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とある冒険者パーティーの希望

アグロバーストの効果が切れると、剣士はグルンハルトに背を向けずに素早く後退し、弓使いの前で防御の構えを取る。


そして、木の上から冒険者パーティーを見守っていた黒い耳が、かすかに揺れる。


「ガオッ!」


続いて、グルンハルトの広範囲咆哮が響いた。


しかし、剣士の意識ははっきりしている。


痛みをまったく感じないことから、剣士はグルンハルトの気絶属性の攻撃が外れたのだと悟る。


振り返ると、弓使い、魔法使い、聖職者が全員、無事だと示すようにうなずく。


幸い、今回のグルンハルトの広範囲咆哮で気絶ダメージを受けたパーティーメンバーはいなかった。


ライカンたちはグルンハルトを中心に左右へ3体ずつ扇状に展開し、半包囲の陣形を形成する。


すでに野性の突進で聖職者をマーキングしているため、グルンハルトとライカンたちの視線は聖職者に集まった。


だからといって、聖職者だけをひたすら狙うわけではない。


その途中に位置する魔法使いと弓使いも、依然として攻撃対象だ。


レアボス級ではない通常の魔獣であっても、その大半はマーキングした対象へ突進する際、進路上の敵を無視してむやみに突っ込むことはない。


状況がここまで来ると、冒険者パーティーの頭には自然とダメージコントロールという言葉が浮かぶ。


つまり、冒険者パーティーの剣士、弓使い、魔法使い、聖職者のうち、レアボス攻略への貢献度が最も低い一人が、すべての被害を引き受けるのだ。


利点は、一人を犠牲にすることで残りの戦力を温存できる点だ。


しかし、この方法には明確な後遺症が残る。


まず、人数が一人減る以上、長期的にはパーティー全体の戦闘力低下を避けられない。また、ダメージコントロールを行っても、相手の魔獣が十分に強ければ、結局さらなる犠牲が出るのも時間の問題だ。


そして、ダメージコントロールによって魔獣の討伐に成功しても、この方法はメンバーの間に感情の溝を残すおそれが大きい。その余波でメンバーが脱退したり、パーティーそのものが解散したりする場合もある。


ダメージコントロールという方法は、犠牲を強いる側にも、それを受け入れる側にも、結局傷しか残さない最悪の選択肢だった。


それを誰よりもよく知っているからこそ、剣士はダメージコントロールという言葉が浮かんでも、ついに口を開けず、唇を強くかみしめる。


弓使いと魔法使い、聖職者もまた、口を開けないまま、緊張した面持ちで剣士を見つめる。


剣士は、残酷な選択を強いられる原因となったグルンハルトを、恨めしげな目でにらみつけた。


「それでは……」


ついに、剣士が重い口を開く。


「皆さん、目を閉じてください。」


そのとき、別の声が聞こえる。


普段なら声のした方を確かめたり、その意図を疑ったりしただろう。しかし、切羽詰まっていた冒険者パーティーは、あれこれ考える暇もなくその指示に従う。


「グレア(広範囲失明)。」


全員が目を閉じた途端に魔法の詠唱が聞こえ、すぐにグレアの魔法が発動し、冒険者パーティーの前でまばゆい閃光がはじける。


「グアアアッ!」


強烈な光で視界を奪われたグルンハルトとライカンたちは、苦しみながら身もだえする。


「ビジョンリンク(視界共有)。」


そして、別の魔法の詠唱が聞こえる。


「私の視界を共有します。剣士さん、弓使いさん、魔法使いさん、攻撃してください。」


その声のとおり、冒険者パーティーは目を閉じているにもかかわらず、第三の視界を通じて、目の前のグルンハルトとライカンたちを鮮明に見られるようになる。


まるで誰か別の人の目を借りたかのように、視界が共有される。


しかし、あまりに急激な状況の変化に、冒険者パーティーは戸惑い、すぐには動けない。


まるでそうなるとわかっていたかのように、再び指示する声が聞こえた。


「さあ、急いでください。」


軽く促す声に、ようやく冒険者パーティーが動き出す。


弓使いと魔法使いが矢と魔法の攻撃で、目の見えないライカンを3体倒す。


剣士は素早く近づき、動けないライカンを一息に斬り倒した。


行動不能になったライカンたちは、瞬く間に制圧される。


そのとき、グレアの魔法の効果が切れ、グルンハルトとライカンたちの視界が元に戻った。


「ハルシネーション(幻影撹乱)。」


再び魔法の詠唱が聞こえ、今度は冒険者パーティーを複製した幻影が、グルンハルトとライカンたちの視界を妨げる。


幻影魔法にかかったグルンハルトとライカンたちは、冒険者パーティーの幻影を攻撃し、本体を見失う。


グレア、ビジョンリンク、ハルシネーションと続く、わずか3回の補助魔法による支援だったが、冒険者パーティーは好機を逃さず、主導権を取り戻し始める。


冒険者パーティーは、それまでの劣勢を覆し、相手に強烈な一撃を加える。


剣士の顔に、初めて安堵の笑みが広がる。


戦況を逆転できるようになったこともありがたかったが、ダメージコントロールという残酷な選択を強いられる状況から自分とパーティーを救ってくれたことに、剣士はそれ以上の感謝を抱いた。


残ったライカンたちが冒険者パーティーの幻影を追いかける間に、冒険者パーティーはその好機を逃さず、すべてのライカンを素早く制圧する。


しかし、レアボスであるグルンハルトは幻影魔法による状態異常から素早く回復すると、野性の突進でマーキングした聖職者を探して辺りを見回す。


冒険者パーティーはすべてのライカンを制圧したものの、野性の突進で聖職者を狙うグルンハルトの攻撃は、依然として脅威だった。


そして、グルンハルトはすぐに聖職者へ向かって走り出す。


剣士は素早く移動して聖職者の前に立ちはだかり、迫るグルンハルトに致命的な一撃を放った。しかし、グルンハルトは避けずにそのまま突進し、自らの体力を犠牲にして攻撃を体で受け止める。


弓使いと魔法使いもグルンハルトを攻撃しようと構えたが、あいにく射線上に聖職者がいて、攻撃できなかった。


「バインド(緊急拘束)。」


すると再び魔法の詠唱が聞こえ、地面から伸びたつるがグルンハルトの脚を縛り、その場に足止めした。


脚を縛られて動けなくなっても、グルンハルトはなおも武器を振る。鎌の形をした剣が、聖職者の顔をかすめるように通り過ぎる。


「聖職者さんは、一歩後ろへ下がってください。」


再び聞こえた指示に、聖職者はすぐさま一歩後ろへ下がる。


同時に、視界を確保した弓使いと魔法使い、そして剣士による一斉攻撃が続く。


「グアッ。」


ついに体力を使い果たしたグルンハルトがその場に倒れ、ゆっくりと消滅する。


「おめでとうございます。レアボス、森林地帯のライカンの首領グルンハルトの討伐に成功しました。Bランク昇格に必要な魔獣討伐をすべて完了しました。」


そして全員の水晶板から、レアボスのグルンハルトが討伐され、それによりBランクへの昇格が可能になったことを知らせる案内音声が響く。


「やったー!」


剣士は喜びに満ちた顔で剣を空高く掲げ、勝利の歓声を上げた。


弓使いと魔法使いも安堵の息をつき、喜びを隠せない。


聖職者は黙ってうなずくと、額ににじんだ汗を拭う。


「パチパチパチ!おめでとうございます。」


全員の視線が拍手の音に引かれて上を向く。


そこには、仮面をつけたエルフの女性が木の枝に腰掛けていた。


耳が尖っていることから、エルフであるのは間違いない。


ただ、彼女の耳は奇妙なほど黒かった。


しかし、黒い耳を持つエルフはエノルにはいない。


だから本来、冒険者パーティーは仮面をつけた黒い耳のエルフを不審に思い、警戒するべきだった。しかし、レアボスのグルンハルト討伐を助けてくれた相手だという印象があまりにも強く、彼らはそこまで考えが及ばず、ただ感謝の気持ちだけを抱いている。


「助けてくださって、ありがとうございます。」


剣士は頭を下げ、感謝の意を伝える。


「本当にありがとうございます。」


魔法使いと弓使い、聖職者も感謝の言葉を述べる。


「ほほほ。お祝いされるべきなのは私ではなく、冒険者の皆さんですよ。レアボスのグルンハルト討伐、おめでとうございます。ボスの横取りという失礼を働かないよう、補助魔法だけで支援したのですが、大丈夫でしたか?」


仮面をつけたエルフの女性が尋ねる。


「はい。本当にお見事です。レアボス狩りでは、パーティーメンバーではない冒険者が途中で介入することは原則認められませんが、実に巧みにその規則を回避されましたね。」


剣士は親指を立て、エルフの女性の補助魔法による支援に感嘆する。


レアボスに直接攻撃魔法を使ったわけでも、冒険者パーティーに防御魔法をかけたわけでもなかった。


そのため、剣士の言うとおり、エルフの女性の補助魔法はレアボス討伐を目的とした介入というより、偶然グルンハルトとライカンたちが魔法の範囲内に入り、その影響を受けたように見え、問題になる点はなかった。


「お褒めにあずかり恐縮です。それから、もしもう少しここに留まるおつもりでしたら、私もお手伝いします。」


エルフの女性は微笑みながら提案する。


「ありがたいお申し出ですが、冒険者ギルドでBランク昇格に関する手続きもしなければならないので、そろそろ帰ろうと思います。」


剣士はパーティーメンバーを振り返り、代表して答える。


弓使いと魔法使い、聖職者は剣士の言葉にうなずき、同意する。


「そうでしたか。では、どちらへ向かわれるのですか?」


「ひとまず、アイデンの陸上首都リマルにある冒険者ギルドへ行く予定です。」


エルフの女性は慎重に尋ねたが、剣士は特に警戒することもなく、自分たちの行き先を教えた。


「それなら、私もご一緒してよろしいでしょうか。ちょうど私もリマルへ向かっていたところでした。」


行き先を知ったエルフの女性は、自然に会話を続ける。


「はい。もちろんです。では、ご一緒しましょう。」


冒険者パーティーは、エルフの女性の提案を快く受け入れる。


「ご挨拶が遅れました。私たちは、剣士、弓使い、魔法使い、聖職者で構成された冒険者パーティーです。」


剣士は、自分が所属する冒険者パーティーをエルフの女性に紹介する。


「はい。初めまして。私はセフェローサと申します。」


セフェローサは仮面をつけたまま、冒険者パーティーに自己紹介する。

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