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倭都タケル=吾のまほろば=  作者: 川端 茂
第三章
39/108

初体験の船は心地よい、船内で賑やかに夕餉の宴を

 呼び名や指令系統は、夕餉の席で提案しようと思った。


 日が水平線に沈むと船員に呼ばれ、集会の間へ十八人が集まった。八人掛けの円卓にコウスとニコル、高尾兵と女人の五人が座り、纏向兵と伊勢兵は、隣の円卓二台に分かれて座った。

 

 すぐに調理人と船員が夕餉の膳と酒を運んで来た。揃ったところで、最高位の者が一言発声するのが通常で、この場はコウスが役目だと船長から助言があった。

 コウスは促されて立ち上がり、三卓に居並ぶ同道兵をゆっくり見回した。


「えー、纏向からここまで、何事もなく進むことができた。旅は始まったばかりだが、心尽くしの夕餉を戴こう。酒壷が行き渡ったら注いで、乾杯の音頭は伊勢のマイヤ隊長に願う。」


 突然の指名に驚いたマイヤ。立ち上がってコウスを悪戯っぽく睨んだが、笑顔になって右手の酒盃を顔の前まで上げた。


「コウス皇子よりご指名戴きました、伊勢のマイヤです。皇子が仰せの通り、旅はまだ始まったばかり。針間では二泊し、十五人の警護兵が加わる。旅路で不意の災難や難儀に遭遇するかもしれず、皆々の気遣いと相互協力こそ、何より肝要であろう。では全員起立を願いまして、安全な旅に乾盃。」


 マイヤ隊長の発声で、起立した全員が大声で乾盃した。難なく征西軍の隊長がマイヤに決まり、同時に自分も皇子と呼ばれたので、コウスは喜んだ。


 夕餉は数々の魚と野菜を盛った、豪華な料理で美味い。酒も針間で造った銘酒だと、調理人が自慢するだけあって旨い。コウスは食しながら、ニコルの呼び名に話を変えようとした。


「魚は好きか。この海で獲れた魚ばかりと言っておったぞ。」


「魚は大好き。こんなに沢山の魚を見るのは初めてで、この赤い魚がすごく美味しい。高尾の食べ物は穀物と野菜が普通で、お祝いの日に猪や牛の肉かな。魚は滅多に口にしません。」


 魚に満足そうなので、ここで呼び名に話を振った。これから二コル同志と呼ぶと告げたら、ニコルだけでいいと、即座に否定された。同志は全員というのが理由だ。


 隣卓のマイヤが酒を注ぎに来て、拙者はいつから隊長になったのかと聞いてきた。今からだと答え、夕餉の後で、マイヤを隊長として指令系統をはっきりさせようと伝えた。


「他に適任者がいないなら、拙者が隊長でも構わないが、指令系統はとても重要な案件だ。これは針間兵が加わってから決めよう。」


 船は進んでいるが周りの海は真っ暗で、空に雲間の星と西空の半月、遠くに民家らしき灯りが点々と見えるが、他は何も見えない。甲板に立つと微かに波音が聞こえ、海の闇の深さと静寂に、底知れない恐怖を覚える。


二十

 船の正面に、灯りの固まりが闇に浮かんだ。船員に聞くと針間津だと答え、忙しそうに足早に去った。灯りは近付くにつれて数が増え、辺りの景色が漠然と分かるようになった。

 針間津に着いたのだ。船は長い桟橋に沿うように進む。ゆっくりと着岸し、船底から漕手の掛け声が、歓声に変わった。


 船の係留が完了すると、船員の先導で征西隊が甲板に立った。桟橋は十本の篝火が焚かれ、大勢の人出が見える。

 小さな漁船や運搬船が多数係留しているが、倭都の軍船ほどある大きな船も数隻停泊していた。難波津に比べ交易が盛んな、針間の玄関らしい大きな規模の津だ。

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