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倭都タケル=吾のまほろば=  作者: 川端 茂
第四章
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尾道は一泊、陸路を二手に分けて十七里先の未羽へ

 首長がしっかり準備を整えると約束し、首長と役人の後ろを山に向かって北へ五丁ほど歩いた。

 そこで立ち止まって指さしたのは、高床で壁が総板塀の倉庫のような建物だ。同じ造りの建物は、あちこちに点在している。


「お休みいただく宿は、あの二軒です。この津は旅人がよく立ち寄られ、雨や風を防ぐ板張りの宿を所望されて、今では十軒ほどございます。お連れ様は大人数ですので、二軒に分かれてお休みいただきとう、お願いいたします。十人ずつお入り戴ける風呂が、別の棟にございます。」


 二軒並んだ大きな宿舎の前に立ち、マイヤが難波からの兵十六人と、針間からの兵十五人に分けた。女人二人がいるので、小さな宿舎を加えてもらい三軒にしてもらった。


 宿舎は幅一丈、奥行き四丈ほどで広い。入口の右側に厠が二部屋、そこから奥まで廊が渡り、引戸付きの四部屋に区切られていた。

 明り取りは各部屋にひとつ、六尺角の窓が庇の下あり、廊に窓はなく、屋根の下が横に細長く空いているだけで薄暗い。


 夕日が沈んで、部屋は急速に暗くなった。出入口に近い板の壁に備えられた行燈と、持ち歩ける行燈に火を灯したマイヤが、コウスを誘って外に出た。

 宿舎の周囲を一回り歩いたが、中に人がいる気配がしない。まるで食糧を貯える倉庫だ。


「外から見えず、話し声も漏れない隠密造りですね。たびたび訪れる嗅助や伝助の要望を聞き入れて建てたのでしょう。彼らには、よく出来ている建物ですが、旅人にはどうでしょうね。」


 マイヤは嗅助専用だろうと言ったが、我々のような大人数は旅人と見るはず。それを倉庫のような建物に入れた。敵の嗅助から目を反らす必要を知っての配慮か。


「部屋ごとに布団が四人分積んであっただけ。冬になったら、暖はどうするのだろう。」


 とっぷり日が暮れた時分、行燈を灯して着飾った女人が四人ずつ、夕餉の膳と酒を手に各部屋に入った。

 今宵は首長の挨拶や、我が方の自己紹介はない。もちろん宴会もないが、希望すれば一夜を娘子と過ごせる部屋が、別棟にあると言う。それにはマイヤが丁重に断りを入れ、食べ物と酒だけ受け取って帰した。


 嗅助や、行きずりの旅人が一泊する宿舎は、お世辞にも快適とは言えないが、旅人への配慮は心得ている。

 娘子と一夜を共にできないのは、その女に嗅助の疑いがあるからも理由の一つだ。コウスは凱旋で立ち寄って、叶えてやればいいと思った。


 マイヤが各部屋へ行き、夕餉を済ませて出歩かないこと、静かに寝ること、明日は馬が揃ったら五隊に分散して出立するので、荷などの準備を整えておくよう伝えた。


「おはようございます。朝餉をお持ち致しました。」


 昨夜の女人が今度は着飾らず、二人ずつで入って来た。


「よく眠れましたか、寒くはなかったですか。」


 女人はコウスに聞いてきた。よく眠れたと答えると、今朝はとても良い天気なので、楽しい旅になりそうと、目を細めた。


 あと半時ほどで案内人が馬を十頭引いて来ると、役人から報告が入った。マイヤがその間に、宿舎の裏へ全員を集め、五隊分散の組み合わせを指示する。寝る前に、コウスと取り決めたものだ。


「おはよう。よく眠れたかはともかく、あと半時で五隊に分散して出立する。組み合わせは山沿いが三隊で、海沿いは二隊とする。山沿いの先導隊が纏向兵七人。中行隊が皇子、高尾兵ひとりと女人ひとり、伊勢兵三人の六人。後護隊が高尾兵二人と針間兵四人の六人とする。」


 山沿いは山賊に襲われる危険があり、また嗅助の往来で作られた、気が抜けない山道を使う。マイヤは人数だけを指定し、人員編成は相談で決めて隊を作るように促した。


「では次、多くの人が行き交い海からも見える、注意を要する海沿いだ。先導隊は纏向兵三人と針間兵四人の七人。後護隊は針間兵七人とする。これで五隊だ。一隊にひとりずつ道案内人が付くので、人目を警戒しながら外遊の旅を装い、道案内人と仲良くし、楽しそうに進むこと。」


 山沿いも海沿いも距離は変わらず十七里で、四里ごとに宿場を手配されている。一日に四里は、さほど慌てる距離ではない。


 どちらも未羽から二里手前で道案内人が役目を終え、あとは道を探りながら未羽津に着く算段だが、山沿いは起伏の激しい道がいくつかあるので、海沿いより半日くらい到着が遅れるだろう。


 編隊が整い、道案内人と馬も揃った。出立にあたって、キル・タオ首長と役人五人、女人四十人が見送りに出てきた。


「お気を付けて、旅を楽しんでください。お帰りにはぜひ再び、この尾道にお立ち寄りください。」


 マイヤとシモンが前に出て、一宿二飯の礼を述べると、首長が御守札を一人ひとりに配り始めた。


「昨夜、登良とら神社で拝んでもらった、旅の安全を祈願した御札です。気休めにでもなればと。」


「いやあ、それは、それは。お気遣いありがとうございます。」


 マイヤが両手で額まで札を上げ、首長に感謝すると、他の者も拝みつつ、札を受け取った。続いて昨夜の女人が、昼飯の茶と握り飯を一人ひとりに手渡して回る。

 これが征西でなければ、さぞ楽しい旅なのだろうと、コウスは悔しく思った。

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