表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
倭都タケル=吾のまほろば=  作者: 川端 茂
第四章
48/108

山沿い隊と海沿い隊は、敵の嗅助を警戒しつつ進む

 山沿いの先導隊八人が出た。続いてコウス、ニコル、マイヤの中行隊は二丁半ほど離れた頃合いで出ると、後護隊も同じ間隔を見測って出た。


 二丁半とは、他の旅人に同道隊と見られないが、前後の隊を確認でき得る最短の間隔だ。

 しかし、ずっと同じ間隔では怪しまれるので離れたり、時には道を逸れたりもする。勾配や蛇行が激しい道では、前のひとりが間で誘導する必要もある。


 海沿いの二隊は三丁半間隔の頃合いを測って出た。平地が多く街道に沿って集落や漁舎のある村が連々と並び、様々な人の往来がある。

 見通しが良いため二丁半間隔では、離れた同道隊と見られる危険があるためだ。


 左に海と大小の島、右に広大な田畑や山稜を臨みながら、兵士とは悟られないよう街道を進む。時おり伝助か嗅助らしい人物とすれ違うので、その毎に一行は緊張する。


 漁夫たちが船で作業に勤しんでいる光景を眺めながら歩いていると、行商姿の中年の男が、にこやかな表情で近付き、声を掛けてきた。


「もしもし旅のお方々。どちらへ参られるのですか。何処かの高貴な領主様のお役人とお見受けしましたが、魚をご所望でしたら、某の漁舎をご覧いただけませんか。漁舎はすぐそこです。」


 何とも馴れ馴れしい男に、どう応対したらいいのか困っていると、隣の連れが手を広げて断りを入れた。


「折角だが、我々は魚を求めているのではない。先を急ぐので、失礼する。」


「お急ぎの旅ですか。何かお困りごとがあれば、お役に立つかも。この地は詳しいので。」


 この手の者は嗅助だ、関わってはいけないと黙って足を速める。男は諦めて立ち去った。


「助かったよ。この先、まだまだ嗅助が目を光らせて寄って来るだろうな。今の急いでいるはいい。他は、領主の役人に見えるようなので否定せず、あるじの指示で街道や景色を検分に来たと言うのも、旅人らしいのでは。」


「そうだな。主の名を聞かれても拒否できる。なぜ街道や景色かと聞かれたら、我々は門番と見回り役だから、何も知らないと言おう。」


「不審に思われたら、近々に主が遊山に来るらしい程度で、茶を濁せば。」


 海沿い先導隊の八人が、嗅助への対策で話を合わせ、近寄って来ても無視するに限ると決めた。三丁半あとを進んでいる後護隊も、難儀するだろう。


 山沿いの三隊は、田畑が広がる平地を進み、山麓に突き当たった。道案内が北に道があると北回りに誘導し、細い山道に踏み入る。もう集落も人影もなく、両側の木々が覆い被さって、聞こえるのは騒がしい鳥の囀りだけ。

 出雲へコウスに同行する三人は山沿い隊にいて、後護隊に配属されたケイシが気を引きしめた


「これから厳しいぞ。足許に気を配り、木の陰に山賊が潜んでいないか、よく見ながら進もう。」


 細い山道を睨んで気を引き締める六人に、道案内人がなだめるように言った。


「高い山は遠くにいくつか見えますが、進む方角は低い山や丘ばかりで、集落がある平らな個所も通りますよ。よく下り坂で馬が怪我をするので、お気を付け願います。」


 曲がりくねった長い坂を上がり、下り坂を二丁半越えた所で休憩に入り、昼飯の握り飯を頬張った。中行隊も坂を上がり切った所で休憩だろう。今のところ、何も異変はない。


 道端の石に腰かけて昼飯中のコウスが、ふと異様な気配を感じ、立ち上がった。

 慎重に周囲を見渡すが、木の陰にも道の前後にも動きはない。山賊に狙われていると危険なので、皆に身を伏せるよう両手で合図した。

 しばらく様子を窺ったが、何も起こらなかった。マイヤがそっと近付き、気配はどの方面だったか聞いてきた。


「左の方で何か気配を感じた。山賊が弓で狙っていると思ったが、気のせいだったか。」


「拙者も左の方で、木を引き啜るような音を聞きました。猪か、鹿だったと思います。その警戒心があってこそ、安全なのです。」


 中行隊の七人は胸を撫で下ろし、しかし警戒は解かず上り坂より急な勾配の坂を下る。

 後護隊が見えないので、少し速度を落とす。草を分け、顔に掛かる木枝や蜘蛛の巣を払い、馬が木の根や石に躓かないよう気を付けながら。


「蜘蛛の巣が多いな、先導隊が通った後でもこれか。あまり伝助や嗅助が使わない道だな。油断はできないが。」


 道案内人に聞こえないよう、コウスとニコルが小声で話していると、前方が明るくなって開けた。眼下に田畑や集落があり、遠くに海や島が見える。


「お客さん、山をひとつ越えましたよ。これから二里ほどは平地です。もう少し歩くと鉢峰はちみね集落で、今日お休みになる宿に着きますが、大きな宿がないので四人と二人に分かれます。夕餉も朝餉も、ご一緒に召し上がれませんが、ご辛抱ください。」


 日は西の山に沈んでおらず、まだ一時半ほどは明るい。この距離が一日の道程なら楽だ。

 眼下を見ると三丁ほど前を先導隊が集落に向かい、正面から入るようだ。マイヤは道案内人に、違った道から宿に入るよう指示しようと考えた。


 万一でも敵の嗅助が宿の近辺に潜んでいて、三隊が同道者や仲間だと見破られたら、目的が台無しになる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ