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とある冒険者パーティーの絶望

それでも、Bランクを目指せるだけの実力を備えた冒険者パーティーだ。


剣士はすぐに、これまで積んできた経験を頼りに動揺を鎮める。


「みんな、早く俺の後ろへ!」


そして体が先に動き、後方へ駆けてグルンハルトの前で剣を構える。


グルンハルトは冒険者パーティーの背後に現れていた。


そのため前衛と後衛の位置が逆転し、冒険者パーティーはグルンハルトに背を向けた状態だった。


それが、剣士が急いだ最大の理由だ。


「アグロバースト。」


剣士は素早く、敵の注意を引きつける広範囲魔法の呪文を唱える。


呪文の効果で、ライカンたちの視線が強制的に剣士へと集中した。


「みんな、落ち着いて戦闘位置につけ。聖職者は全員に身体強化の魔法をかけてくれ。」


剣士の指示を受け、聖職者が全員に身体強化の魔法をかける。


「オーバードライブ・フォース。」


聖職者の呪文とともに、全員に強化バフが付与される。


「フロストアロー。」


魔法使いは発動の速い攻撃魔法の呪文を唱え、前方へ氷の矢を放った。


「フレイム・エンチャントアロー。」


弓使いは矢に火属性を付与し、剣士に注意を引きつけられたライカンを狙う。


「ライフシールド。」


聖職者が再びバフをかけ、全員を魔力で作った防護膜で包む。


「みんな、慌てずに練習どおり攻略するぞ。敵の注意がこっちに向いている今が、できる限り攻撃を叩き込むチャンスだ。」


剣士のアグロバーストは、自身の魔力を使い切るまで発動し続ける持続型バフ魔法だ。


剣士の魔力量は他のクラスより少ないものの、聖職者の助けがあれば、剣士でもアグロバーストを最大1分間維持できた。


「ちっ!道理で運がよすぎると思ったら、こんなところで裏をかかれるのか。」


剣士は悔しがる。


グルンハルトに背後を突かれたものの、剣士の落ち着いた指示で冒険者パーティーは急いで態勢を立て直し、戦闘を開始する。


だが、最初に右往左往せず攻略法どおりに動けていれば、少なくともライカンを3体倒し、有利な状態で戦いを始められたはずだ。


グルンハルトとともに現れるライカンは8体から10体。その攻撃力自体はレアボスであるグルンハルトには遠く及ばないが、ライカンの処理に手間取るほど、グルンハルトの攻撃に備える時間が足りなくなる。


出現数は確率次第だが、今回グルンハルトとともに現れたライカンは、よりにもよって最大数の10体だった。


それでも幸いだったのは、この冒険者パーティーがBランクへの昇格を目前にしており、普段からグルンハルトの攻略をしっかり練習してきたことだ。


突然の遭遇ではあったが、剣士の言うとおり、日頃からある程度の準備はしていた。


「Bランクに昇格したら、まずタンクを探さないとな。騎士か盾戦士がいい。」


Bランク冒険者になるための関門であるレアボス、グルンハルトは、物理攻撃を主体とする中級魔獣だ。


そしてグルンハルトとの戦いは、タンクの必要性を痛感させられる最初の経験でもある。


Bランク以下では、タンクの価値は高くない。


敵の攻撃を受け止め、パーティーを守る役割が必要になるほど危険な魔獣が、ほとんどいないからだ。


だがBランクからは魔獣の体力が上がり、物理攻撃だけでなく、魔法攻撃や状態異常攻撃も加わる。


そのため、攻略にかかる時間もさらに長くなる。


結局、Bランクの冒険者パーティーには、タンク系の三大クラスである騎士、盾戦士、守護者のうち、必ず1人を加えざるを得ない。


ただ、タンクが必要になるのはBランクからなので、Bランク以下ではむしろタンク系クラスのレベル上げは容易ではなかった。


当然、序盤の育成が難しいタンクを選ぶ者は少ない。そこに、Bランク以上ではタンクが必要になるという事情も重なり、パーティーにタンクを雇うための報酬もかなり高額だった。


結局、ほとんどのCランク冒険者パーティーには、高い報酬を要求するタンク系クラスを雇う余裕がない。


剣士が自らの剣でライカンとグルンハルトの攻撃を防ぎ、持ちこたえている間に、魔法使いと弓使いの奮闘でライカンを3体倒す。


だが、アグロバーストを維持するため、冒険者パーティーで最大の物理火力を担う剣士が防御役に回り、攻略はさらに遅れる。


アグロバーストの持続時間が終わりに近づいているのに、倒したライカンの数は少なく、剣士の表情は暗い。


魔法使いと弓使いの攻撃だけでは、時間がかかりすぎていた。


そして、まだ半数以上のライカンが生き残っているため、グルンハルトが特殊技の準備に入る。


「グルンハルトの広範囲咆哮だ。気絶耐性の魔法をかけてくれ。」


剣士はグルンハルトの様子を見て、聖職者に魔法を頼む。


「ディバインマインド。」


聖職者はすぐに、冒険者パーティー全員に気絶耐性の魔法をかける。


「ウオオオッ!!」


次の瞬間、グルンハルトは口を開けて咆哮し、自身とライカンたちに広範囲バフをかけた。


グルンハルトの広範囲咆哮に含まれる、低レベルの気絶属性攻撃が冒険者パーティーに響き渡る。


気絶属性のレベルが低いため、気絶した仲間はいない。だが、確率で精神攻撃を受けるため、気絶耐性の呪文を貫通した場合は頭にしびれるような痛みが走り、体力がわずかに低下する。


「くそ。せめて魔法使いだけでも避けてほしかったんだが。」


剣士の視界が一瞬揺れた。魔法使いはこめかみを押さえ、弓使いはよろめきながら一歩後退した。


グルンハルトは右手を上げ、その手のひらに赤い魔力を集める。


「みんな、備えろ。グルンハルトの『闇の烙印』だ。」


剣士の言葉どおり、すぐに闇の烙印が発動し、グルンハルトの右手から赤い魔力が四方へ広がる。


闇の烙印が触れると、その効果で冒険者パーティーのバフがすべて消え、聖職者の治癒魔法の効果が低下する。


「マナポーションで魔力を補充しろ。闇の烙印の状態異常には解除ポーションだ。急げ。」


剣士は素早く懐からマナポーションと状態異常解除ポーションを取り出し、飲み干す。


「アグロバースト。」


剣士は魔力が回復するのを感じながら、もう一度、敵の注意を引きつける広範囲魔法の呪文を唱える。


「ライフシールド。」


聖職者は広範囲の強化バフで、仲間全員を魔法で作った防護膜で包む。


だが、魔法使いと弓使いが再び攻撃しても、基本攻撃力が落ちているため、グルンハルトとライカンを制圧できない。


それでも、どうにかライカンをもう1体倒す。


グルンハルトは剣士がパーティーの要だと見抜き、剣士を攻撃する。


すぐ鎌のような武器を振り上げ、剣士に向かって3回連続で斬りつける。


「くっ。」


剣士は歯を食いしばり、グルンハルトの怒りの連続斬りに耐えるが、体は後ろへ押し込まれる。


すると、グルンハルトは別の技を使う。


「気をつけろ。『血の狂乱』だ。」


剣士は再び全員に備えさせる。


グルンハルトは血の狂乱という技を使い、ライカンと自身の攻撃速度と移動速度を上昇させた。


続いてグルンハルトは、右手に持った武器で聖職者をマーキングする。


「グルンハルトは次の攻撃で『野性の突進』を使うぞ。狙いは聖職者だ。聖職者は一番後ろへ移動しろ。」


剣士の言葉どおり、グルンハルトは野性の突進を使い、すべてのライカンに聖職者への集中攻撃を命じる。


今はアグロバーストの影響で、ライカンはすべて剣士を狙っている。


だが魔法が切れれば、グルンハルトの野性の突進によって、すべてのライカンが聖職者を攻撃することになる。


冒険者パーティーは剣士の後ろに弓使い、その中間に魔法使い、一番後ろに聖職者を配置するが、周囲にはまだ多くのライカンが生き残っていた。


そして、生き残ったライカンが半数以上いるため、グルンハルトの技が再び発動する。


「グルンハルトの広範囲咆哮だ。もう一度、気絶耐性の魔法をかけてくれ。つくづく今日は運がないな。今日は本当に、とことんついてないな。よりによって最大数のうえに、技の順番まで最悪だなんて。」


思いどおりに進まないグルンハルトの攻略に、剣士はついに、ため息交じりの愚痴をこぼした。

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