、旅人の安全を護る手段を心得ているようだ。

 旅人を山賊から護る手段は分からないが、背負って隠している弓矢や剣が見つかれば、倒すしかない。


 左の山から枯葉を踏む音が複数聞こえ、コウスがマイヤとニコルに目で合図する。

 木立の陰からこちらを窺っている集団がいる、十人ほどの山賊か。前を歩いていた道案内人に、コウスが走り寄って告げる。


「左に山賊がいる。十人くらいに狙われている。矢が飛んでくるかもしれない。」


「朝から、もう出ましたか。左に八人と少し前に五人ですね、員畑いはた賊でしょう。奴らは食糧でなく、武器を奪おうとしている集団です。武器を差し出せば大人しく帰ります。」


 とんでもない山賊に出くわしたものだ。隠し持っている武器は、何ひとつ欠けても目的を果たせない。兵士の持ち物と違って拵えが特別なため、手にした山賊は驚くに違いない。


「吾も姉も、武器は持っておらん、童子でも身ぐるみ剥がされるのか。」


 泣き顔で叫ぶコウスに、道案内人は落ち着いて諭す。


「兄様の懐剣と、某の剣を差し出せば納得するかと。ここより十二里先に高千たかち豪族の州があります。奴らは以前この辺りで、高千の御領主と知らず襲撃したため、後に一帯の山賊が殲滅させられました。三人が高千の高貴なお役人のご家族と言えば、手は出せない筈です。」


 その山賊が姿を現した。すぐ後ろに八人、半丁前に五人が大剣を振り回しながら歩いてくる。兜と胴巻き、足には獣皮の足袋と草鞋を装備し、武器狩り山賊らしい。


 マイヤとニコルは、コウスを包み込むように身を寄せ合い、黙ってその場に座り込んだ。その前に立ち塞がった道案内人が対峙して、剣を抜いて山賊に叫ぶ。


「お前たち、よく聞け。ここに居わす御三方は、高千州へ御帰還されるお役人のご家族だ。拙者は御領主の遣いで、己実津へお迎えに参じた従臣シンクと申す者。ご家族に指一本触れず通せば、この剣を渡してもよい。道を空けよ。」


 道案内人の威厳に満ちた態度と、鋭い声に山賊はゆっくり後ずさりし、山の中へ消えた。

 それを確認した道案内人は、地べたに座り込んでいた三人を立たせ、足元で平伏する。


 この情景を木の陰から見ているだろう、山賊に見せるためだ。さらに腰を屈めて、着物の泥を払い、コウスに話し掛けながら街道を歩く。


「上手くやり過ごしたでしょう。何も奪わずに帰ったのは、高千の武器を持つことを憚られるからです。まだ山賊の出没する地はありますが、この手で火良村まで進みましょう。見回り兵には、別の方法を取ります。」


 頼もしい道案内人だ。交通の要になっている己実津が、よく繁栄している訳をコウスは学んだ。他の組も、このように卓越した旅人擁護で、皆が無事に火良村へ着くことを願う。


 日が高くなって、長閑な風景が美しく輝く。


 すれ違う旅人たちにも道案内人が付いているようで、こちらを無視して足早に通り過ぎる。山賊が出る気配はないが、警戒しているのだ。


 左右の小山を過ぎると、急に人通りがなくなった。道案内人が一里ほど先の集落を指差し、火良村だと教えてくれた。


 そこから一里ほど南方向に、建造中の建物が垣間見える。規模は計り知れないが、完成間近な恵枇の砦だと言った。

 見回りの兵らしい男がこちらを見ているが、近寄って来ない。まだ油断はできないが、あと半時で到着する。

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