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倭都タケル=吾のまほろば=  作者: 川端 茂
第三章
38/108

アマミに会えたが身分の壁に阻まれ、遂に針間へ出航

 目の前には倭都の軍船とすぐ判る、白い大きな船が停留している。左右に各十本の櫓が出ていて勇壮だ。桟橋では兵や役人が大勢整列し、少し離れた場所には見物の民も多数いる。


 見物の民に混ざって、見覚えのある家族が目に入った。娘子は確かにアマミだ。コウスはアマミがどうして難波津にと、目を疑ったが間違いない。

 普段の作務衣でなく、緑に黄の柄を散りばめた着物姿だ。化粧もしており、眩しいほど美しい。


 思わずコウスは馬から飛び下り、アマミに向かって走った。他の同道者は何が起こったのか分からず、警護の従臣二人も馬を下り、コウスを追って走る。


「アマミ、アマミではないか。会いたかったぞ。」


 アマミの両腕を手で挟み、引き寄せようとすると身を固くして拒んだ。何故だ、痛かったのか。手を離すと、少し下がって深々と頭を下げた。


「コウス様が西国へ戦いに行かれると聞き、父と母と兄と一緒にお別れに参りました。お馬さんは白いクララさんじゃないのですね。お会いできて、お声も聞けて嬉しいです。」


「クララを西国まで連れて行けないからな。吾も会えて嬉しい。だが、なぜそんなに畏まる。人が大勢いて、家族と一緒なので恥ずかしいのか。」


「それもありますが、コウス様は景行天皇の第二皇子様でしょう。農民の私如きが、親しくしてはならないのです。今まで知らずにご無礼を重ね、申し訳ございませんでした。」


 アマミは涙を滴らせ、深く頭を下げて詫びる。その背中を母親が擦り、父親も兄も頭を下げている。

 身分を明かさなかったので、早駆けのたびに楽しい時を過ごせたコウス。会うたびに情が嵩じて、寒い日は互いに手を重ねて温め合い、冷たい風は抱き合って凌いだ。


 あの幸せを、身分という壁がアマミを引き離した。討伐した帰り道に、大田でアマミを側女に欲しいと両親に伝え、願おう。それしかない。

 そのためには何としても生きて帰らなければ……。もう乗船まで時がない、皆が待っている。


「アマミ、吾は其方が大好きだ。必ず帰るので、その時は友者として迎えてくれ。それまで身体を大事にな。皆様も御達者で。」


 コウスはここで従臣と別れた。征西隊が兵や役人二十人に付き添われて、船の階段を上がった。船内の集会広間に入ると、水夫姿の船員、警護兵、身辺の世話係や医官、調理人、船の漕手など五十人ほどが並んで迎えてくれた。


「征西隊の皆様、手前は船長を務めますウ・ヒンと申します。この船は十分に整備しており、安全に運行いたします。難波津からは潮の流れに逆らって漕ぐため、針間津に着くのは夜半になるでしょう。どうぞごゆっくりお寛ぎください。」


十九

 船が桟橋を出て旋回し、針間への出航を開始した。船は二百人乗りだが、征西隊十八人しか乗らなかったので、閑散として静かだ。船底から漕ぎ手による、威勢のいい掛け声が聞こえてくる。

 船室はコウスだけひとり部屋で、兵たちは出向地ごとに相部屋になっていた。女人二人の部屋は別に用意されている。


 少し荒い波を掻き分け、傾きつつある日に向かって船が進んでいる。コウスは海洋に出るのが初めての体験で、船が海の上を滑って進むことに感動した。

 水上を進む船は、何とも不思議な感覚だ。船に波の当たる音がして大きく揺れると、足許が動いて一抹の不安を覚えるが。


 コウスは部屋を出て、甲板から舳先へ歩いた。海が日を反射して眩しく、白い鳥の群れが飛んでいる。振り返っても、もう難波津は見えない。アマミは家族と家路についているだろう。

 舳先で組んだ手に顎を乗せて、船の行先を眺めているコウスに、若い船員と警護兵が来て声を掛けた。


「船からの見晴らしは如何ですか、隊主様。あの日が沈んだ頃に夕餉の支度が出来ます。集会広間で皆様とご一緒にお召し上がりになられますか、それともお部屋の方がよろしいでしょうか。」


 驚いて振り向いたコウスは、笑顔で話してきた船員に、聞いたことのない隊主と呼ばれて、戸惑った。

 ニコル、纏向兵、高尾兵、伊勢兵は、天皇とヤマトヒメが差し向けてくれた同道者なのに、同じ目的を持った仲間のように思っていた。だがそれは勘違いで、コウスは討伐戦隊の隊主だったと知った。


「皆と一緒に食したい。」


 征西隊は、自然に名前でコウス様、ニコル様と呼んできた。それでも良いのだが、行き先は戦地なので、何らかの呼び名が必要だ。

 では何と呼んでもらおうか。名前より、従臣が使っている皇子の方が聞き馴れているし、難波津の桟橋でアマミも、皇子様と呼んだ。


---うーん、呼び名か。高尾のニコルは、伊勢のマイヤは、針間の兵、兎農の兵……。


 コウスは部屋に戻って考えた。五ヶ所から腕利きの兵が集まり、西国の火良村に着いてから、準備や作戦を練る急ごしらえ軍だ。針間と兎農の兵とは、まだ会ってもいない。


「吾は討ち手だが歳下なので、ニコル以外は名前で呼べない。兵はわずかだが、呼び名や指令系統は作っておかねばいけないだろう。」

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