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賢竜の会議

翌日、ビティアとベルマウルは案内役の女性の竜人に従い、巨大な建造物の前に立つ。


「こちらが賢竜様方の会議場です。」


「ものすごく大きいですね!」


ベルマウルは初めて目にする巨大な建造物に、驚きを隠せない。


「ええ、もちろんです。賢竜様方がおられる場所ですから。」


ベルマウルの率直な反応に、竜人は微笑む。


「どう? 立派でしょう。マルザルドと契約を結ぶときに来て以来、私も今日が二度目なの。」


ビティアは昔のことを思い出す。


「マルザルド様と、ここにいらしたことがあるのですね。」


ベルマウルはうなずく。


「賢竜様との契約は、昔からすべての賢竜様方にお立ち会いいただき、この場所で執り行われてきました。」


竜人は説明を続ける。


「そして本日、お二人は傍聴人として賢竜様方の会議に招かれています。その意味はおわかりですね。」


そう言いながら、竜人は右手の人差し指を立て、唇に当てる。


「はい、もちろんです。」


竜人の真剣な表情に、ビティアはうなずく。


そしてベルマウルに向き直り、きわめて真剣な顔になる。


ベルマウルも、その様子には覚えがある。


絶対の真実を伝え、決して過ちが許されないときに、ビティアがベルマウルに見せる仕草なのだ。


だからこそ、ベルマウルも真剣に話を聞き始める。


「ベルマウル、よく聞いて。会議場に入ったら、絶対に声を出してはいけない。賢竜様方が発言の機会をお与えになるまでは、沈黙を守るの。発言してよいときは、竜人たちが知らせてくれる。それまでは、一言も口にしてはならない。もう一度言うけれど、どんな言葉も口にしてはならない。それは決して許されない行為で、マルザルドでさえ取りなすことのできない問題なのだ。必ず肝に銘じなさい。」


ビティアは繰り返し念を押す。


「あ、はい! わかりました! 一言も話さないよう、肝に銘じます。ご心配なさらないでください、母上。」


ビティアの話を最後まで聞くと、ベルマウルは彼女を安心させるように力強くうなずく。


「賢竜様方の会議に傍聴人として同席することは、大変な名誉です。ただし、傍聴人にはいかなる発言権もありません。ビティア王女のおっしゃるとおり、うっかり声を漏らすことのないよう、必ずお心に留めてください。それでは、入りましょうか?」


女性の竜人は重ねて念を押した後、ビティアとベルマウルを連れて会議場に入った。


マルザルドはすでに来ており、ビティアとベルマウルは案内されたとおり、彼の後ろに用意された傍聴席に座る。


ビティアとベルマウルが席に着くと、二人を案内した竜人がビティアの後ろに立ち、別の竜人が静かに歩み寄り、ベルマウルの後ろに立つ。


静まり返った会議場には、賢竜たちが席に着いている。


ベルマウルは、一体どころか五体もの巨大な賢竜を前に萎縮したが、マルザルドがわずかに身じろぎすると、その堂々たる威容に勇気をもらい、自信を取り戻す。


マルザルドの後ろに座ってはいたものの、ベルマウルは自分を励ましてくれた彼に、丁重に頭を下げる。


するとマルザルドは、まるでベルマウルを見ているかのように、尾の先をそっと持ち上げて下ろし、礼に応える。


ビティアも、そんな二人のやり取りに、張り詰めた気持ちを少し和らげる。


「賢竜たちよ。こうして一堂に会せたことを嬉しく思う。我は第一にして光の竜、オルオラド。」


そしてオルオラドの自己紹介を皮切りに、賢竜の会議が始まる。


賢竜の声は、その喉から発せられる音ではない。


賢竜たちは自らの前に魔法で球体を作り、そこに己の意志を込める。


そして球体は賢竜の意志を声として具現化し、その声が空間に響き渡っている。


ビティアは昨日竜人から聞いた言葉が気にかかり、まず賢竜の数を数えてみる。


今、ビティアの目に見える賢竜は全部で五体だ。だが、空席も数に入れれば、この場に集う賢竜が全部で六体であることもわかる。


「第二にして赤き竜、マルザルドだ。」


マルザルドの声が響く。


「第三にして風の竜、ルイアルドだ。」


吹き荒れる嵐のような魔力が、会議場をかすめていった。


「第四にして水の竜、アマトラドだ。」


穏やかな海を思わせる気配が、彼の周囲を包んだ。


「第五にして闇の竜、ニグラルドだ。」


光さえ呑み込んでしまいそうな黒い影が、彼の足元で揺らめいた。


五体の賢竜は自己紹介を終えると、空席へと視線を向けた。


その瞬間、まるで影そのものが形を得るかのように、何もなかった空間が黒く歪み始める。


「我は影の竜、ネギドラド。」


空間全体に、低く深い意志が響き渡った。


「エノルの賢竜たちよ。賢竜の会議に招かれたことを嬉しく思う。」


そしてついに、空席に彼の姿が現れる。


賢竜の会議では、魔法の使用は制限されない。


もちろん、賢竜たちだけでなく、傍聴人も魔法を使うことができる。


その気になれば、傍聴人は攻撃魔法さえ使える。


しかし、常識を超えた存在である賢竜たちを前に、攻撃魔法を発動する勇気を持った傍聴人は、これまでただの一人もいなかった。


「こんなことなら、師匠にお話しして一緒に来ればよかった。賢竜たちは、最初から師匠を呼ぶつもりがなかったんだわ。」


ビティアの胸に、重いものが沈み込んだ。


ようやく気づいた。


賢竜たちは、セルベインを呼ぶことを単に忘れていたのではなかった。


最初から呼ぶつもりがなかったのだ。


だからこそ、自分とベルマウルを招いたのだ。


同時に、マルザルドが同行を勧めた理由もわかった。


それは単なる厚意ではなく、ビティアへの配慮だった。


幾多の思いが絡み合い、ビティアの胸の内を乱した。


ネギドラドが自らの意志で姿を現すと、その後ろにいた竜人たちも姿を現し、恭しく頭を下げる。また、共に来た傍聴人の姿も現れる。


やがてネギドラドの体から、黒い波動の魔力が四方へと広がり始める。


ネギドラドから広がる黒い波動は、確かに黒き啓示と同質の魔力だったが、そこにはいかなる殺気もなく、静かに広がっている。


「あっ!」


だが、黒き啓示と直接戦ってきたビティアは、黒い波動を見た瞬間、思わず悲鳴を漏らしてしまう。


しかし、それよりも早く、ビティアの後ろにいた竜人が三対の翼を瞬時に広げた。


上の翼が漏れ出ようとする声を包み込み、真ん中の翼は体を包み、下の翼は脚を隠す。


幸いにも、ビティアの声は空間に響く前に、竜人が広げた翼の中で静かに消えた。


ビティアは静かにうなずき、感謝を伝える。


竜人はビティアが落ち着いたのを見ると、微笑んで翼を畳んだ。


驚いたのはベルマウルも同じだったが、幸い、ビティアから強く念を押されていたおかげで、口から出かけた悲鳴をかろうじてこらえる。


「我々は、影の世界から来たネギドラドを賢竜として受け入れるか、決めねばならない。」


オルオラドは、賢竜の会議が開かれた理由を告げる。


「光の竜オルオラドは賛成する。」


オルオラドが最初に賛意を表明する。


「風の竜ルイアルドは反対する。」


「水の竜アマトラドは反対する。」


「闇の竜ニグラルドは賛成する。」


賢竜たちはそれぞれの立場を明らかにし、マルザルドに視線を集めた。


「何のためだ?」


マルザルドが問う。


「ここに、契約を結ばねばならぬ者がいる。」


マルザルドの問いに、ネギドラドが答える。


「今、魔王様の御意志に背くおつもりですか!」


すると、ネギドラドの後ろにいた傍聴人が怒りをあらわにし、荒々しく立ち上がる。


ビティアのときのように、竜人たちが翼で覆い、守るべきだった。しかし、ネギドラドに仕える竜人たちは何もしない。


傍聴人の声が会議場に響くと、賢竜たちの視線が鋭くなる。


「不手際だ。我に任せてもらいたい。」


ネギドラドは賢竜たちに代わり、鋭い眼差しで傍聴人を睨む。


しかし傍聴人もひるむ様子はなく、むしろその視線を正面から受け止めた。


「よくお考えください。これは反逆です。」


傍聴人は再び、厳しい声で警告する。


「たわごとを。」


ネギドラドの答えは短かったが、そこにはこれ以上の議論を許さぬという意志が込められていた。


ネギドラドはそう言うと、冷ややかに視線を外す。


「影の竜ネギドラドは、かの者との契約をもって、己の立場を明らかにする。」


ネギドラドの意志はゆっくりと、だが微塵の迷いもなく、一人の人物を指し示した。


ビティアも、竜人たちも、そしてすべての賢竜たちも。


視線をただ一人へと向けていた。


そして、そこにいたのはベルマウルだった。

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