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倭都タケル=吾のまほろば=  作者: 川端 茂
第四章
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祖父と祖母に見送られ、胴部が黒い大きな船で出航

「皆の者、よく聞け。ここに御座おわす征西隊が今夕、西国に向けて出立する。若い大将のコウス皇子と女人剣士、後方警護を担う伊勢、纏向、高尾、針間の卓越した連合弓隊が目的を果たし、ひとりも犠牲にならず凱旋することを、朕は願う。短い二日間だったが、皆も心を込めて送り出してもらいたい。」


 場内から拍手が沸き起こり、いつまでも止まない。その間に征西隊全員が立ち上がり、王と場内に深く頭を下げて座った。拍手が止んだので、コウスが応礼の発声をした。


「盛大な拍手、誠に恐縮致しております。手前は十六歳で若輩と言うか童子ですので、剣術や弓術に長けた同志の方々に護って頂きながら、祖父ハリマ王が仰せられた御言葉を胸に秘め、全員が揃って元気に戻って参るよう、努めます。有難うございます。」


 再び拍手が沸き起こり、止まない。すると王が立ち上がって両手を上げ、拍手を収めた。


「コウス皇子は朕の孫で若いが、今の力強い応礼に景行天皇の教えが伝わって来た。誠に嬉しい。では出立支度が控えているので、早めの夕餉だが楽しんでもらおう。」


 夕餉が始まると、コウスはすぐ祖母アオナヒメの席へ行った。

 やっと顔が見られて声も聞けた。祖母は身体を壊して床に伏せていると聞いたが、顔色が良く元気そうに見える。

 幼い頃に可愛がって貰った思い出話をすると、たいそう喜んで聞いてくれた。もう思い残すことはない。


 数人の役人や兵が、次々と酒を注ぎに席へ来た。しかし昨夜の嘔吐おうとの失態があったためか、激励者が少なくて助かった。


 夕日が沈んで外は暗くなった。半里先の桟橋だけは篝火が焚かれ、明るく浮かび上がっている。


 大き目の編笠と麻袋を背負い、腰に麻綱を下げた旅人姿の征西隊が、警備兵の後に付いて船に向かう。針間に来た時も夜で、この景色は見えなかったが、何故か懐かしさを覚える。


 桟橋に黒い船が係留されていて、漕手であろう厳つい男たちが大勢並んで待っていた。


 副隊長のシモンが船員は百三十人で、八十人が漕手、二十人は船の整備役と警護兵。その他に調理役や荷役、世話役がいて、船内に待機していると説明があった。


 船は思っていた以上に長い。幅もあって甲板が広く、中ほどに大きな屋形が設えてある。胴部から出た櫓が片方で二十本もあるのだから、速いだろう。

 胴部が黒いのは、この海峡に多数ある浅瀬や岩礁から船を護るため、鉄の板を張っていると教えてくれた。よく見ると、この船は舳先へさきが尖っている。これは向かい潮でも、進みやすいからだと言う。


 再び桟橋で警護兵の剣礼の儀が行われる中、王と妃、息子たちに別れの挨拶をして船に上がった。

 甲板から手を振ると、桟橋の奥に大勢の民も出ているのが見える。手を振る者、お辞儀をして見送ってくれる者たちに、大きく手を振って応えた。


---出雲さえなければ、戻る事が出来るかもしれないのに。


 もう二度と針間の地には立てないと、コウスは観念している。重く悲しい感情が込み上げ、涙が止まらない。

 目指すは西国だ、もう恵枇の国主を倒すことに全霊を注ごう。もし命があれば、出雲はその後で考えればいいと、自分に言い聞かせる。


 威勢の良い漕手の掛け声で、針間津を出た船は、闇の中へ突っ込むように進む。海風は弱いようで大きく揺れず、乗り心地は快適だ。


 まだ夜が更けて間もない。コウスは与えられた船室に、ニコルとマイヤを呼んだ。

 難波津を出港してから二人とは、ゆっくり話をする機会がなく尾道までの、五日間の航海中は絶好の機会だ。

 二人が考えていることや不安を聞いたり、また聞いてもらうのも必要と招いたのだ。


「今日はお疲れ様。隊長もニコルも色々な人と会い、手配や連絡で大変だったと思う。吾も針間で祖父と祖母に会えたのは嬉しかったが、小さい孫に見えるのか気遣いしてくれて、逆に疲れたよ。」


 ニコルは身を整え、髪もさっぱりしていた。聞くと、むろで汗を流して着替えて来たと、にこやかに答えた。昼間は見せない愛らしさが加わって、ひときわ眩しい。


「大きな布を抱えた世話係の人が部屋へ来られ、先に汗を流しましょうと窯へ案内してくださり、召し使いと二人で使わせていただきました。船は男ばかりなので、女人が乗っておれば先に使うのが、習いだそうです。」


「今日は雨に濡れ、汗もかいたので、それは良かった。この船の窯は大きかっただろう。四十櫓だからな。」


「はい。二十人くらいが一度に汗を流せる大きな窯でした。漕手は汗びっしょりで、交代になると我先に窯へ飛び込むそうです。」


 密閉した部屋の真ん中から、多量の蒸気が立ち込める窯。その熱さで汗が噴き出し、汚れを膨潤させて落とす。それを水で流して拭うと、身体がさっぱりして涼しくなる。

 マイヤは桑名くわなで、呉の武具商船に何度か乗って窯の魅力を知ったそうだ。その船も四十櫓で、窯の大きさに驚いたと言う。


 窯の話で盛り上がると、コウスも大きな窯に入りたくなった。船は揺れるが楽しい。陸路は大好きな騎馬だが、乗り続けると身体が痛くなる。長い距離は船がいいと思った。

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