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君と出会う、もう一度  作者: 梅干し


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6/8

冬の約束

終業式を終えた午後。晴たちは、いつものように4人で並んで歩いていた。

「いやー、明日から冬休みって最高だな!」

蓮が両手を広げながら、嬉しそうに声を上げる。

「お前、休みになると急に元気になるよな」

晴が笑いながら返した。

「いつも元気だろ!」

「授業中は寝てたけどね」

美咲がすかさず突っ込む。

「それは……冬休みに向けて体力を温存してたんだよ」

「そんな理由、初めて聞いた」

遥が口元を押さえて笑った。

4人の笑い声が、冬の冷たい空気に響く。

しばらく歩いたところで、美咲がふと思い出したように口を開いた。

「そういえば、前に話してた冬のお出かけ、どうする?」

「ああ、雪があるところに行きたいって話か」

「行こうぜ! せっかくの冬休みだし!」

蓮がすぐに反応する。

「私も行ってみたいな」

遥も穏やかに笑った。

「じゃあ、四人の予定を合わせよ」

美咲が言った。

「よし! 旅行行くことは決定な!」

蓮はすぐに返答した。

「決めるの早すぎだろ」

晴が呆れたように笑う。

そんなやり取りをしながら歩いていると、美咲が少しだけ考え込んだ。

「……それと、クリスマスはどうする?」

「クリスマス?」

蓮が首をかしげる。

「うん。せっかくだし、4人で何かしない?」

「それいいな」

晴が自然に頷いた。

「じゃあ、どこでやる?」

「うちでいいなら、みんなでクリスマスパーティーしない?」

美咲が少し照れながら提案する。

「美咲の家か。いいじゃん」

「賛成!」

「私も行きたい」

遥が嬉しそうに答えた。

「じゃあ、24日に集合ね!」

こうして、4人のクリスマスパーティーが決まった。


12月24日。

午後になると、晴、蓮、遥の3人は、美咲の家へ向かっていた。

「美咲の家で遊ぶのって、なんか新鮮だな」

蓮が歩きながら言う。

「でも来たことあったろ?」

「そうだけど、クリスマスってなると特別感あるじゃん!」

「私も楽しみだな」

遥も笑った。


やがて、美咲の家に到着する。

晴は慣れた様子で玄関を開けると、冗談っぽく声をかけた。

「ただいまー」

すぐに、美咲の呆れた声が返ってくる。

「……ここ、私の家なんだけど?」

「ごめんごめん、冗談だって」

晴が笑うと、蓮が大声で笑い始めた。

「完全に第二の家じゃん!」

遥も思わず笑みをこぼす。

「もう、晴は昔からこうなの」

美咲はそう言いながら、4人を家の中へ招き入れた。

部屋の中には、クリスマスツリーや飾りつけが用意されていた。

「わあ……綺麗」

遥が目を輝かせる。

「昨日、少しだけ準備したんだ」

「結構本格的だな」

晴が部屋を見渡す。

「よし! 今日は最高のクリスマスにするぞ!」

蓮が拳を握る。

「その前に、料理を手伝ってね」

「えっ」

「えっ、じゃないでしょ」

美咲が笑いながら返す。

4人は笑い合いながら、料理の準備を始めた。

今日のメニューは、ローストチキンとシチュー。

晴と遥はローストチキンを担当し、蓮と美咲はシチューを作ることになった。

「遥、これ切ったらいい?」

晴が食材を確認しながら尋ねる。

「うん。大きさはこのくらいで……」

遥が手本を見せると、晴は丁寧に作業を進めていく。

「晴って、料理も上手なんだね」

「いや、普通だろ。家でもたまに手伝うし」

「……そういうところ、晴らしいね」

遥が小さく笑った。

「そうか?」

晴は不思議そうに首をかしげる。

一方、シチューを担当している蓮は、張り切って鍋をかき混ぜていた。

「美咲! 俺、結構いい感じじゃね?」

「まだ味見してないから分からないよ」

「じゃあ、味見!」

「熱いから気をつけてね」

蓮は少し冷ましてから、シチューを口に入れた。

「……うん! うまい!」

「よかった」

美咲が笑う。

そのとき、蓮が勢いよく振り返り、テーブルの上に置いてあったスプーンを落とした。

カラン、と音が響く。

「お前、何してんの」

晴が笑いながら突っ込む。

「いや、今のは計算された動きだ」

「計算された動きでスプーンを落とすの?」

遥が首をかしげる。

「もう、蓮は余計なことしないでね」

美咲がため息をついた。

料理を続けながら、4人は学校のことや冬休みの予定について話した。

「冬休み、何日くらい寝て過ごそうかな」

蓮が呟く。

「お前は少し勉強しろ」

「晴は真面目すぎるんだよ」

「でも、蓮も来年は進路のこと考えないとね」

美咲が優しく言う。

「うっ……急に現実を出すなよ」

「ふふっ。でも、こうして4人で過ごせる時間も大切だよね」

遥が穏やかに話す。

「そうだな。冬休み、思いっきり楽しもうぜ」

晴の言葉に、3人は笑顔で頷いた。

やがて、料理が完成した。

テーブルの上には、香ばしく焼けたローストチキンと、湯気の立つシチューが並んだ。

「うわ、めっちゃ豪華!」

蓮が目を輝かせる。

「みんなで作ったからね」

「じゃあ、いただきます!」

「いただきます」

4人は笑顔で料理を囲んだ。


食事を終えると、4人はトランプを取り出した。

「まずはババ抜きだな!」

蓮がカードを配り始める。

「お前、顔に出るから弱いんだよ」

晴が言うと、蓮は自信満々に胸を張った。

「今日は違う! 俺は成長した!」

「そのセリフ、前にも聞いた気がする」

美咲が笑う。

ゲームが始まると、蓮は必死に表情を隠そうとした。

しかし、ジョーカーを引いた瞬間、顔がわずかに引きつる。

「……蓮、今の顔怪しくね?」

「いや、全然?」

「蓮くん、分かりやすいね」

遥まで笑い始める。

「そ、そんなわけ!」

美咲が蓮のジョーカーを引いた。

「……あ」

蓮がすぐに声を上げる。

「美咲だな!」

「言わないでよ!」

「こりゃ丸わかりだな」

晴が呆れたように言う。

その後も、4人は何度も笑いながらババ抜きを続けた。

続いて、人生ゲームを始める。

「俺は絶対、大金持ちになる!」

蓮が意気込む。

「現実でもそれくらい頑張れよ」

「晴、お前はビッグになるんだから金持ちだろ!」

「なんだそれ」

美咲が笑いながら、ゲームのコマを進める。

「私は、安定した人生がいいなぁ」

「私はもそっち派かなー」

遥も慎重にコマを進めた。

4人はゲームを続けながら、穏やかな時間を過ごした。


ゲームがひと段落すると、美咲が冷蔵庫からケーキを取り出した。

白いクリームに、赤いイチゴが乗ったショートケーキ。

「うわ、うまそう!」

蓮が身を乗り出す。

「みんなで飾りつけしようよ」

美咲が提案した。

「俺、イチゴ乗せる」

晴が手を挙げる。

「じゃあ、私はクリームを少し整えるね」

遥も身を乗り出した。

「俺は……味見担当!」

蓮が胸を張る。

「それは担当じゃない!」

美咲がすぐに突っ込んだ。

それから4人でケーキを完成させていった。

最後に、ろうそくを立てた。

「じゃあ、みんなで写真撮ろ」

遥がカメラを手に取った。

晴がカメラを見ながら言った。

「そうだな、せっかくだしな」

4人はケーキを囲んで写真を撮った。

「よし、食べようぜ!」

「お前、さっきから食べることばっかだな」

「クリスマスだからいいんだよ!」

笑い声の中で、ケーキが切り分けられる。

甘いイチゴとクリームの味が、部屋いっぱいに広がった。


食事やゲームを終えたあと、いよいよプレゼント交換の時間になった。

「誰に渡すかは、くじ引きで決めよう!」

美咲が紙を用意する。

「お、楽しそう!」

蓮が紙を引いた。

4人はくじを引き、順番にプレゼントを渡していくことになった。

最初は蓮の番だった。

「俺からは、美咲!」

「私?」

蓮が包みを差し出す。

美咲が包みを開けると、少しおしゃれなデザインのマグカップが入っていた。

「わあ……可愛い!」

「店で見つけてさ。センスいいでしょ俺!」

蓮は自慢気に言った。

「ありがとう、蓮」

美咲は嬉しそうにマグカップを見つめた。

次に、美咲が遥へプレゼントを渡す。

「遥には、これ!」

「私に?」

遥が包みを開けると、小さなフォトアルバムが入っていた。

「……可愛い」

「遥、写真撮るの好きでしょ? だから、これがいいかなって」

「ありがとう、美咲。大切にするね」

「うん!」

美咲も嬉しそうに頷いた。

そして、遥の番になった。

遥は少し緊張した様子で、晴に包みを差し出す。

「……晴。これ」

「俺に?」

晴が包みを開けると、柔らかな色のマフラーが入っていた。

「マフラーか。ありがとう、遥!」

「寒いから……使ってくれたら嬉しいな」

「もちろん。ありがたく使うわ」

「……本当?」

「うん。すごく嬉しい」

その言葉を聞いて、遥の表情が柔らかくなる。

最後は晴の番だった。

「じゃあ、蓮。これ」

「俺か!」

蓮が包みを開ける。

そこに入っていたのは、少し変わったデザインのパーカーだった。

「なんだよ、このパーカー! デザイン面白すぎるだろ!」

「お前に似合うと思って」

「絶対適当に選んだだろ!」

「いや、ちゃんと選んだって」

「まあ、着るけどさ!」

4人は大笑いした。

その後、クリスマスツリーの前に並び、記念写真を撮る。

シャッター音が響く。

その写真には、4人の笑顔が残された。


パーティーが終わり、4人はそれぞれ帰ることになった。

駅へ向かう途中で、蓮と遥が別の方向へ歩いていく。

「じゃあ、またな!」

「気をつけて帰れよ」

「うん。またね」

「2人とも、また連絡するね!」

蓮と遥を見送ったあと、晴と美咲は同じ帰り道を歩き始めた。

しばらく、二人並んで歩いた。

「……ねえ、晴」

美咲が少し緊張した声で呼びかける。

「ん?」

「明日って……予定ある?」

「特にないけど」

「じゃあ……私と、どこか行かない?」

言い終えた美咲は、少しだけ顔を伏せた。

晴はいつも通りの自然な笑顔で答える。

「いいじゃん。どこ行く?」

「えっと……カフェとか、いつものの公園とか。それから…夜はイルミネーション見たいなって!」

「いいな。行こうぜ!」

「……うん!ありがとう!」

美咲は嬉しそうに笑った。


12月25日。

晴と美咲は、昼過ぎに待ち合わせをした。

最初に向かったのは、落ち着いた雰囲気のカフェだった。

「ここ、前から気になってたんだ」

美咲が店内を見渡す。

「へえ。俺、何頼もうかな」

「晴、甘いものも食べる?」

「食べるけど。美咲は?」

「私はケーキ!」

2人はそれぞれ注文し、向かい合って座った。

「なんか……こうして2人でカフェにいるの、少し不思議だね」

美咲が小さく笑う。

「そうか? 昔もよく一緒に遊んだろ?」

「そうなんだけど……」

「ん?」

「ううん。なんでもない」

美咲は笑って、ケーキを一口食べた。


カフェを出た二人は、駅から少し離れた場所にある公園へ向かった。

そこは、晴と美咲が小さい頃から何度も遊びに来ていた場所だった。

昔はもっと広く感じていた遊具も、今では少し小さく見える。

「うわー、懐かしいな」

晴は公園を見渡しながら、軽く笑った。

「小学生の頃、ここでよく遊んでたよね」

「うん。晴、いつもあっちの滑り台から降りるの早かったよね」

美咲が指差すと、晴は少し考えるように首を傾げた。

「そうだっけ?」

「そうだよ。私がまだ登ってる途中なのに、晴だけ先に行っちゃって」

「いや、それは美咲が遅かったんだろ」

「もう! 晴が速すぎたんだって!」

美咲は頬を膨らませる。

晴はそんな美咲を見て、昔と変わらない笑顔を浮かべた。

「でも、結局いつも待ってたじゃん」

「……え?」

「美咲が追いつくまで、ちゃんと下で待ってたろ」

美咲は一瞬、言葉を失った。

そんなこと、晴は覚えていないと思っていた。

「……覚えてたんだ」

「そりゃ覚えてるだろ。ずっと一緒に遊んでたんだからな」

晴は何気なくそう言った。

その言葉が、美咲の胸にゆっくりと広がっていく。

ずっと一緒だった。

それは美咲にとって、当たり前で、大切で、絶対に失いたくないものだった。

二人は公園のベンチに並んで座った。

少し冷たい風が吹き、美咲の髪が揺れる。

「ねえ、晴」

「ん?」

「私たちって、これからもずっとこうなのかな」

「こうって?」

「……こうやって、一緒に遊んだり、帰ったり」

美咲は前を向いたまま、言葉を選んだ。

「高校卒業して、大学行って、仕事始めて……それでも、今みたいに会えるのかなって」

晴は少し黙った。

そして、いつものように自然な声で答える。

「会えるだろ。俺たち幼なじみなんだし」

「……そっか」

美咲は笑った。

けれど、その笑顔にはほんの少しだけ寂しさが混じっていた。

幼なじみ。

その言葉は、晴との繋がりを証明してくれる。

でも同時に、自分がそれ以上になれるのか分からないことを思い知らされる。

「晴はさ……」

「うん?」

「好きな人とか、できたらどうする?」

晴は思いがけない質問に、少し目を丸くした。

「俺? うーん……どうするんだろ」

「考えたことないの?」

「ないわけじゃないけど、今はあんまり」

晴は空を見上げた。

「好きな人ができたら、その人を大切にしたいとは思うけどな」

美咲の胸が、わずかに締めつけられた。

「……そっか」

「美咲は?」

「私?」

「好きな人、いるの?」

その瞬間、美咲の心臓が大きく跳ねた。

目の前にいるのは、ずっと一緒にいた幼なじみ。

自分のことを誰よりも知っているようで、いちばん大切な気持ちには気づいていない人。

「……どうだろうね」

美咲は誤魔化すように笑った。

「なんだよ、それ」

「秘密」

「えー、気になるんだけど」

晴が少し身を乗り出す。

美咲はそんな晴を見て、思わず笑ってしまった。

いつもと同じ。

何も変わらない晴。

でも、自分の気持ちはもう、昔と同じではなかった。

一緒にいると嬉しい。

名前を呼ばれるだけで、胸が温かくなる。

誰かと楽しそうに話していると、少しだけ寂しくなる。

そして、これから先も隣にいたいと思ってしまう。

美咲はそっと胸元に手を添えた。

「……晴」

「ん?」

「これからも、私の隣にいてね」

晴は一瞬きょとんとしたあと、当たり前のように笑った。

「もちろん。美咲は幼なじみなんだから」

「……うん」

美咲は笑顔を浮かべた。

けれど、その言葉を聞いた胸の奥は、少しだけ痛かった。

幼なじみだから。

それだけで、これからも隣にいられるのだろうか。

それとも、いつか誰かにその場所を取られてしまうのだろうか。

考えただけで、胸が張り裂けそうだった。

公園を出る頃には、空が少しずつ夕焼けに染まっていた。


夜になると、二人はイルミネーションを見に行った。

駅前の広場に近づくと、視界いっぱいに光が広がった。

木々には白や金色の電飾が飾られ、地面には淡い光が反射している。

行き交う人々の声と、冬の冷たい空気。

その中で、二人はゆっくりと歩いていた。

「わあ……」

美咲は思わず足を止めた。

「すごいね」

「思ったよりもきれいだな」

晴も周囲を見渡す。

美咲はイルミネーションを見上げていたが、ふと隣にいる晴へ視線を移した。

光に照らされた横顔。

いつも見慣れているはずなのに、なぜか今日は少し違って見えた。

「……どうした?」

「えっ?」

「さっきからこっち見てないか?」

「み、見てないよ!」

美咲は慌てて視線を逸らした。

晴は不思議そうに首を傾げたあと、また前を向く。

「そっか?」

「……そうなの」

美咲は胸元に手を当てた。

どうしてこんなに緊張するんだろう。

昔は一緒に遊んでも、隣を歩いても、こんなことはなかった。

晴が笑っている。

ただそれだけなのに、もっと近くで見ていたいと思ってしまう。

「美咲」

「なに?」

晴が少し前で立ち止まった。

「あっちのほう、もっときれいだぞ」

晴が指差した先には、大きな光のアーチがあった。

美咲は晴の隣に並ぶ。

二人の肩が、ほんの少し触れた。

「……近いね」

美咲が小さく呟く。

「え? 人多いからな」

晴は何も気にしていない様子だった。

その無邪気さに、美咲は少しだけ苦笑する。

――晴は、何も知らない。

自分がどんな気持ちで隣にいるのかも。

どれだけ、この時間を大切に思っているのかも。

「ねえ、晴」

「ん?」

「今日、楽しかった?」

「ああ、カフェも公園も、このイルミネーションも最高だったぜ」

「……そっか」

「美咲は?」

美咲はイルミネーションを見上げた。

「私も、楽しかったよ」

少し間を置いて、静かに続ける。

「でもね……いつもと違う感じがする」

「いつもと?」

「うん。晴と二人で出かけること自体は、昔からあったけど……」

美咲は言葉を探した。

「今日は、なんか特別だった」

晴は少し考えるように黙った。

そして、柔らかく笑う。

「じゃあ、また行こうぜ」

「……え?」

「今日みたいにさ。時間が合うときに」

あまりにも自然な言い方だった。

晴にとっては、きっと何気ない約束。

けれど、美咲にとっては違った。

胸の奥がじんわりと温かくなる。

「……うん。また行きたい」

美咲は笑った。

本当は、今日だけじゃなくて。

これからもずっと、晴の隣にいたい。

そう思った瞬間、胸の奥に小さな不安が生まれる。

もし、晴に好きな人ができたら。

もし、その人とこうして歩くようになったら。

もし、自分の知らないところで、晴の隣が誰かの居場所になったら。

「……美咲?」

「え?」

「寒くないか?」

晴はそう言いながら、自分の上着を美咲の肩にかけた。

「大丈夫か?顔、ちょっと赤いぞ」

「寒いだけ!」

「本当か? 無理すんなよ」

「大丈夫だってば!」

美咲は笑ってみせた。

晴はそれ以上追及せず、歩く速度を少し落とした。

美咲に合わせるために。

その何気ない優しさが、胸に刺さる。

昔からそうだった。

晴はいつも、困っている人を放っておけない。

自分にも優しくしてくれる。

だからこそ、特別なのかどうか分からない。

「……晴」

「ん?」

「私ね」

美咲は立ち止まりかけた。

言ってしまいたい。

ずっと好きだった。

これからも、隣にいたい。

でも、今の関係が壊れるのが怖かった。

「……やっぱり、なんでもない」

「なんだよ、気になるじゃん」

晴が笑う。

美咲もつられて笑った。

「秘密」

「なんだそれ」

晴は笑った。

「ふふっ」

二人は再び歩き始めた。

イルミネーションの光が、二人の足元を照らしている。

美咲は隣を歩く晴を見つめた。

昔から知っている声。

昔から知っている笑顔。

昔から変わらない優しさ。

なのに今は、そのすべてが特別に感じられる。

――私、晴のことが好きなんだ。

幼なじみだから大切なんじゃない。

一緒にいる時間が楽しいからだけでもない。

晴が誰かの隣にいる未来を想像すると、胸が苦しくなる。

もっと自分のそばにいてほしい。

自分を見てほしい。

そう願ってしまう。

美咲はそっと、晴の隣で手を握りしめた。

「……晴」

「ん?」

「今日は、誘ってくれてありがとう」

「いや、誘ったの美咲じゃん」

「そうだったね」

二人は顔を見合わせて笑った。

その笑顔を見ながら、美咲は心の中で静かに願った。

――これからも、私が晴の隣にいられますように。

光に包まれた街の中で、二人は並んで歩き続けた。

そして美咲は、自分の中に生まれたこの想いを、もう誤魔化せなくなっていた。

――私は、晴のことが好き。


年が明け、4人は海辺に集まっていた。

空が少しずつ明るくなり、水平線の向こうから太陽を迎える。

「うわ……すげえ!」

蓮が声を上げる。

「寒いけど、来てよかったな」

晴も海の向こうを眺める。

「うん。綺麗……」

美咲も静かに頷いた。

遥は、この景色を忘れまいと昇っていく朝日をじっと見つめていた。

4人は並んで初日の出を眺めた。

その後、近くの神社へ向かう。

境内でお参りを済ませると、4人はおみくじを引いた。

「よし! 今年の運勢、勝負な!」

蓮が勢いよくおみくじを引く。

「俺は……末吉かよ!」

「まあまあ…あまり気にしすぎないのよ」

美咲が笑いながら、自分のおみくじを開く。

「私は……大吉!」

「おお! すげえじゃん、美咲!」

晴が嬉しそうに声を上げる。

「えへへ。なんかいいことありそう」

美咲は笑いながら、恋愛の欄へ視線を落とした。

『恋愛:思い続ければ、想いは届く』

「……」

一瞬、美咲の指が止まる。

隣にいる晴を、ちらりと見た。

晴はまだ自分のおみくじを開いているところだった。

「俺は吉だな」

「晴も吉なんだね」

遥が自分のおみくじを見せる。

「私も吉」

「お、仲間じゃん」

晴が笑う。

遥も穏やかに笑い返した。

その様子を見た美咲は、ほんの少しだけ胸の奥がざわついた。

そして、もう一度自分のおみくじを見る。

「美咲、恋愛のところは?」

蓮が横から覗き込もうとする。

「ちょっと! 見ないでよ!」

美咲は慌てておみくじを胸元に隠した。

「なんだよ、秘密かよ!」

「秘密なの!」

晴が不思議そうに首を傾げる。

「そんなに慌てることか?」

「晴は気にしなくていいの!」

美咲はそう言って笑った。

けれど、心の中では何度もその言葉を繰り返していた。

――思い続ければ、想いは届く。

本当に届くのかな。

いつか、私の気持ちも。

晴の隣にいるこの関係も。

美咲はそっとおみくじを折りたたんだ。

その横で、遥は自分の恋愛欄を静かに見つめていた。

『恋愛:焦らず、相手を思いやること』

遥はその言葉に、少しだけ目を伏せる。

「……相手を思いやる、か」

「遥、なんか書いてあった?」

晴が尋ねる。

「ううん。……大切なことが書いてあっただけ」

遥は笑った。

その笑顔の奥にある想いを、まだ誰も知らない。

「じゃあ、そろそろ帰ろうぜ!」

蓮の声に、四人は歩き始めた。

美咲は晴の隣を歩きながら、そっと拳を握る。

――今年こそ、少しだけ前に進めたらいいな。

冬の朝の境内に、四人の笑い声が響いていた。


新年を迎えた冬休みのある日。

4人は電車とバスを乗り継ぎ、群馬県の草津温泉へ向かった。

長い移動を終え、ようやく温泉街に到着する。

「やっと着いたー!」

蓮が大きく伸びをする。

「お前、移動中ずっと騒いでたから疲れてないだろ」

「それとこれとは別!」

美咲が笑いながら口を挟む。

「まずは旅館にチェックインしようね」

4人は旅館に荷物を置き、少し休んでから温泉街を散策した。

雪の残る道を歩きながら、遥は何度もカメラを向ける。

「雪と温泉街って、すごく綺麗だね」

「写真、撮れたか?」

晴が尋ねる。

「うん。たくさん撮れたよ」

「俺も撮ってくれよ!」

蓮が変なポーズを取る。

「蓮くんは……今、変なポーズしてるから」

「そこがいいんだろ!」

「もう、蓮は本当に相変わらずね」

美咲が笑った。

それから草津の街を歩き回った四人は、旅館へ戻ってきた。

「いやー、思ったより歩いたな!」

蓮が伸びをしながら、玄関で靴を脱ぐ。

「蓮、さっきからそればっかりじゃん」

美咲が笑う。

「だって坂が多いんだよ! なあ、晴?」

「まあ、確かにちょっと疲れたな」

晴も苦笑しながら答えた。

遥は手に持っていたカメラを確認する。

「でも、写真いっぱい撮れた」

「どれどれ?」

蓮が覗き込もうとすると、遥は慌ててカメラを胸元へ引いた。

「ちょっと待って。まだ整理してないから」

「なんだよ、減るもんじゃないだろ」

「そういう問題じゃないの」

美咲が遥の隣に立つ。

「あとで私にも見せてね」

「うん。美咲には見せる」

「やった!」

二人が顔を見合わせて笑う。

その様子を見ていた晴は、なんとなく嬉しくなった。

遥と美咲が仲良くなっていくことが、自然に感じられるようになっていた。

「じゃあ、夕食まで少し休むか」

「その前に温泉だろ!」

蓮が勢いよく手を挙げる。

「蓮、声大きいって!」

美咲が慌てて周囲を見回した。

「いいじゃんか! 温泉旅行なんだから!」

「まあ、俺も入りたいけどな」

晴が言うと、蓮は満足そうに頷いた。

「ほら! 晴もこう言ってる!」

「晴が言うとすぐ調子に乗るんだから……」

美咲は呆れたように笑った。

四人は一度部屋に荷物を置き、それぞれ準備をしてから温泉へ向かった。


温泉から戻った四人は、旅館の休憩スペースに集まっていた。

窓の外には、夕暮れの雪景色が広がっている。

蓮は瓶の牛乳を飲みながら、深く息を吐いた。

「はぁー……生き返る!」

「おじさんみたい」

美咲が笑う。

「温泉上がりの牛乳は最高なんだよ!」

晴も冷たい飲み物を手にしながら、窓の外を眺めていた。

「明日はもっと雪降るかな」

「降ったら、雪だるま作りたい」

遥がぽつりと言う。

「え、遥が?」

晴が少し意外そうに尋ねた。

「うん。作ったことないから」

「マジか! じゃあ明日、俺が教えてやるよ!」

蓮が勢いよく立ち上がる。

「蓮、雪だるま作るの得意なの?」

美咲が聞くと、蓮は自信満々に胸を張った。

「もちろん! 俺の芸術センスを見せてやる!」

「去年、雪だるまじゃなくて雪の塊作ってたじゃん」

晴が冷静に突っ込む。

「おい! あれは途中だったんだよ!」

四人の笑い声が休憩スペースに響いた。

遥は笑いながら、窓の外へ目を向ける。

雪が静かに降り始めていた。

「……きれい」

「明日は外でいっぱい遊べそうだな」

晴がそう言うと、遥は彼のほうを見た。

「うん。楽しみ」

その声は、いつもより少しだけ柔らかかった。


夕食は、地元の食材を使った料理が並ぶ豪華なものだった。

「うわ、すげえ!」

蓮が目を輝かせる。

「蓮、食べる前から騒がないの」

美咲は注意しながらも、自分も料理を眺めていた。

「いただきます!」

四人が一斉に箸を取る。

晴は料理を一口食べると、満足そうに頷いた。

「うまいな、これ」

「晴、こっちも美味しいよ」

遥が料理を指差す。

「本当? じゃあ食べてみる」

晴が手を伸ばすと、蓮がすぐに口を挟んだ。

「お前ら、さっきから自然に食べ物勧め合ってるよな」

「え? 普通だろ」

晴は本気で不思議そうに答えた。

「……晴って、そういうところあるよね」

美咲が小さく笑う。

遥も笑っていたが、その表情にはほんの少しだけ寂しさが混じっていた。

この時間を、遥は知っている。

「遥?」

晴が声をかける。

「どうした? 料理、口に合わなかったか?」

「ううん。すごく美味しいよ」

遥は笑顔を作った。

「ただ……楽しいなって思って」

「だよな!」

蓮がすぐに頷く。

「明日も絶対楽しくなるぞ!」

「うん。明日も楽しもうね」

美咲が笑いかける。

四人は顔を見合わせ、再び食事を続けた。

窓の外では、雪が静かに降り続いていた。

そして夜は、少しずつ深まっていった。


翌朝。

旅館の部屋には、窓から差し込む淡い光が広がっていた。

「……寒っ」

晴は布団の中で身を縮めながら、ゆっくりと目を開けた。

隣では、蓮がまだ気持ちよさそうに眠っている。

「おい、蓮。起きろ」

「……あと五分」

晴は苦笑しながら、蓮の布団を軽く揺らした。

「今日は雪遊びするんじゃなかったのか?」

「……雪……?」

蓮は寝ぼけたまま呟くと、突然勢いよく起き上がった。

「そうだった! 雪だるま!」

「起きるの早すぎだろ」

晴は思わず笑った。

蓮は窓へ駆け寄り、勢いよくカーテンを開ける。

「うおおお! めっちゃ積もってる!」

外には、一面の銀世界が広がっていた。

旅館の屋根にも、木々の枝にも、真っ白な雪が積もっている。

「晴! 早く準備しようぜ!」

「分かったって。まず顔洗ってこいよ」

「お前もな!」

二人は顔を見合わせて笑った。


一方、女子部屋では。

「……遥、起きてる?」

美咲が布団の中から声をかけた。

「うん。もう起きてるよ」

遥は窓の前に立ち、外の雪景色を眺めていた。

朝の光を受けた雪は、昨日の夕方よりも明るく輝いている。

「きれいだね……」

遥が小さく呟く。

美咲は布団から起き上がり、遥の隣へ歩いていった。

「本当だね。こんなに積もると思わなかった」

「今日、いっぱい遊べそう」

「うん。晴たち、もう騒いでそうだよね」

美咲が笑うと、遥も口元を緩めた。

「蓮くんは、もう雪だるまのことしか考えてなさそう」

「晴も結局、一緒になって遊ぶと思う」

「……ふふ。そうだね」

遥は窓の外を見つめながら、静かに笑った。

その横顔を見て、美咲はふと尋ねる。

「遥、昨日はよく眠れた?」

「うん。美咲は?」

「私も。でも、ちょっと楽しみすぎて早く目が覚めちゃった」

「私も同じ」

二人は顔を見合わせて笑った。

「じゃあ、準備しよっか」

「うん!」


朝食会場に向かうと、すでに晴と蓮が席に着いていた。

「おっせーぞ!」

蓮が手を振る。

「まだ時間前でしょ」

美咲が呆れたように言う。

晴は四人分のお茶を用意しながら、遥に気づいた。

「おはよう、遥。よく眠れた?」

「うん。晴は?」

「俺も。蓮の寝言がうるさかったけど」

「おい! 余計なこと言うな!」

「寝ながら『雪だるま選手権』とか言ってたよ」

「言ってねえ!」

蓮が慌てて否定すると、美咲と遥が吹き出した。

「朝から元気だね、蓮くん」

「ほんとに違うって!」

四人は笑いながら、朝食を食べ始めた。

焼き魚や味噌汁、温かいご飯が並び、冷えた身体にじんわりと温かさが広がっていく。

「朝からこんなに食べて大丈夫かな」

美咲が料理を見ながら呟く。

「今日は雪遊びするんだろ? いっぱい食べとかないと!」

蓮が元気よく答えた。

「蓮はいつもいっぱい食べてるじゃん」

晴が言うと、蓮は堂々と胸を張った。

「運動部だからな!」

「その理屈、朝から使うなよ」

遥は二人のやり取りを見て、楽しそうに笑っていた。

その笑顔を見た晴は、自然と表情を緩める。

「遥、食べないのか?」

「え?」

「さっきから味噌汁ばっかり飲んでるから」

「あ、ごめん。食べるよ」

遥は箸を持ち直した。

「ありがとう、晴」

「別に。冷める前に食べたほうがいいぞ」

何気ない会話。

何気ない朝の時間。

遥はその一瞬を、心の中にそっと刻み込んだ。

――こういう朝が、ずっと続けばいいのに。

「遥?」

「……ううん。なんでもない」

遥は微笑んだ。

朝食を終えると、四人は部屋へ戻り、雪遊びの準備を始めた。

「よし! 誰が一番すげえ雪だるまを作れるか勝負な!」

蓮が宣言する。

「私は遥と一緒に作る!」

美咲がすぐに遥の腕を取った。

「え、私も?」

「もちろん! 女の子チームね!」

「じゃあ俺と蓮で勝負か」

晴が笑う。

「晴、絶対負けんなよ!」

「お前こそな」

四人はそれぞれ顔を見合わせた。

そして、旅館の外へ続く扉を開ける。

冷たい風が吹き込んできた。

「うわ、寒っ!」

蓮が叫ぶ。

「さっきまで楽しそうだったのに」

美咲が笑う。

晴は雪の積もった景色を見渡し、遥へ声をかけた。

「遥、滑らないように気をつけろよ」

「うん。晴もね」

「俺は大丈夫」

「晴の『大丈夫』って、たまに心配になるんだけど」

美咲がすかさず口を挟んだ。

「それ、いつかも言われたな」

晴は苦笑した。

四人の笑い声が、白い雪景色の中に響いていく。

こうして、冬の旅行二日目が始まった。


午後。

雪が積もった広場で、4人は雪遊びを始めていた。

「よし! 雪合戦しようぜ!」

蓮が突然叫ぶ。

「急だな」

晴が呆れたように言う。

「いいじゃん。遥、私たちは一緒のチームね!」

美咲が遥の腕を取る。

「うん!」

こうして、晴と蓮はそれぞれ単独で、美咲と遥は協力することになった。

「晴! まずはお前からだ!」

蓮が雪玉を投げる。

「なんで俺を狙うんだよ!」

晴は身をかわし、すぐに雪玉を作った。

「お返し!」

投げ返した雪玉が、蓮の肩に命中する。

「うわっ! やったな!」

その隙に、美咲が雪玉を投げた。

ぽすっ。

雪玉は晴の顔に見事に命中した。

「……美咲、お前なぁ!」

「やったー! 晴に当たった!」

美咲は珍しく、子どものように嬉しそうに笑っていた。

「ふふっ。美咲、すごく楽しそう」

遥も笑う。

「遥もそっち側かよ!」

晴が叫ぶと、遥は申し訳なさそうに首をかしげた。

「えっと……ごめんね?」

その直後、遥が足を滑らせた。

「……あっ」

「遥!」

晴はとっさに手を伸ばし、遥の体を支えた。

「……ありがとう、晴」

「大丈夫か? 怪我は無いか?」

「うん。大丈夫」

「ならよかった。雪、結構滑るから気をつけろよ」

「……うん」

遥は少しだけ頬を赤くしながら、晴から離れた。

しかし、その隙を蓮が見逃さない。

「晴! よそ見してる場合か!」

雪玉が晴の背中に当たる。

「蓮、お前!」

そこからは、さらに激しい雪合戦になった。

美咲と遥が協力して晴を狙い、晴と蓮は互いに雪玉を投げ合う。

最後には全員が雪まみれになり、勝敗は引き分けとなった。

「……寒っ! 早く温泉入ろうぜ!」

蓮が震えながら言う。

「晴、顔にまだ雪ついてるよ」

美咲が笑う。

「誰のせいだと思ってんだよ!」

「ふふっ……楽しかったね」

遥が微笑む。

4人は笑いながら旅館へ戻った。


夕方。

温泉で体を温めた4人は、休憩スペースに集まっていた。

それぞれジュースを手にしながら、窓の外の雪景色を眺める。

「さっきの雪合戦、俺の勝ちってことでいいよな?」

蓮が言う。

「いや、引き分けだろ」

晴がすぐに返す。

「私たち女子チームは、結構頑張ったよね」

美咲が遥に話しかける。

「うん。美咲が晴に当てたとき、すごかった」

「でしょ?」

「俺なんて、晴に何回も当てたのに!」

「俺もお前に当てただろ」

4人は笑い合った。

しばらくして、蓮が窓の外を眺めながら口を開いた。

「俺さ、将来は先生になりたいんだよな」

「え、先生? 蓮が?」

晴が驚いたように声を上げる。

「なんだよ、その反応!」

「でも、蓮って面倒見いいし、向いてるかもね」

美咲が笑う。

「うん。蓮くん誰とでも仲良くなれるし」

遥も頷いた。

「……まあ、そういう先生になれたらいいなって」

蓮は少し照れくさそうに答えた。

晴は窓の外へ視線を向けた。

「俺もさ、なりたいものがあるんだよ」

「え、なに? プロバスケ選手?」

「違うって」

晴が笑う。

「じゃあ、なに?」

「……医者」

蓮が目を丸くする。

「医者!? マジか!」

「うん。まだ具体的には決まってないけど、誰かの力になれる仕事がしたいんだ」

美咲は、晴の横顔を静かに見つめていた。

「……晴らしいね」

「そうかな?」

「うん。昔から、困ってる人を放っておけなかったもん」

遥も、晴を見つめながら口を開く。

「……晴なら、きっとなれるよ」

「ありがとな、遥」

その言葉に、遥は小さく笑った。

「じゃあ、美咲は? 将来何になりたいんだ?」

蓮が尋ねる。

「えっ、私?」

美咲は少し考えてから、困ったように笑った。

「まだ決まってないんだよね。やりたいこと、ちゃんと見つけられてなくて」

「まあ、焦って決めなくてもいいんじゃない?」

晴が自然に言う。

「……晴はそう言ってくれると思った」

美咲が嬉しそうに笑った。

「遥は? なんか決まってそうだけど」

突然話を振られ、遥の表情がわずかに揺れた。

未来の自分。

未来の晴。

これから起こること。

頭の中にいくつもの答えが浮かんだ。

「……まだ、考え中かな」

「お、意外。遥でも決まってないことあるんだな」

「ふふ……私だって、全部決まってるわけじゃないよ」

「そっか。まあ、ゆっくり考えればいいって」

晴が優しく言う。

「……うん。ありがとう、晴」

少しの沈黙のあと、晴が時計を確認した。

「……そろそろ部屋戻るか?」

「お、もうそんな時間か」

蓮が立ち上がる。

「夕食も近いしね」

4人はジュースの空き缶を片づけ、部屋へ戻ることにした。


夕食を終えた夜。

男女別の部屋に戻ったあと、男子部屋では晴と蓮が布団に座り、ゲームをしていた。

「なあ、晴」

「ん?」

「今日、楽しかったな」

「……ああ。4人で旅行って、やっぱいいな」

「だろ? でさ……美咲とはどうなんだよ?」

「ん? 美咲と遊んだことか?」

「は!?」

「あれ?言ってなかったっけ?」

「いやいや!初耳だよ!」

晴は目を瞑ったまま答えた。

「カフェ行って、昔よく行ってた公園行って、イルミネーション見てきた」

「お前ら、2人で?」

「うん。美咲に誘われたから」

蓮はしばらく黙ったあと、口元を引きつらせた。

「……お前、それデートじゃね?」

「え? ただ遊びに行っただけだろ」

「お前なぁ……」

晴は本当に何も気にしていない様子だった。

蓮は呆れたように笑いながら、少しだけ真剣な表情になる。

「……なあ、晴。美咲のこと、大事にしてやれよ」

「当たり前だろ。幼なじみだし」

「……そっか」

蓮は、それ以上何も言わなかった。

美咲の気持ちには、かなり気づいていた。

けれど、晴に伝えることはしなかった。


一方、女子部屋では、遥と美咲が布団の上に座り、温かいお茶を飲んでいた。

「今日ほんと楽しかったね」

美咲が、窓の外を見ながら呟く。

「うん。雪合戦も、すごく楽しかった」

遥は笑いながら、昼間の出来事を思い出していた。

「でも、晴の顔に雪を当てたときの美咲、すごく嬉しそうだった」

「えっ!? そ、そうだった?」

「うん。すごく楽しそうだったよ」

美咲は少し恥ずかしそうに笑った。

「だって、晴が本気で逃げるんだもん。あんなの当てたくなるでしょ」

「晴、すごく悔しそうだったね」

「そうそう! なのに蓮まで笑ってて……」

美咲は楽しそうに話していたが、ふと表情を落ち着かせた。

「……でも、晴ってやっぱり優しいよね」

「どうして?」

「遥が転びそうになったとき、すぐに支えてたでしょ」

遥は一瞬、言葉を止めた。

「……うん」

「昔からああなんだよね。」

美咲は膝を抱え、少し遠くを見るような目をした。

「私も、小さい頃から何度も助けてもらった」

「美咲は、晴のことをよく知ってるんだね」

「うん。……たぶん、誰よりも長く一緒にいるから」

美咲はそこで一度言葉を切った。

そして、ゆっくりと息を吐く。

「でもね」

「うん?」

「最近、分かったんだ」

美咲は自分の手元に視線を落とした。

「私、晴のこと……幼なじみだから大切なだけじゃない」

遥は静かに美咲を見つめた。

「晴が他の女の子と楽しそうにしてると、ちょっと寂しいし。晴が誰かのことを好きになったらって考えると……嫌だなって思う」

美咲は苦笑した。

「こんなこと思う自分、ちょっと嫌なんだけどね」

「……嫌じゃないよ」

遥が優しく言う。

「好きな人のことを大切に思うのは、悪いことじゃないから」

美咲は顔を上げた。

「遥は……そう思う?」

「うん」

遥は微笑んだ。

けれど、その瞳の奥には、どこか寂しさがあった。

美咲は少し迷ったあと、尋ねる。

「遥は、晴のことどう思ってる?」

部屋に静かな沈黙が落ちた。

遥はすぐには答えなかった。

窓の外に目を向け、白い雪景色を見つめる。

「……私も……大切だよ」

「そっか……」

「晴と一緒にいる時間が好き。笑っているところを見ると、嬉しくなる」

遥は胸の奥にある言葉を、慎重に選んだ。

「でも、私の気持ちは……まだ、ちゃんと整理できてない」

美咲は遥の横顔を見つめた。

その言葉の奥に、何か隠されているような気がした。

けれど、無理に聞こうとは思わなかった。

「そっか」

美咲は少し笑う。

「じゃあ、私たち……同じ人を好きになるかもしれないんだね」

遥の表情が、わずかに揺れた。

「……うん」

「でも、私、それで遥と仲悪くなりたくない」

美咲はまっすぐに遥を見た。

「晴のことで、遥と嫌な関係になるのは絶対に嫌。だって、私、遥のこと好きだから」

遥は目を見開いた。

「美咲……」

「もちろん、晴のことは譲りたくないけどね」

美咲は照れくさそうに笑った。

「そこは、ちゃんと私も頑張りたい」

遥はしばらく黙っていた。

そして、ゆっくりと頷く。

「……私も、美咲とずっと仲良くしていたい」

「約束ね」

美咲が小指を差し出した。

遥は少し驚いたあと、微笑んで小指を絡める。

「約束」

二人は顔を見合わせて笑った。

そのとき、隣の男子部屋から声が聞こえてきた。

「晴! それ俺の枕!」

「え? 知らねえよ!」

「お前が使ってんだろ!」

美咲と遥は顔を見合わせる。

「……蓮くんたち、何してるんだろうね」

「いつも通りじゃない?」

二人は思わず笑い出した。

笑い声が落ち着いたあと、美咲は布団に横になりながら、天井を見つめた。

「ねえ、遥」

「なに?」

「私、晴のことが好き」

今度は、迷いのない声だった。

「たぶん、もうずっと前から。気づいてなかっただけなんだと思う」

遥は静かに美咲の言葉を聞いていた。

「だから、いつかちゃんと伝えたい」

「……うん」

「怖いけどね。今の関係が変わっちゃうかもしれないから」

美咲は胸元で手を握った。

「でも、何もしないまま誰かに取られるのは、もっと嫌だなって思う」

遥は美咲を見つめ、優しく微笑んだ。

「美咲なら、きっと伝えられるよ」

「……ありがとう」

美咲は少し照れながら笑った。

遥はその言葉を聞きながら、胸の奥に痛みを感じていた。

美咲の気持ちは、まっすぐで、温かい。

そして、自分もまた晴を大切に思っている。

けれど、自分にもまだ言えないことがある。

「遥?」

「うん?」

「明日も、四人で楽しく過ごそうね」

美咲の言葉に、遥はゆっくり頷いた。

「うん。明日も、みんなで」

二人は並んで布団に入った。

部屋の明かりが消える。

暗闇の中で、美咲は目を閉じながら思った。

――晴のことが好き。

その気持ちは、もうはっきりしている。

いつか、この想いを自分の言葉で伝えたい。

一方、遥は眠れないまま、静かに目を開けていた。

――この時間を、失いたくない。

雪の降る夜。

二人はそれぞれの想いを胸に抱えながら、静かに夜を過ごした。



翌朝。

遥はまだ誰も起きていない時間に目を覚ました。

そっと休憩スペースの窓辺へ向かうと、外には一面の雪景色が広がっていた。

「……綺麗」

白く染まった町を眺めながら、遥は昨日までの出来事を思い出していた。

雪合戦で笑ったこと。

4人で囲んだ食卓。

夜に交わした将来の話。

そして、晴の笑顔。

(……私、晴の隣にいていいんだ)

嬉しいはずなのに、胸の奥が少し痛む。

そのとき、背後から声が聞こえた。

「……遥?」

遥は驚いて振り返る。

「晴……おはよう」

「おはよう。こんな早くから何してんの?」

「雪を見てたの。すごく綺麗だから」

晴は遥の隣に立ち、窓の外を眺めた。

「今日も楽しもうぜ」

「……うん。楽しもう」

その後、4人は朝食会場へ向かった。

温かい朝食を囲みながら、昨日の雪合戦や旅館での出来事を振り返る。

「……帰るの、ちょっと寂しいね」

美咲が呟いた。

「うん……」

遥も静かに頷く。

「また4人で来ようぜ」

晴が笑う。

遥はその言葉を聞いて、静かに微笑んだ。

「……そうだね。また来ようね」


朝食を終えた4人は、旅館の近くのお土産屋へ向かった。

「家族に何買おうかなー」

蓮が店内を見回す。

「お前、自分用ばっかり見てない?」

晴が突っ込む。

「いいだろ別に!」

一方、女子2人は少し離れた場所でお土産を選んでいた。

「遥、これ可愛くない?」

美咲が小さな土産物を手に取る。

「ほんとだ。美咲の弟も喜びそう」

「じゃあ、これにしようかな!」


お土産を買い終えた4人は、旅館へ戻った。

荷物をまとめ、旅館の前で最後に景色を眺める。

遥はカメラを取り出し、雪の残る温泉街を撮影した。

「遥、最後に4人で写真撮るか?」

晴が提案する。

「うん!」

4人は並んで立ち、記念写真を撮った。

その写真には、旅の思い出と4人の笑顔が残された。


旅館を出る前、晴は窓の外を眺めている遥に気づいた。

「遥、どうした?」

「……ううん。雪景色を、もう少し見ておこうと思って」

「そっか」

晴も隣に立ち、静かに外を眺める。

「今回の旅行、楽しかったな」

「……うん。すごく楽しかった」

「また4人で来ようぜ」

「……そうだね」

「来年とか、もっと先とか」

遥は一瞬だけ言葉を失った。

「……うん。約束ね」

「約束!」

晴が笑うと、遥も笑顔を返した。

(……来年も、晴の隣にいられますように)

その後、4人は荷物を持ってバス停へ向かった。

「よし! 帰りも楽しもうぜ!」

蓮が声を上げる。

「帰りは寝ちゃいそうだけどね」

美咲が笑う。

「蓮、お土産落とすなよ」

「落とさねーよ!」

4人の笑い声が、雪の残る町に響いた。

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