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倭都タケル=吾のまほろば=  作者: 川端 茂
第四章
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船の修理に夙卦津に寄り、ニコルの提案で乗り合いに

 屋形の柱にしがみついて目を閉じ、尾道の首長にもらった懐の御守札を握りしめるコウス。平和を望むと言いながら、人を殺しに行く愚行が海神の怒りに触れたのか。


「わあ、来たぁ。父上、母上、叔母様、お護り下さい。」


 高い波が容赦なく、荒々しく船に襲い掛かった。激しい波との衝突音が船を包み込み、屋形に潮が激流となって押し寄せ、朝餉の膳や荷物が流される。


 もう上下左右が分からないほど揺さぶられ、天井や柱に頭や背中が何度もぶつかる。

 船が砕け散ったと思うきしみの中、海水にまみれたコウスの身体が、ふわりと宙へ舞い上がった。


「息はある、大丈夫そうだ。血を拭き取って、その横に寝て頂こう。」


 人の話し声で気が付いたコウス。声の主はマイヤだ。

 ここは天国で、征西隊は地揺れと高波に遭い、船もろとも海の藻屑になったのだ。吾は天国でも、マイヤの世話になっている。


「お気付きになられましたか、良かった。痛むところはありますか。コウス様。」


 今度はニコルの声だ。目を開くと屋形の梁が霞んで見え、シモンも横に座っている。マイヤは右手を布で巻き、首から吊っていた。ニコルも額や首を治療した跡があって痛々しい。


「背中と首が痛い。船が転覆して砕け、吾は海の中へ飛ばされて死んだ。それなのに船にいるようだが、他の者もおるのか。」


「ここは天国ではありませんよ、未羽の船です。高波が来た時、ちょうど船の先が波の方に向いたので倒されず、多くが怪我をしましたが、全員助かりました。」


 ニコルがコウスの手を取って、船は転覆せず砕けもしなかったと、笑顔で話した。ニコルの柔らかな手の温もりで、コウスは生きていることに気付き、喜んだ。

 横にいたシモンが、この船は凄かったと、身振り手振りで船を讃える。


「船が波に乗った時、こんな波に負けてたまるかと、船首が天に向かって吠えたぞ。そのあおりを食らって拙者らはあっちへ飛び、こっちへ転がり、海の中には飛ばされなかったが、打ち身と怪我で散々だった。残念なのは、船員三人と漕手五人が海に呑まれて死んだことだ。」


 海神は我々を懲らしめただけで、容赦してくれた。伊勢の叔母様のご加護もあった。ハリマ王、尾道の首長、父も母も祈ってくれたとコウスは思う。

 皆に感謝し、西国では誰一人犠牲者を出さずに、目的を果たして家族の元へ帰したい。


 何よりも、船首が高波を乗り越えれば転覆は免れると、漕手が懸命に方向を変えた努力は、計り知れない。犠牲になった八人の冥福を祈り、決して忘れないようにしよう。


十三

 海は治まったが船の損傷がひどく、最も近い夙卦しゅくけ津に寄って、修復するための作業が始まった。

 船底のくりき木、中胴のおも木とたな木、両側の舷側けんそく板は強固に組み合わせていたため、幸い損傷も繋ぎの抜けもなかった。


 海水さえ汲み出せば、そのまま己実津まで行けそうだが、漕手の身体を支える船底の下梁しもはりの仕切板が流出し、海上部は棚木たなきが割れ、船首の波除はじょ板も流失していて、方向が定まらない。


 修復は一日を費やし、出発は明日の夕刻と聞いた。夙卦しゅくけの者は、この三十三人が征西隊であることを知らない。もし勘付かれたら目と鼻の先にある西国へ、直ちに情報が流れる。


 コウスの同道隊は全員が負傷している。治療も併せて宿舎を手配する前に、どうすれば勘付かれないかマイヤ、ニコル、シモンに相談を持ち掛ける。


「多くの大人が、同じ己実津へ向かっているのだ。いくら遊山の旅と言っても信じてもらえまい。また五隊に分けても同じ船に乗るので、目眩めくらましはできない。急いで手配した今夜の宿が、最も危険になる。」


 マイヤは腕を組んで思案するが、良い策が出ない。シモンも同じだ。するとニコルが自信無げに、ひとつの策を出してきた。


「どうでしょう。二人か三人ずつに分けて、誰もが面識のない乗り合わせにすれば……。この中に伝助も嗅助も潜んでいて、物資の交易人や行商人も。もちろん家族だって。船上で軽い挨拶や、話はあっても名前や身元、行き先を明かす人はいないはず。」


 己実津行きの乗り合い船であれば、災難に遭って気の毒な旅人たちになる。良い策だとマイヤが言ったので、コウスはこれで行こうと決めた。

 まだ日は天頂を過ぎたばかりで、行動を変更する時は十分にある。


「まだ皆は桟橋で、修理中の船を眺めている。よし、この四人が別々に皆のところへ行って、役目を決めて歩こう。ひとり旅が七人で伝助、二人旅は五組で嗅助と伝助、三人旅は四組で女人と子連れと大人だけの家族、四人旅はひと組で物資買付だ。」


 組み合わせを作ると、四人は桟橋へ向かった。コウスは修理中の船を眺めながら、左から一人ひとりに小声で役目を伝えて歩く。


「この隊は、今から互いに面識のない旅人になる。この七人は伝助でひとり旅、ここから十人は嗅助と伝助の二人旅だ。船が治って乗り込むまで、他の旅人と話をせず、互いに目も合わさないように。」


 ニコルは右から歩き、小声で三人旅を三組指示する。コウスとマイヤ、シモンは三人旅の家族にして四組目だ。

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