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君と出会う、もう一度  作者: 梅干し


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4/8

すれ違う気持ち

文化祭が終わってから、少しだけ時間が経った。

教室には、文化祭前の慌ただしさとは違う、いつもの空気が戻っていた。


昼休み。

晴、蓮、美咲、遥の四人は、いつものように机を寄せて昼食を食べていた。

「いやー、なんか文化祭終わると暇だなー」

蓮が机に突っ伏す。

「蓮、文化祭のときあんなに走り回ってたじゃん」

美咲が笑う。

「だから疲れたんだよ。しばらく休ませてくれ」

「体育祭のときも同じこと言ってたよな」

晴が呆れたように言う。

「晴は元気すぎなんだよ」

蓮が顔だけ向けて言う。

「そうか?」

「そうだよ」

遥が二人のやり取りを見ながら笑った。

「ふふっ。二人とも、仲良いね」

「まあな。何年の付き合いだと思ってんだよ」

蓮が晴の肩を軽く叩く。

「な?」

「まあ……腐れ縁だけどな」

「おい」

四人の笑い声が教室に響いた。

そんな何気ない日常が、ずっと続く。誰もが、そう思っていた。


放課後。

体育館では、バスケットボール部の練習が行われていた。新人戦が近づき、練習にもいつも以上に熱が入っている。

晴はボールを受けると、すぐに周囲を見渡した。

「蓮!」

蓮にパスを出す。

しかし、ボールは逸れ、ラインの外へ転がった。

蓮の動きと、ほんの少しだけタイミングがずれた。

「……悪い!」

蓮がボールを追う。

次のプレー。

今度は蓮が先に走り出した。

晴がパスを出そうとした瞬間、蓮は別の方向へ動いていた。

「っ……!」

ボールがそのままラインの外へ転がる。

「止め!」

監督の声が響く。

「晴、今のパス早すぎ」

蓮が息を切らしながら言った。

「いや、蓮が…」

晴が言いかける。

「俺?」

蓮が振り返った。

「俺の動きに合わせろよ」

晴の表情が変わった。

「……なんで俺だけなんだよ」

「は?」

「蓮だって最近、勝手に動いてるだろ」

「じゃあ、お前はどうなんだよ?」

「分かんねぇよ」

晴も言い返す。

「俺だって、お前が何考えてるか分かんねぇんだよ」

体育館の空気が、一瞬で重くなった。

蓮は少し黙ってから、

「……じゃあ、分かろうとしろよ」

「そっちこそ、分かろうとしてねぇだろ!」

「二人とも!」

監督が間に入った。

「大会前に何やってんだ!続きは後にしろ」

晴も蓮も、それ以上は何も言わなかった。

ただ、相手に合わせるだけのプレーをした。

いつもなら、何も言わなくても分かり合えていた。

なのに今は…

なぜか、噛み合わなかった。


練習が終わると、晴は一人で体育館を出た。

「晴、待って!」

後ろから美咲の声がした。

「……美咲」

「晴、大丈夫?」

「大丈夫だって」

「またそれ言う」

美咲は少し困ったように笑った。

「晴の『大丈夫』、今日何回目?」

「……」

晴は答えなかった。

美咲はそんな晴の隣を歩く。

「蓮と、ケンカしたんだよね」

「……ちょっと言い合いになっただけ」

「そっか」

しばらく沈黙が続いた。

そして晴が小さく呟く。

「俺だって……どうしたらいいか分かんないんだよ」

美咲は晴を見る。

「……うん。そうだね…」

それ以上は急かさなかった。

ただ、隣を歩き続けた。

「ねえ、晴」

美咲は晴の顔を見つめた。

「晴が一人で抱え込むなら、私は隣にいるよ」

晴が顔を上げる。

「……美咲?」

美咲は少し照れながら、それでも真っ直ぐ晴を見る。

「幼なじみだからじゃなくて……晴のこと、大切だから」

そして、もう一度。

「大丈夫じゃなくてもいいんだよ。晴が辛いときくらい、私にも頼ってよ」

晴は何も言えなかった。

でも、その言葉は確かに胸に残った。


次の日の昼休み。

いつものように、四人は机を寄せて昼食を食べていた。

「今日の購買、めっちゃ混んでたわ」

蓮がパンの袋を開けながら言う。

「蓮、またパンだけ?」

美咲が呆れたように笑う。

「いいだろ。うまいんだから」

「晴は?」

「俺は弁当」

晴が弁当箱を開く。

いつもと変わらない昼休み。……のはずだった。

「晴」

蓮が声をかける。

「ん?」

「昨日の――」

「……」

晴の手が、一瞬止まる。

「……何?」

「いや……なんでもない」

「……そう」

短い会話。

そのまま二人とも黙ってしまった。

美咲が二人をちらっと見る。

遥も、静かに箸を動かしながら二人の様子を見ていた。

いつもなら、くだらないことで言い合ったり、蓮が晴にちょっかいを出したりする。

なのに今日は、妙に静かだった。

遥は少しだけ首を傾げる。

「……ねえ」

三人が遥を見る。

「晴と蓮くん、何かあった?」

「……」

「……」

二人とも答えない。

遥は二人の顔を見比べる。

「やっぱり……何かあったんだ」

「まあ……ちょっとな」

晴が小さく答える。

「そっか……」

遥はそれ以上聞かなかった。ただ、少し心配そうに二人を見る。

美咲もそんな遥を見て、静かに頷いた。

四人でいることには変わりない。

それなのに、今日は、ほんの少しだけ。

いつもと違う昼休みだった。


この雰囲気のまま、三日が過ぎた。

練習後、蓮は一人で体育館に残っていた。

シュートを打つ。

外れる。

もう一度。

外れる。

「……くそっ」

そのとき、引退した三年生の先輩が声をかけた。

「蓮。ちょっと後輩たちから聞いたんだが、晴と何かあったのか?」

「……ちょっと、言い合いになっただけっす」

「そうか…」

先輩はそれ以上聞かなかった。

「大会前だ。ちゃんと話しとけよ」

「……はい」

「それと、応援してるぞ」

「……ありがとうございます」


練習を終えた蓮は、スマホを取り出した。

晴とのトーク画面を開く。

しばらく迷ったあと、文字を打った。

『晴、明日の練習後ちょっと話せるか?』

送信。

少しして、

『いいよ』

と返ってきた。


翌日の練習後。

夕方、二人が向かったのは、以前一緒に練習した小さな公園のバスケットコートだった。

「……ここ、久しぶりだな」

晴がボールを手に取る。

「だな」

蓮が笑う。

「話す前にさ、ワンオンワン…やるか?」

晴は蓮の顔を見た。

「いいぜ」

蓮も晴の顔を見た。

二人はコートに立った。

最初は、ただボールを奪い合った。

何度もぶつかる。何度も抜こうとする。

まるでどこか不満や苛立ちをぶつけるように。

やがて二人とも息が上がり、二人はベンチに座った。

蓮が空を見上げた。

「俺さ……お前に負けたくないんだよ」

晴は黙って聞いていた。

「中学の頃からずっと、お前のこと追いかけてきた」

蓮は少し笑う。

「俺の方が身体能力はあるのに、試合になるとお前の方が上手くてさ」

「……そんなこと」

「あるんだよ」

蓮は笑った。

「でも、だからこそ、お前の隣でプレーしたかった」

蓮は少しだけ間を置いて、

「俺、お前と離れたくないんだよ」

晴は蓮を見る。

蓮の目から、涙が落ちた。

「……なんだよ、俺」

蓮は笑いながら涙を拭う。

「こんなことで泣くつもりなかったのに」

晴は少し笑った。

「俺だって同じだよ」

「……晴」

「蓮がいたから、俺はもっと頑張れた」

二人はしばらく黙っていた。

やがて晴が立ち上がる。

「もう一回やるか?」

蓮も立ち上がった。

「もちろん!」

二人は再びコートに入った。

今度は――

不思議なくらい、動きが噛み合った。


数日後。

休日、四人は秋の紅葉を見に出かけていた。

「おー! やっぱ秋は食べ歩きだろ!」

蓮が屋台を見つける。

「紅葉を見に来たんじゃなかったっけ?」

美咲が笑う。

「紅葉も見る! 食べ物も食う!」

「欲張りだなぁ」

晴が笑う。

遥はカメラを持ちながら、ゆっくり歩いていた。

赤や黄色に染まった木々。

風に揺れる葉。

その景色を、一枚ずつ写真に収めていく。

晴が遥の隣に並ぶ。

「今日、いい写真いっぱい撮れそうだな」

「うん!」

遥はカメラを見ながら答えた。

「こういう景色って、そのときしか見られないから」

「だから残しておきたい?」

「……うん」

遥は少し笑った。

そして、

「晴、ちょっとそこに立って」

「俺?」

「うん」

晴が木の下に立つ。

遥はカメラを構えた。

「……はい、撮るよ」

シャッター音。

晴が近づく。

「見せて見せて」

「……だめ」

「な、なんで?」

「まだ秘密」

「なんだそれ」

晴が笑う。

遥も笑った。

少し離れたところから、それを見ていた美咲が口を開く。

「遥、晴の写真好きだね」

「……そ、そうかな?」

「うん。なんか、晴を撮るときだけちょっと嬉しそうにしてるから」

遥は少し考える。

「……そうかな?」

「うん。なんとなく」

その後、遥は四人にカメラを向けた。

「みんな、並んで」

「また俺ら?」

蓮が笑う。

「せっかくだから」

四人で並ぶ。

シャッターが切られる。

遥は撮った写真を確認した。

晴、蓮、美咲。

そして自分。

「……いい写真」

晴が覗き込もうとする。

「見せてよ」

「だめ」

「また?」

「これは……私が持っておく」

「なんで?」

遥は写真を見つめる。

「……大事な写真だから」

晴は不思議そうにしながらも、

「そっか」

と笑った。


少しして、晴と蓮が先に歩いていった。

美咲と遥が二人きりになる。

「ねえ、遥」

「うん?」

「晴のこと、心配してた?」

遥は少し驚いた。

「……うん。ちょっと」

「そっか、心配するよね」

美咲は優しく笑う。

「私も、晴が元気ないと気になるから」

遥は美咲を見る。

「……美咲も?」

「うん。ずっと一緒だったから」

二人は少しだけ笑った。

同じ人を見つめている。

けれど、まだ二人とも、その意味を完全には理解していなかった。


紅葉を見た帰り道。

四人は並んで歩いていた。

しばらくして、晴が遥に声をかける。

「そういえば遥」

「ん?」

「今度、俺らの新人戦あるんだけどさ」

「新人戦?」

「そう。バスケの大会」

遥の足が、ほんの少し止まりそうになった。

「……そうなんだ」

「うん。よかったらさ、見に来ない?」

晴は少し間を置いて、

「ほら、美咲も来るしさ!」

遥は晴を見た。

「……私が行ってもいいの?」

「もちろん!」

晴は自然に笑った。

「応援してくれたら嬉しいし」

「……晴が?」

「え?」

「……ううん。なんでもない」

遥は小さく笑う。

「じゃあ……行く」

「ほんと? じゃあ頑張らないとな」

「うん。頑張って」

遥は少しだけ俯いた。

「……晴、絶対勝ってね」

「おう」

その返事を聞きながら、遥はそっと目を閉じた。

いつかの記憶が、一瞬だけ胸をよぎる。

大好きだった人。

何度も見た笑顔。

もう二度と見られないと思っていた時間。

それが今、目の前にある。

「……今度は」

遥は小さく呟いた。

「今度は、ちゃんと見ていたい」


新人戦当日。

晴たちは初戦から順調に勝ち上がり、決勝戦まで勝ち上がった。

今日は、決勝ということもあり、会場には多くの観客が集まっていた。

晴と蓮はコートに立っていた。

観客席には、美咲と遥。

「晴、頑張って!」

美咲が声を上げる。

晴は二人を見て、少し笑った。

「蓮も!」

「任せろ!」

蓮が手を上げる。

遥も静かに二人を見つめていた。

試合開始。

相手は地区でも有名な強豪校だ。

序盤から相手に押される。

それでも晴と蓮を中心に相手に必死に食らいつく。

試合開始直後から、相手は晴と蓮を徹底的にマークしてきた。

「晴!」

蓮へパス。

だが、相手先回りされ、パスをカットされた。

「くっ……!」

蓮が止められる。

今度は晴がドライブする。

しかし、二人がかりで囲まれた。

「晴!」

後ろへボールを戻す。

蓮も動く。

けれど、また読まれる。

「……まずい」

ベンチから監督の声が飛ぶ。

「相手、完全に二人を潰しに来てるぞ!」

前半終了。

スコアは34対26で負けている。

試合が後半に入ると、さらに点差が少しずつ開いていった。

晴は息を切らしながら蓮を見る。

「……どうする?」

「分かんねぇ」

一瞬、二人の動きが止まる。

そのとき――

「晴!」

観客席から声が響いた。

晴が振り向く。

遥が立っていた。

「晴なら大丈夫!」

遥の声が、体育館に響く。

「蓮くんと一緒なら、絶対できるよ!」

晴は目を見開いた。

そして、隣にいる蓮を見る。

蓮も笑っていた。

「……聞いたか?晴」

「ああ、聞いた」

晴がボールを受け取る。

「蓮」

「ん?」

「もう一回、やろうぜ」

蓮が笑った。

「……おう!」

「いくぞ!」

そこから二人の動きが変わった。

晴が相手の動きを読む。

蓮が空いたスペースへ走る。

パス。

ドライブ。

スクリーン。

そして、もう一度パス。

今まで何度も繰り返してきた動き。

二人だけにしか分からないタイミング。

最強のコンビが、戻ってきた。

「行け、晴!」

「蓮!」

最後まで点差は縮まった。

残り時間はわずか数秒。

晴がボールを持つ。

蓮が走る。

晴は一瞬だけ相手を引きつけ――

蓮へパス。

シュート。

しかし――

ボールはリングに弾かれた。

体育館に終了のブザーが響く。

試合が終わった。

敗北だった。

わずか2点、届かなかった。

晴は悔しそうに拳を握った。

蓮も俯く。

それでも二人は、すぐに顔を上げた。


試合後。

夕方の体育館の外。

四人は並んで歩いていた。

蓮が空を見上げる。

「……あと少しだったな」

「…ああ」

晴も悔しそうに笑う。

「でも、最後はちゃんと噛み合ったな。俺ら」

「……ああ」

蓮は晴を見る。

晴も蓮を見る。

そして晴が言った。

「蓮」

「ん?」

晴は真っ直ぐ前を見ながら、

「……来年は優勝な」

蓮は一瞬目を丸くした。

「……当たり前だろ!」

二人が拳を軽くぶつける。

美咲がその様子を見ながら笑った。

「ふふっ。二人とも、もう次の話しちゃってる」

「だって、悔しいだろ」

晴が笑う。

「来年は絶対勝つぞ」

「おう」

四人は並んで歩き出した。

夕暮れの道を。

いつもの四人で。

晴と蓮は、もう一度並ぶことができた。 美咲と遥も、少しずつ互いの気持ちに近づいていた。

遥は少し後ろから、晴の背中を見つめていた。

――来年。

その言葉を、遥は心の中でもう一度繰り返す。

たった一言なのに、少しだけ胸が苦しくなった。

「……来年も、こうしていられたらいいな」

遥は小さく呟く。

晴が振り返る。

「遥、何か言った?」

「ううん。なんでもない」

遥は笑った。

「……帰ろう、晴」

「おう」

再び四人で歩き出す。

その背中を見ながら、遥は胸の奥に生まれた小さな不安を、そっとしまい込んだ。

今はまだ。

この時間を、大切にしていたかった。

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