天空都市での再会
マルザルドの住まいは、天空都市で最も高い場所にある。
ベルマウルはそこから天空都市を見下ろし、思わず感嘆の声を漏らした。
雲を突き抜けてそびえる高い峰々に、空を飛ぶ竜人たちの姿が加わり、魔族国とはまったく違う意味で壮観な光景を生み出している。
「どう? 壮観でしょう?」
ビティアは、ぽかんと口を開けたベルマウルを見て、満足そうに微笑む。
「はい。本当にすごいです。想像以上です。」
ベルマウルはうなずき、素直に自分の気持ちを認める。
「実のところ、ほかに適当な呼び方がないから山の峰と呼んでいるけれど、やはり普通の山の峰とは規模からして違うのよ。」
「はい。それに母上のおっしゃるとおり、山々は固定されておらず、絶えず移動しています。だから訪れる際には、竜人たちが迎えに出る必要があったんですね。」
ビティアの言葉に、ベルマウルはしきりに感心しながらうなずいた。
「時間はたっぷりあります。ゆっくり見て回りましょうか?」
竜人が笑顔でベルマウルに尋ねる。
「あ、はい。ありがとうございます。」
ベルマウルも笑顔で竜人を振り返る。
実は、ベルマウルが竜人族に会うのは今日が初めてだった。
そしてベルマウルの目に映る竜人族は、ほかの種族とは明らかに異なる、特別な存在に見えた。
竜人族は人族と同じような外見をしているが、背中には三対の翼があり、その輪郭に沿ってほのかな赤い光を放っていた。
「そういえば、竜人族は皆、翼の先からほのかな光を放っていますね。」
ベルマウルは周囲の竜人たちを見回し、全員に共通する特徴があることに気づく。
「はい、そのとおりです。ベルマウル将軍は観察眼に優れていらっしゃいますね。竜人族は、お仕えする賢竜様によって翼の先の色が変わります。ここはマルザルド様をお祀りする天空都市ですので、ここの竜人族は皆、赤い翼を持っています。このように、ザルカレムの竜人族は、お仕えする賢竜様と同じ光輝の翼をまとうのです。」
竜人はそう言って微笑む。
「それなら、一つ不思議な点があります。マルザルド様の象徴は赤で、お姿も実際に赤い気を帯びていらっしゃいます。それなのに、なぜ魔族国ではマルザルド様を『灰色の古代守護竜』という尊称でお呼びするのでしょうか?」
ベルマウルは、以前から気になっていた疑問を思い出す。
「理由は意外と簡単です。マルザルド様は火を象徴する赤い竜であると同時に、不死鳥たちの主でもいらっしゃるからです。灰の中から再び生まれる不死鳥は、マルザルド様の眷属であると同時に、永遠の命と永遠の記憶を象徴しています。エノルが始まった太古の時代から存在してこられた賢竜様ですから、マルザルド様は『灰色の古代守護竜』という尊称のほかにも、数多くの名と姿をお持ちです。時代や種族、そして文化によって、あの方をお呼びする名もそれぞれ異なるのですよ。」
「そんな意味があったのですね。」
竜人の説明に、ベルマウルは感嘆する。
「賢竜には、それぞれを象徴する色があるの。マルザルドを象徴する赤のように、光を象徴する白、風を象徴する青、土(生命)を象徴する緑、そして闇を象徴する黒があるのよ。」
ビティアも、自分の知っていることをベルマウルに教えた。
「つい先日までは、ビティア王女のおっしゃるとおりでした。」
だが竜人の言葉を聞いたビティアは、戸惑った。
「つい先日までは?」
ビティアはすぐに、その意味を尋ねようと口を開く。
「今日はちょうど、竜人族にとっても特別な日なのです。ザルカレムの外の世界から来た料理人たちが、中央広場に屋台を出す日ですから。普段は味わえない、ほかの種族の料理を楽しめるのです。まずはそちらへ行って、お食事になさってはいかがでしょうか?」
竜人はビティアの表情に気づいていたが、それでも微笑んだままそう言い、先に歩き出した。
中央広場には、数多くの屋台が並んでいた。屋台はそれぞれ、自分たちの種族や故郷の味を生かした料理を披露し、そばを通る竜人たちを誘っている。
「ロデンミルほどではありませんが、それでもかなりの規模ですね。ここまで来るのも簡単ではなかったでしょうに。」
ベルマウルは、思っていた以上に多くの屋台が広場に並んでいるのを見て、驚きを隠せなかった。
「ザルカレムに至る道は、翼のみ。賢竜の国へ昇る道は存在せず、あえてそこへ昇ろうとした者もまた、いない。」
すでに答えを知っているビティアが、語り部の真似をする。
「はい。ですから、私たちが直接お運びしました。お帰りの際も、もちろん私たちがお手伝いいたします。」
「ああ。そういうことだったのですね。」
ベルマウルは竜人の言葉を聞いて初めて、ここに数多くの屋台が集まれる理由を悟る。
そうしてしばらくの間、ビティアとベルマウルは竜人とともに、中央広場の屋台を見て回りながら歩いていた。
「さあ、皆さん、ぜひお立ち寄りになって召し上がってください。故郷の味を込めたおでんですよ!」
そして、聞き覚えのある声が聞こえてきて、ビティアとベルマウルは反射的にそちらへ顔を向ける。
ほどなく、ビティアとベルマウルの目に、見覚えのある顔が映った。
「あっ! モントルさん!」
ベルマウルは、記憶にある名を叫ぶ。
するとモントルは自分の名に反応し、顔を向けて辺りを見回した。
ザルカレムで会うなど考えもしなかった相手だけに、モントルも最初は現実を受け止められず、ただ目をしばたたかせるばかりだった。
だがすぐにベルマウルを思い出し、その顔に明るい笑みが戻った。
「いや、いや、これは驚きました。無料で護衛してくださった冒険者の方々じゃありませんか! ははは!」
ようやくビティアとベルマウルだと気づいたモントルは、大いに喜ぶ。
「モントルさんこそ、どうしてここにいらっしゃるんですか?」
ベルマウルは、再会の喜びよりも驚きのほうが大きかった。
「ははは! こんな場所でお二人にまたお会いできるとは、私こそ夢にも思いませんでした! あのとき魔獣が現れたところまでは覚えているのですが、そのあと気を失ってしまったのか、何も覚えていないのです。目を覚ますと、すでに獣王国バルエルの国境守備隊の保護所にいました。守備隊の方々から、国境守備隊が到着するまで、私と馬、そして荷物を最後まで守ってくださったと聞きました。冒険者ランクも高くない方々が、しかも無料の護衛依頼だったにもかかわらず、命を懸けて私を守ってくださったそうですね。遅くなりましたが、今からでも心よりお礼を申し上げます。」
モントルは頭を下げ、心から感謝する。
「ははは。当然のことをしただけです。モントルさんもご無事で何よりです。」
ベルマウルは照れくさそうに笑う。
「当然、お助けすべきことでした。無料の護衛依頼だったからといって、何も変わりません。それに私たちも、魔獣の討伐に協力した功績で、バルエルの国境守備隊から報酬をいただきました。結果的には私たちにも得のあることでしたから、あまりお気になさらないでください。」
ビティアは、モントルが状況を自然に受け入れられるよう、その場で話を付け加えた。
だが事情を知るベルマウルは、ビティアのしれっとした演技に、少し複雑な顔になる。
「報酬を受け取られたとは、本当によかったです! 獣王国バルエルは今回の事件の責任を取り、荷物の損害賠償はもちろん、負傷者の治療費も冒険者への報酬もすべて負担したんですよ。ただ、補償を受けたとはいえ、すでに商品が壊れてしまった商人たちは、泣くしかありませんでした。いざバルエルに着いても、売る品物が残っていなかったのですから。でも私は、皆さんのおかげで大きな被害を受けずに済みました。むしろ、ほかの商人たちが商品を失ったことで競争相手が減り、バルエルに持っていった品物をいい値段で売ることができたんです。おかげさまで、損をするどころか、むしろ助けられてばかりでした。」
モントルは満面の笑みを浮かべた。
「ヒヒーン!」
モントルの屋台の脇から、馬のいななきが聞こえた。
モントルの末っ子の馬がベルマウルに気づき、うれしさのあまりいなないたのだった。
「お前か! 久しぶりだな。元気にしていたかい?」
「ヒーン!」
ベルマウルが笑いながら末っ子の馬の頭をなでると、馬はうれしそうに、自分の頭をベルマウルへぐっと押しつけた。
「ああ! こうしている場合ではありませんね。私の料理の腕はよくご存じでしょうから、おでんを召し上がっていってください。それにしても、こんな高いところまで何のご用ですか? ほかの方々はご一緒ではないのですか? 皆さん、お元気ですよね?」
モントルは上機嫌でおでんを用意しながら尋ねる。
「はい。冒険者の仕事で来ました。皆、元気です。今は別の仕事があるので、別行動をしています。モントルさんにお会いしたと知れば、とても喜ぶでしょう。必ずお伝えしますね。」
ビティアは自然な調子で、さらに話の設定を付け加える。
「ははは。そうでしたか。直接お礼をお伝えできないのが残念です。どうか必ずお伝えください。」
モントルは大きな笑みを浮かべ、ビティアに頼む。
「母上。」
ただ、ベルマウルはついていけず、釈然としない顔をしていた。
「見て、聞いて、学んでおきなさい。これも生きる知恵というものよ。」
だがビティアは、何でもないことのような顔をしていた。
「さあ、おでんをどうぞ。熱いのでお気をつけください。実は私は、屋台の準備のために数日前に来たんです。ところが、ここ数日、竜人たちがずいぶん忙しそうにしているんですよ。」
モントルは、湯気の立つおでんをまずビティアに渡しながら言った。
「ありがとうございます。いただきます。何かあったのですか?」
続いてモントルは、女性の竜人とベルマウルにもおでんを渡す。
「ありがとうございます。いただきます。」
竜人とベルマウルも、喜んでおでんを受け取った。
「私も詳しくは知らないのですが、噂によると、少し前から見たこともない色の翼を持つ竜人たちが現れ始めたそうです」
モントルは秘密の情報を教えるかのように、真剣な表情を作る。
「見たことのない翼の色ですって?」
ビティアは驚いて尋ねる。
だが、その問いを向けた相手はモントルではなく、一緒におでんを食べている竜人だった。
「このおでん、本当においしいですね。」
しかし案内役の竜人は、ビティアの気持ちを知ってか知らずか、相変わらず涼しい顔をしていた。
「モントルさんの料理は、いつ食べても最高です!」
隣でベルマウルが、モントルのおでんを褒める。
「珍しいものをご覧になったのですね。」
女性は何でもないことのように微笑む。
「特別な意味があるのでしょうね。」
ビティアの表情が一気に真剣なものになる。
「まもなく賢竜様方の会議が開かれます。その時になれば、お分かりになるでしょう。」
竜人もまた真剣な面持ちで、静かにそう答えた。




