第三の目的
会議室の扉が開き、その先にはセフェローサが立っていた。
「初めまして。」
セルベインは席から立ち上がり、笑顔で相手を迎える。
一方、セフェローサは何も言わず、少し緊張した面持ちで、まだ会議室の外にいる。
「森林地帯の大賢者としてお越しになったのであれば、別の場所でお話ししても構いません。そうでなければ、この部屋には必要な措置を施してあります。」
セフェローサが会話の機密性を案じていることに気づき、セルベインは安心させた。
すると、セフェローサは会議室へと足を踏み入れる。
セフェローサが中に入ると、会議室の扉が静かに閉まる。
アイオレンは目を閉じ、杖を手にして魔法の呪文を唱える。
「ベルタル・エレンドル。」
魔法が発動すると、アイオレンは椅子に座り、壁に頭を預けて静かに眠りにつく。
セフェローサは一瞬、体が宙に浮いたように感じたが、その感覚はすぐに消える。
「ご安心ください。私たちの精神だけを、弟子のアイオレンの夢の中へ移しました。アイオレンの夢に招かれたのは私たち二人だけですから、盗み聞きする耳も、のぞき見る目もありません。この魔法が発動すると、私たちがアイオレンを起こすまで、会議室は空間遮断魔法によって外部から完全に隔絶された状態を保ちます。」
セルベインは笑顔で発動した魔法について説明し、相手を安心させる。
「ネクサリム・バルトラ。」
だが、相手の言葉をすべて信じられるほどの信頼を、二人はまだ築いていない。
セフェローサはダークエルフだけが使える魔法の呪文を唱える。
会議室の壁と床、さらには天井にまで遮断属性が付与され、セフェローサによって空間遮断がさらに強化される。
会議室にはアイオレンのエルフ魔法とセフェローサのダークエルフ魔法が同時に施され、光と黒い波動による二重の遮断魔法が発動する。
セフェローサがこの対面に至るまでの道のりは、決して容易ではなかった。
エノルの世界は、セフェローサにとっても第三軍団にとっても、初めて接する未知の世界だ。
魔王アスペルハイムから受け取った資料には、エノルの住民と会うことになるという記述まではなかった。
今の行動はすべてセフェローサにとって初めてのことであり、誰も信じられない現実では、わずかな失敗さえセフェローサと第三軍団全体を危険に陥れる。
エノルにいる第三軍団、そしてネクソハイムにいる第三軍団とその家族たちまでが、セフェローサの行動に命を懸け、ともに歩んでいる。
その命の重みを思えば、初対面とはいえ、気軽に挨拶を口にできるような場ではなかった。
「仮面を外していただけますか。」
セルベインもまた、さまざまな出来事を経てここに来ている。初対面ではあっても、のんびり挨拶から交わすわけにはいかなかった。
セフェローサもそのことは十分に理解している。
「黒き方舟軍団、第三軍団司令官のセフェローサです。」
セフェローサはゆっくりと仮面を外しながら、自己紹介をする。
「はい。私はエノルの管理者、セルベインと申します。お掛けになりませんか。」
セルベインも自己紹介をし、セフェローサに向かいの椅子を勧める。
セフェローサが椅子に座るのを待ってから、セルベインも席に着く。
こうして二人は、互いの顔を見合わせる。
セルベインは、最近エノルの魔法秩序に新たに登録された起源種族の名を思い浮かべる。
「ダークエルフなのですね。」
セルベインの言葉どおり、セフェローサの肌は黒い。
ただ、黒い肌とは裏腹に、暗い雰囲気はまったく感じられない。むしろセフェローサの容姿は、黒真珠のように優雅な輝きを宿している。
「エノルの魔法秩序が与えた種族にすぎず、ネクソハイムには存在しない種族です。ただ、第三軍団の性質を正確に反映している点は認めます。」
場の空気を和らげ、自分の緊張もほぐすために、セフェローサはエノルの魔法秩序を称賛する。
「ははは。性質ですか。それなら、もう一つの起源種族であるアンデッド軍団も同じなのでしょうね。」
「……。」
だが、セルベインの今度の問いに、セフェローサは口を閉ざし、何も答えない。
セルベインの情報によって、セフェローサは第一軍団がここエノルでアンデッド軍団になったことを知った。
セフェローサが口を閉ざすと、その意味を察してセルベインは話題を変える。
「私に会いたいとおっしゃった理由を伺いたいのです。現在、エノルは魔王アスペルハイムの攻撃を受けています。その点から、セフェローサ司令官様は魔王の指示でこの場に来られたのではないかという疑いが、今も残っています。」
セルベインの口元には、なお微笑みが浮かんでいる。だが、その微笑みには、エノルを脅かす存在を決して許さないという断固たる意志ものぞいている。
セフェローサはその意味を理解し、歓迎されていない空気を感じて苦笑する。
「もちろんです。『手を取り合って魔王アスペルハイムを打倒しよう』などという幼稚な掛け声を上げるために、この場を設けたわけではありません。」
セフェローサはセルベインをまっすぐに見る。
セフェローサの目にも、セルベインは特別な存在に映る。
Bランクに昇格した冒険者パーティーとも、アイデンの冒険者たちとも違っていた。すぐ隣にいるエルフとは同じ種族であるにもかかわらず、まったく異なる雰囲気を感じる。
わざわざ遠回しな言い方をして、互いに無用な腹の探り合いをする必要はない。
セフェローサはわずかに肩の力を抜いた。
「私と第三軍団は、魔王アスペルハイムを取り戻すためにエノルへ来ました。」
セフェローサの目には、揺るぎない決意が見える。
セルベインは思いがけない言葉を聞いたが、笑わない。
セフェローサの言葉に偽りがないと分かっているからだ。
だが、その言葉が事実だとしても、前後の事情を欠いた説明だけでは、セルベインにも真実を推し量ることはできなかった。
「理由を伺ってもよろしいですか?」
セルベインは茶碗を手に取り、ゆっくりと茶を飲んで、張り詰めた空気を和らげる。
「申し訳ありませんが、今はお話しできません。セルベイン様が私を信用できないように、私と第三軍団も、まだ光の世界の住民たちを信用できないのです。」
セフェローサは多くを語らない。
しかし、セフェローサは目の前の茶碗を手に取った。毒が入っている可能性を承知していても、ためらいはなかった。
少なくともこの場ではセルベインを信頼していることを、行動で示したいのだ。
二人が会うのは今日が初めてだ。ゆえに、関係の始まりにはなっても、信頼の完成にはならない。
セルベインは微笑んでいるが、その眼差しまではまだ和らいでいない。
普通の人には見分けられないほどの微かな違いだったが、軍団長であるセフェローサには、はっきりと感じ取れた。
この会議室があるのは、アイデンの冒険者ギルド本部だ。つまり、場所そのものがセルベインに有利なのである。
セフェローサは敵陣のただ中ともいえる場所へ、捕虜になる危険まで承知のうえで、一人で来ていた。
もちろん、備えはしてある。
第三軍団のナイトヘヴン群は、リマルの沖合で姿を隠し、いつでも黒い波動砲を発射できるよう準備を整えている。
セフェローサが体内の黒い魔力を爆発させれば、ナイトヘヴン群はその合図を感知し、海上から該当地域に大規模な砲撃を加え、現場をことごとく焼き払って、いかなる証拠も残さないはずだった。
セルベインには、セフェローサがどのような備えをしているのか正確には分からなかった。だが、軍団長と名乗った人物が、何の備えもなくこの場に来たはずはないと考えていた。
「セフェローサ司令官様は、魔王アスペルハイムの配下ではないのですか?」
セルベインは互いの立場の違いを改めて実感しながらも、穏やかな口調で、張り詰めた空気を慎重に和らげた。
「セルベイン様がおっしゃる魔王アスペルハイムは、エノルの魔王であって、ネクソハイムの魔王ではありません。第三軍団は、ただ魔王ラノク様にのみ従います。」
セフェローサも自分の警戒心が過剰だと感じ、少しずつ感情を落ち着かせる。
「興味深いお話ですね。ですが、私の知る限り、魔王は一人だけです。」
セルベインは驚きながら問いかける。
「何人かと問われれば、一人でしょうね。セルベイン様は、魔王アスペルハイムがどうやってエノルの世界に入れたのか、ご存じですか?」
セフェローサの問いに、セルベインは魔王アスペルハイムが初めて侵攻してきたときの姿を思い出す。
「教えていただけますか?エノルの魔法秩序に登録されるはずのない存在が、思いのほかあっさりと通り抜けてきたのは確かです。」
「エノルの魔法秩序を通過できなかったため、魔王アスペルハイムは自らを二つに分けたのです。」
セルベインの問いに短く答え、セフェローサはセルベインを見る。
「……二つにですか?」
「はい。」
するとセフェローサは詳しい説明を付け加える。
「善なる側面からは善なる魔王を、悪なる側面からは悪なる魔王を生み出したのです。その後、二つの存在は同時にエノルの魔法秩序に接触し、登録を試みました。ですが、エノルの魔法秩序は、魔王が二人存在するという状況を受け入れられませんでした。結局、悪なる魔王は遮断され、善なる魔王は魔王ではないという誤った判断のもとで、登録されてしまったのです。もちろん、それも長くは続きませんでした。善なる魔王を装っていたアスペルハイムの正体は、結局見破られたのですから。」
セフェローサは悲しげな表情を浮かべる。
「そういう理由があったのですね。」
セルベインは魔王アスペルハイムが完全な姿でエノルに現れたことを思い出し、ようやくその理由を悟る。
「もう片方の魔王は、どうなったのですか?」
セルベインは慎重に尋ねる。
当時、この矛盾を解消するため、エノルの魔法秩序は二人の魔王のうち一方を消滅させた。
セルベインはその事実を知っていたが、セフェローサの表情を見て、「消滅」という言葉をどうしても口にできない。
「いいえ。ラノク様は今も、ここエノルにいらっしゃいます。そして、それこそが私と第三軍団がここにいる理由なのです」
セルベインの表情を見たセフェローサは、それでも自らの信念を曲げなかった。




