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倭都タケル=吾のまほろば=  作者: 川端 茂
第四章
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航行が難しい拾島に近付くと、回鬼水軍の赤い旗が

「纏向では拾島としま海峡が危険と、陸路を計画されたが、ハリマ王が陸路の長い距離を心配し、船を調達してくれた。陸路だと今頃、深い山の中かな。深い山と言えば山賊、そうだ見たい物がある。マイヤ、其方の弓矢だ。」


 伊勢で叔母が言っていた、一丁先の雀を射抜くマイヤの弓矢を見たかった。百発百中の弓矢はどんな代物なのか。纏向の弓矢では、どんな腕利きでも無理だから。


 マイヤが部屋を出、弓矢の入った麻袋を大事そうに抱えて戻ってきた。麻袋は細くて、左肩から右腰に背負うと、弓矢を納めているようには見えない。


「その細い袋に、伊勢で山賊を撃退した弓と矢が入っておるのか。」


「左様です。これが弓、これが矢です。」


 麻袋から丁寧に取り出した弓と矢。弓は長さ三尺しかなく、二度見するほど短い。幅一寸、厚さ四分に削った竹を三層束ねて太い麻糸で縛り、成形している。


 弦は強く撚った麻糸で、元弭もとはずの一方を外して、小袋に入れていた。これなら弓が反らず、麻袋が細くなるはずだ。


---この弓で飛ぶのか、敵を射抜けるのか。まるで童子の玩具みたいだ。


 弓もそうだが、矢は見た目がまるで違う。軸が竹ではなく、太さが二分しかない鉄の丸棒だ。

 板付やじりはなく、尖った先に返しが二ヶ所あるだけ。三枚の走羽はしりばねは前が短く、次第に後部が長くなっている。矢も長さ三尺で、弓と同じだ。


「驚かれたようですね。この弓は近的用で射程は五~七丁、短いので人混みの中でも使えます。矢は軸が細いので、矢籠に二十本納められます。ちょっと重いですけれど。」


 マイヤは近的用だと当然のように言う。なぜ征西に、この弓矢を使うのか聞いても、笑うだけで説明がない。


 西国の茶蓮ちゃれ山麓に敵が砦を建造中で、近々に棟上げの宴がある。その宴にコウスとニコルが潜り込む。後方で敵兵に混ざってコウスを警護するが、その射程が五~七丁で間に合うのか。


 伝助の情報だけで、コウスには想像できない敵の動きや、砦の規模・広さを熟知したかのように、警護の距離まで定めて弓矢を揃えるとは。


 また伊勢で、叔母ヤマトヒメがマイヤに同道を下命し、その日の夕刻には神宮の鳥居で会った。そんな短い間に、この弓矢や長旅の用意ができたのか。

 これが叔母の神通力だとすると、その凄さに鳥肌が立ち、身震いさえ覚える。


---吾に伊勢の神威が助力してくださり、恵枇の国主討ちを果たせる気がしてきた。


 都合の良い思い違いは禁物だが、倭都を統一して戦さのない国を目指す、天皇の願いは正しい。神の御加護を信じ、吾は強いのだと自信を持とう。


 針間を出て三日目の朝。昨日までの雨空とはうって変わって、爽やかな晴天だ。

 白い雲が空高く浮かび、海も空も澄み渡って蒼い。船の進路方向には、大小の島々が海面から顔を出し、朝日を浴びて蒼く輝いている。


 日が天頂を過ぎた頃、前方の島々が徐々に数を増し、船の行く手を阻む様相を見せてきた。


 甲板では船員が針間の昇り旗を四本、慌ただしく船の舳先や船尾に立てていた。周囲に小型の漁船が操業していて、どの船も針間の昇り旗を立てている。

 甲板で雄大な景色を楽しんでいたコウス、マイヤ、ニコルと数人の兵に、針間のシモンが歩み寄って来て、前方や周囲の漁船を指さす。


「もうすぐ拾島としまの近辺なので、昇り旗を立てました。針間の漁船や商船は、回鬼水軍が他の海賊を追い払います。この先からは真っ直ぐ進めない海峡ですので、尾道津の手前までこの船を先導してくれます。」


 すると四方八方から、弓や投石機を何基も備え付けた黒い船二十隻ばかりが、急速に近付き取り囲まれた。船はさほど大きくないが、船数と船影、速さも異様だ。

 これが知らない海賊だったら、恐怖で震え上がって当然だと、コウスは思った。


 誰もが回鬼水軍だと思ったが、反射的にマイヤと伊勢の弓士二人は身構え、背の弓を抜き出し、矢に手を掛けた。それを針間のシモンが両手を広げて止め、船室に入るよう促す。


「物々しいですが、あれが我々の味方で回鬼水軍です、万一でも危険があってはなりません、急いで船室へご退避願います。」


 たとえ味方であっても、元は海賊。間違っても怒らせてはいけないと、船室の方へ下がろうとしたら、前方の船から濁声だみごえが聞こえた。


「回鬼水軍だ。針間の船と見受け、拾島の先まで先導致す。」


 赤い旗を立てた、ひと回り大きな船からの声だ。同時にその船から、太い綱を結んだ矢が放たれ、船の舳先を飛び超えて海に刺さった。

 船首に横たわった太い綱に数人の船員が走り寄り、摑えて尖った舳先の柱に結ぶ。


 綱を結び終え、船員が手を挙げると、赤い旗の船が西へ方向を変え、ゆっくり進み始めた。針間船も四十本の櫓が掛け声を上げ、速さを合わせて海面を漕ぐ。


 回鬼水軍の船は前方に五隻、左右に三隻ずつ、後方に九隻が寄り添って進む。この手際の良さを、感心しきりで見ていた兵たちの顔、顔。

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