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倭都タケル=吾のまほろば=  作者: 川端 茂
第四章
52/108

征西隊が互いに見知らぬ人になりすまし、宿を探す

「今からは船に乗り合わせた、互いに知らない旅人になります。この二人と私は家族で、三人旅です。もう二人も私の召使いが入って、三人家族です。そしてこの三人は、大人ばかりですが家族です。ここから修理が済んだ船に乗り終えるまで、家族以外の人たちと話や目配せなど、絶対にしないでください。」


 マイヤが残った四人を物資の交易人として、ひと組にまとめた。


「修理中の船に、方々から来た旅人が乗り合わせ、災難に遭って夙卦しゅくけ津に立ち寄ったことにする。この四人は、物資交易で西国へ行く途中だ。四人は話をしても良いが、他の組と話したり、共に行動したりしないこと。」


 組分けの指示を聞いた同道者は、なぜ面識のない人の乗り合わせか、なぜ組分けが必要かを即座に悟った。

 夙卦は己実の対岸に位置し、海を挟んで二十里。恵枇の国主が放った嗅助が、何処で目を光らせていても不思議ではない土地だから。


 分かれた組は、白々しく少し間を取って船の修理を眺める。組分けが済むのを見た船長と船の調理人が、腹の足しにと握り飯と水を配って歩く。

 日が天頂を過ぎているのに、マイヤは昼飯をすっかり忘れていたことに気付き、頭を掻いた。


「うっかりしていた。朝飯中の災難だったので、皆は腹を空かせているだろうに。」


 昼飯を配り終えた船長が、マイヤとコウスに夕飯と明日の朝飯も、船の方で用意すると言ってくれて気遣いに感謝し、思案が一つ減った。


「宿では朝の地揺れによって、我々の食べ物までは調達できないと言っています。それで夕飯は簡単なものですが、桟橋の職人休憩所に用意致します。船の修理人とご一緒になりますので、十人ずつ分かれて来れば、別々の旅人らしく見えるのでは。明日の朝飯は出航後になります。」


 シモンは組分けが済んだ者の傍を通り、宿舎で相部屋になっても互いに離れ、外に出る場合は別行動するよう念を押して歩いた。


 物資交易人になった四人組のひとり、マナキが酷い怪我をしている三人を指差して、マイヤに聞く。


「了解致しました。宿の相部屋も承知致しましたが、皆が大なり小なり怪我をしております。宿がいくつに別れても、今夜中に治療や手当を施す医官は来るのでしょうか。」


「心配するな。医官は五人手配してあり、明日も己実津まで同行して貰える。」


「安心しました。もうひとつ、物資交易を問われても、何も手持ちがありません。」


「そうだな。誰も見せろとは言わないだろうが、聞かれたら持ち物は全部、高波に流されたと答えろ。」


 しばらくして桟橋に宿の主が四人来た。誰に面接すればいいのか分からず、立ち往生しているので、マイヤが手招きして呼んだ。


「船長にお頼みした宿主様ですね、突然のお願いで恐縮しています。全部で三十三人乗っていて、ひとり旅から四人連れまで色々で、女人も童子もいます。一晩だけなので、泊まれるものなら相部屋でも構わないと、皆が言っています。大丈夫でしょうか。」


「貴方様が代表の方ですか。」


「代表ではないですが、乗り合いの人から相談を受けたので、船長に宿の手配を頼んだ者です。泊まれる部屋があるなら、振り分けも手前がします。」


 宿の主四人は着物の色がそれぞれ違っていた。宿舎の名は分からないため、マイヤは着物の色を宿舎代わりとして、人数や振り分けを話そうと考えた。

 急な依頼なので、三十三人も泊まれる部屋が空いているだろうか。


「お泊りになれる宿は四軒ございます。朝方に大きな地揺れが起こりまして、壊れた家の人も大勢泊まるため、どの宿も大部屋は埋まっております。四人部屋でよろしければ、四軒とも三部屋ほど空きがございます。如何いたしましょうか。」


 四軒とも空いている部屋があり、コウスは胸を撫で下ろした。

 他の者は知らない土地で夜を迎える事態に、桟橋で不安を抱えて一報を待っているはず。早く朗報を伝えようと気が逸る。


 来る途中で病いや怪我人が出ず、嗅助に感付かれることもなかった。予期せず起こった航海中の高波でも怪我こそ負ったが、犠牲者がひとりも出なかった。やはり伊勢神の御加護だろうか。


「お出迎え有難うございます。では、紫が主の宿は三部屋で、家族三人連れを。灰色が主の宿は二部屋で、家族三人連れと四人連れを。紺が主の宿は三部屋で、二人連れの十人を。緑が主の宿には一人旅の七人をお世話いただけますか。部屋の割り振りは、お宿に着いて各人の希望をお尋ねください。」


 宿主に導かれて、別々に宿舎に入った征西隊。夕飯も船長の合図で別々に出て、組ごとに別々の席に座った。宿舎に戻っても、静かに夜を過ごす。


 隠密の行動が、ここまで神経を擦り減らすとは想像しておらず、その場その場でのコウスとマイヤの機転と指図に、誰もが頭の下がる思いだった。

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