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赤い蜜は罪に濁る  作者: 竪川杼緯


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5/20

5.血の気が多いなら血抜きをしよう

 食事を終えたリリスとゴドフリーは適当にくつろいでから店をあとにした。まだまだ話に花を咲かせているペトルが店を出るのは時間がかかるだろう。下手にペトルを見張って店に居座ると変に覚えられてしまうかもしれない。あまり目立つことをよしとしない二人は店を出ると死角へと潜り込んだ。何度か不自然にならない程度に人目を避けて、ペトルが店を出て一人になるまで時間を潰せる場所へと移動した。

「ここなら大丈夫だろう」

「そうね」

 やがて上機嫌で店から出てきたペトルは仲間たちと別れた。すでに日没間近。このまま家路をたどるだろう。リリスたちは付かず離れずでペトルのあとを追った。そして人の目が途切れた一瞬の隙を狙って薄暗い路地へと引きずり込む。壁にペトルの胸を貼りつけるようにしてゴドフリーが後ろから押さえつけ、リリスはなにかを振り払うような仕草で軽く腕を動かした。とたんに三人を闇が包み込む。姿を隠し、音を遮断し、気配を消すための結界だった。これでどれほど暴れて喚き散らそうとも周囲へ気づかれることはなくなった。

「なにするんだ!」

 胸を壁に押さえつけられているペトルは、必然的に顔を横に向けて頬も壁にぺったりとついている。まるで壁に俯せになっているような状態だったが、いっこうにおとなしくなることはない。どうにか拘束から逃れようと体全体で暴れながら大声で叫んでいた。ゴドフリーは眼の前にあるペトルの耳元に口を寄せた。

「おとなしくしろ。ちょっと聞きたいことがあるんだよ」

「聞きたいこと? こんな扱いをする奴に答える義理はない」

「なんだ、親切で言い訳を聞いてやろうとしたんだが、必要なかったか。だったらこっちの勝手な判断でさばいても問題ないな」

 先の尖ったゴドフリーの爪がペトルの頬をなぞる。いったん止めて、軽くつつけばペトルはとたんに泣き言をもらし始めた。

「やっ、やめろっ。いったいなにが聞きたいんだ」

「なんだ。たわい無い」

 ゴドフリーが残念そうにつぶやく。リリスはため息をこぼしながらゴドフリーの愛称を呼んだ。

「レイ」

「わかってるさ」

 軽い返事だったがそれはある意味いつものこと。

「だったらいいけど」

 きっと他のものがそのようすを見ていれば、それだけで済ませるのかと呆れた視線を向けたであろうが、リリスからしてみれば結果が良ければそれでいいくらいにしか思っていないのでそれでじゅうぶんだった。

「さて、それじゃ、聞かせてもらおうか」

 そう宣言したゴドフリーは、ペトルに最初の質問を投げかけた。

「プラチナブロンドの少年を知っているな。お前がスタレー・ムニェスト広場で一緒にポムラースカを買っていた少年だ」

「クラスメイトのブロルのことか?」

「そう。その少年にベリコノッツェについてどう教えた? 特にポムラースカの使い方についてだ」

「なんだよ、そういう言い方をするってことはもう知ってるってことだろう? だったらわざわざ僕が答える必要はないじゃないか」

「いいのか? 事実と違うことを言われているのかもしれないぞ?」

 そう半ば脅すようにいえば反論は諦めたのか、ペトルは嫌々ながら必要なことを順に話し始めた。ゴドフリーたちはこの程度の反抗には慣れているので気にしなかった。むしろペトルは素直な部類に入る。だから些細な反抗心はあっさりスルーして、話の内容にだけ耳を傾けてブロルから聞いた話と照らし合わせていく。自白した内容はすべて一致した。

「なぜそんな嘘をついたんだ?」

「あいつがいつまでも転校しないからだよ。長くても半年しかいないって先生が言うからまとめ役を引き受けたんだ。それなのに半年をすぎてもまだ転校しない。しかもクラスの女の子たちにあのプラチナブロンドがかわいいとかなんとか言われて浮かれてるし。あいつがいるとろくなことにならないからだよ」

 要するに女の子を取られた腹いせといったところか。たしかにこのゴールデンブロンドならば王子様と騒がれても不思議はないかもしれない。そうしたものに憧れるお年ごろでもある。

 ゴドフリーはリリスへ視線を向けた。軽く肩をすくめただけでリリスはなにも言わなかった。だが同意するように肩をすくめてみせたゴドフリーの態度から、同じようなことを思ったに違いない。いわく、ただの嫉妬だと。

「それで?」

 わかってはいたがそれでも先を促せば、ペトルはもうついでとばかりにあっさりと暴露した。

「だからあいつに恥をかかせて、女の子たちから嫌われるように仕向けたんだよ。そうすればうまくいけば学校に来なくなるかもしれないからな。むしろそうなって欲しかったからやった。あんなやつ学校をやめてしまえばいいんだ」

「くだらないな」

 ゴドフリーの声音が低く凄みを帯びたものへと変化した。

「自分がモテたいから? 一番になりたいから? そんなことのためにお前に頼らざるをえない相手を騙すのか。クズだな」

 ペトルが着ている黒のポロシャツの襟を右手で引っ張るようにして首筋をさらす。

「なにをするつもりだ?」

 ゴドフリーから漂いはじめた冷たい気配に怯えたように、ペトルの声はわずかに震えていた。

「血の気の多い若者には血抜きが必要だろう」

 ニヤリと笑ったゴドフリーの口元からは二本の牙が覗いていた。左手でペトルの後頭部を押さえ。右手でペトルの右肩を押さえる。そうやってあわらになった首筋に口を寄せたゴドフリーは、ペトルがちらっと脳裏に思い描いたとおりに牙を立てた。痛みはそれほど感じないはずだが、襲われているという事実によってペトルの喉は悲鳴をほとばしらせた。そこにいったん口を離したゴドフリーの罵声が紛れ込む。

「まっずっ! まずいッ! お前の血、まずすぎッ!」

「だったらやめろよ!」

「好きでやってるんじゃないんだ! そもそもお前たちみたいな奴がいるから俺がこんなまっずい血を飲まなきゃならないんじゃないか」

「だから飲まなきゃいいだろう! はなせー」

「うるさい! こっちにも事情があるんだよ。ったく、どうせならうまい血を飲ませろよ」

「そんなこと知るかっ」

「知れよ! 血の味なんて心根と生活次第でどうとでも変わるんだ。だからまずいのは確実にお前自身が原因なんだよ」

「だから飲まなきゃいいだけのことだろう!」

「だったら死ぬか?」

「嫌だ!」

「ならおとなしくしてろ。俺がまっずい血を飲んでお前の血気を抑えてやるから、これを機会に改心しやがれ! でないと今度こそ命を落とすぞ」

 ひととおり叫んだゴドフリーは観念したように再びペトルの首筋に顔を伏せると、あまりのまずさに顔をしかめつつも血をすすり始めた。

 改めて牙を立てた際には、またもやペトルの口から情けない悲鳴が漏れた。もちろんこうしたペトルの悲鳴や泣き言もゴドフリーの罵声も、リリスが張った結界から外に漏れることはないので、ペトルにとっての助けどころか野次馬すら来はしない。

 口が塞がって喋れないゴドフリーの代わりに、リリスが口を開く。

「死にはしないわ。これはただのお仕置き。反省して心を入れ替えればなんということはないわ。ただし私たちのことを喋ったり、今までと同じようなことを続けようとすればその牙が刺さっている場所に残した痣から出血して、場合によってはあなたが歓迎しない結果を招くこともありうるというだけのことよ」

「吸、血鬼……」

 ようやく頭が冷えてきたのか。目を瞠ってリリスを見つめるペトルが今更ながら口にしたつぶやきは、彼女たちの本質をただしくとらえていた。

「ええ、そうよ」

「でもあれは想像上の化け物で」

 その化け物に向かって「化け物」と言ってしまったことにすぐさま気づいたペトルが慌てたように口を閉ざす。リリスはマニュアルのような反応をするペトルがおかしくてクスリと笑声をこぼしてしまった。とたんにムッとした表情を浮かべるところすら余計に笑いを誘ってしまうのだということにペトルは気づかないようだ。さらに眉間にシワが増えていった。

 まだまだ少年なのだから、失敗を重ねたり、未熟なところがあるのは仕方が無いことなのだ。だがそれにも限度というものがある。取り返しのつかないことというのは、見えないだけでいつだってすぐそこにある。奈落は常に大口を開けてつまずいたものを呑みこもうと構えている。だからこそ足取りが危なっかしいものがいれば早めに対処しなければならない。

 もちろんすべての人間の監視などできはしない。それはわかっている。けれどゴドフリーが言ったように好きでやっているわけではないとしても、人の道を踏み外すものが少しでも減れば、彼女たちも楽に生きられるようになるのはまちがいない。叶わぬ未来ではあっても少しでも近づければと思うことは、人の身ではないリリスたちとて感情のままに願うことはある。改めてペトルへと視線を向けたリリスは、眉間にシワを寄せて唸る彼が正しき道へと戻ることを願った。

 だがそこでふとリリスはひとつ疑問を浮かべた。ペトルは割と素直に感情を見せている。悲鳴をあげたり、不機嫌そうにしたり、唸ったり。そんな彼がいったいどうして。

「そういえばなぜ嘘をつこうなんてことを思いついたの? 先生にまとめ役を降りたいって相談しようとは思わなかったの?」

「そうすればブロルが学校に来なくなるはずって教わったからだよ」

「教わった? 誰に?」

「知らない。初めて会った黒いスーツを着た男の人だった」

「知らない人の言うことを鵜呑みにしたの?」

 あまりの単純さに呆れたとあからさまに示せば、ペトルは苦虫を噛み潰したように顔をしかめた。リリスはとりあえず話を先に進めた。

「どんな外見の人だったの? 覚えてる範囲で構わないから教えてちょうだい」

 リリスにとってはこちらの情報のほうが大事だった。結局はペトル自身が気持ちを入れ替えて行動で示していかなければ、表面上だけではどれだけ殊勝な態度で反省してみせたとしても意味は無いからだ。

「黒いスーツを着た男の人で、真っ白い髪を後ろになでつけるように流してて、黒いサングラスをかけてた。なんだかSPみたいでかっこいいなーって」

「話すきっかけは?」

「僕がカフェで友達に愚痴をこぼしてたのを聞いたとかで、家に帰る途中でその人が声をかけてきたんだよ」

 あんたたちとは違って。そう付け加えたペトル。この状態でまだ嫌味がいえるとは。リリスは逆に感心してしまった。

「それはそうでしょう。ただ話をするだけなら私たちだって無理やりこんなところへ連れてくるようなことはしないわよ」

 リリスたちは最初からペトルに吸血行為を仕掛けるつもりだったのだから。ペトルの悪行を知った際にリリスの瞳が一瞬閃いたが、それは指令がくだったという印だ。リリスだけが見ることができる使者が訪れたとき、彼女の瞳は閃くのだ。ゴドフリーはそれを知っているからこそ、その瞬間から機嫌が上昇したのだ。しかしそうした事情を聞いて眦を決したのはペトルだった。

「最初からこうするつもりだったのならわざわざ僕の言い訳を聞く必要なんかなかったじゃないか! 親切ぶって僕をからかったのか? そうやって散々弄んで、最後にはお仕置きの一言で片付けようとしてたんじゃないのかよ。はっ、血抜きだ更生だって調子のいいことをいって、結局血を吸いたかっただけだろう!」

「そんなわけないでしょう」

「現に血を吸ってるじゃないか」

「本当に吸血目的ならあなたみたいなまずい血を飲んだりしないわよ」

 リリスはペトルを蔑むような目つきで見返した。好きで飲んでいるのではないと、ゴドフリーが何度も言ったにもかかわらず全然聞いていなかったようだ。単に覚えていないだけとも言えたが。そもそもリリスたちはまったく嘘はついていない。その必要すら感じていない。吸血鬼であることも隠していないし、事情があって仕方なくおこなっていることもちゃんと口にしている。だからといって彼ら人間からしてみれば「化け物」でしかない「吸血鬼」の言葉など信用できない、という気持ちはわからないでもない。とはいえ。

「あなたがその見ず知らずの男にそそのかされたせいでこんな目にあっているということも忘れないでちょうだいね。それに最終的に実行したのはあなた自身だし、あなたがさっきまでいた店で仲間たちに言いふらして笑いものにしていたのも事実でしょう」

 腕を組んだリリスは責めるような口調でペトルに己の所業を突きつける。ゆっくりと足を進めたリリスは、ペトルのすぐそばで足を止めた。

「この結果を招いたのはあなた自身。他のだれでもないわ」

 言い切り、ねめつけるようにしてペトルに向けられていたリリスの瞳はしかし、刹那ののちに困惑をあわらにして後ろを振り返った。

「え……」

 リリスの瞳が状況を把握しようとしてせわしなく上下左右に向けられる。そしてひとつの火影のように揺らめきながら光る小さなコウモリの姿を見つけた。この光のコウモリはリリスにだけ見える使者だ。リリスが使者の姿をはっきりと捉えた直後、そのコウモリは飛来したなにかに貫かれて弾けるようにして粉々に砕けてしまった。

 コウモリを貫いて失速しつつもリリスたちへ襲いかかったのは闇色のタガーだった。結界が欠けた音ならぬ音が伝わるなか、リリスは反射的に取りだしたタガーでそれを弾く。彼女が持っているタガーも闇色だった。

 その後も闇の結界のなかに次々と投げ込まれる闇色のタガー。人の目では捉えきれないそれもリリスには関係なく見ることはできる。しかし数の多さと速さにはそう対応しきれるものではない。取りこぼしたものが徐々にリリスの体に創傷を増やしていく。

「く……っ」

 またひとつ脇腹にタガーが刺さる。リリスは歯を食いしばってさらに投げ込まれたタガーを可能な限り弾き飛ばそうとした。背後にはゴドフリーとペトルがいるのだ。避けるという選択肢はない。

(まだなの……?)

 振り向く暇さえ与えられない状況で、ただひたすらゴドフリーが吸血を終えるときを待つ。増えていくばかりの傷口から流れでる血。そんな状態で動き続けていれば出血が余計にひどくなるのはあたりまえのこと。徐々にリリスは貧血気味になってきた。かすみ始める視界。動きが鈍くなってきた体。内心で舌打ちするリリスの耳に待ち望んだ声が届いたのはその直後だった。ペトルの首筋から牙を抜いて、傷口を舐めて癒したゴドフリーは、落ちていた闇色のタガーを一本拾うと、結界に開けられた穴に向けて投げ飛ばした。

「待たせたな」

「遅いわよ」

「悪かった。とりあえず消していいぞ」

 吸血行為を終えたことで結界は必要ないというゴドフリーの言葉に従って、即座に解く。結界はこちらからの攻撃も阻んでしまうからだ。そのあいだにゴドフリーの武器である闇色の鞭は、襲撃者に向かって打ち込まれていた。けれど襲撃者は結界が消えると同時に数歩飛び退って、鞭の射程外へと逃れてしまっていた。目標を失った鞭の先端が虚しく地面を叩く。

「チッ」

 ゴドフリーの舌打ちが聞こえる。リリスも同じ気持だ。慌てもしないであそこまでスムーズに動かれては、こちらの行動を読まれているようでいっそう腹が立つ。そのうえ二撃目を打ち込もうとゴドフリーが鞭を引き戻すあいだに、襲撃してきた黒いスーツを着て黒いサングラスをかけた白髪の青年は、ちらりとペトルのようすを一瞥しただけで身をひるがえすと、日も暮れてめっきりと暗くなった路地の奥へと溶けこむようにして逃げ去ってしまったのだ。

「くそっ」

 吐き捨てた言葉そのままに苛立ったように頭をかき回したゴドフリーは、けれどすぐにリリスのそばに戻ってきた。

「リリス大丈夫か?」

「まあ、なんとか」

 本当は白髪の青年がいなくなったところで、いっきに痛みと脱力感が襲ってきたために立っているのも辛いくらいだが、それを隠してリリスは小さく笑った。ここにはまだペトルがいるのだ。彼は地べたに座り込んで壁にもたれかかっていた。

「ペトル」

 リリスがペトルの名前を呼ぶと、彼はうなだれていた頭を持ち上げた。

「あなたをそそのかした男というのは、今の男だった?」

 自分たちを襲った男も、ペトルをそそのかした男も、外見の印象としては同じだ。黒いスーツに黒いサングラスに白髪。三つのポイントは重なっている。それ以外の特徴を問えば、ペトルはすぐにうなずいた。

「たぶん同じ人だと思う。サングラスのせいでもともと顔はよくわからないから断言はできないけど、背格好はまさにあんな感じだった」

「そう。ありがとう」

 リリスがそういえば、ペトルは驚いたように目を瞠った。

「なによ?」

「あ、いや、お礼を言われるとは思わなくて……」

 ペトルにしてみれば、いきなり路地に連れ込まれて、責められて、吸血されて、挙句の果てに――別人からとはいえ――命まで狙われたのだ。そのうえこれまでの言動は赤面してしまうほど幼稚で恥ずかしい行為だと指摘されて、ごまかしと我が身可愛さできかれたことに都度答えただけ。それなのに助けてもらえただけでなく、「ありがとう」という言葉までかけてもらえるとは想像もしなかったらしい。

「とりあえず家まで送るわ」

 二人が話をしているあいだに、リリスの体に刺さっていたタガーはゴドフリーがすべて抜いて止血程度とはいえ傷も一応塞いである。洋服の破れまでは現時点ではどうしようもないが、昼間と違ってそれほど目立つこともないだろう。ペトルを家に送るくらいはなんとかなる。

 さきほどの男が再び襲ってこないうちにペトルはさっさと家に帰ったほうがいい。すでに姿を見られてしまったのだから口をふさぐ必要はないのでこれ以上は襲ってこないと思うが、それでも用心しておくにこしたことはない。そう説明すれば一瞬だけ悩んだものの、ペトルもさっきの今で一人で夜の道を歩くことに不安を覚えたようだ。断りの言葉がでることはなかった。

 吸血によりペトルは多少の貧血を起こしてはいるものの、掛かった時間に反して命に関わるほどには血を吸っていない。逆に体を気遣ったからこそ多くの時間を必要としたのだから。立ち上がった直後は僅かにふらつきをみせるも、数度またたきを繰り返したあとはゆっくりとではあったが歩行も問題なくおこなえた。念のためリリスとゴドフリーがペトルの左右に控えて、いざというときは両側から支えられるようにしながら送り届けたのだった。

 アパートの前まで来たところで、りリスは最後に一言だけと前置きしてから口を開いた。

「まとめ役が嫌なら先生にそう言って外してもらうことね。むしろそういう人が付いているばっかりにないがしろにできなくて、他の人に尋ねにくいということもあるでしょうし。そろそろお互い押し付けられた関係から開放されてただのクラスメイトとして付き合えるようになったほうがいいと思うわ。それじゃ」

 言うべきことはこれで終わりといった感じですぐに体を反転させると、二人は宿へと帰っていった。

 ペトルはリリスたちの背に向けて一礼すると、その姿が見えなくなるまで見送った。無言で拳をぎゅっと握る。まっすぐ前を見据える瞳には決意が宿っていた。祭りが終わって平日が戻ると、すぐさま先生のもとにおもむいてまとめ役を辞退する旨を伝えた。無事役目から開放されたペトルはその後、改めてブロルとクラスメイトとしての友好を深めようと尽力したのだった。


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