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箒の上の調査団

魔王がアイデンの海に次元門を開き、魔王の軍勢が現れると、セルベインもただちに獣王国バルエルからアイデンの陸上首都リマルへ向かう。


アイデンへ向かうマルベラの高性能箒には、セルベイン、アイオレン、ビティア、ベルマウル、シルブラスが一緒に乗っていた。


"予想どおり、人魚獣人族の国アイデンの南の海に魔王の軍勢が現れました。"


セルベインが状況を説明する。


"師匠。ついに魔王が次元門を開いてしまいました。そのうえ、こんなにも簡単に自分の配下をエノルの魔法秩序に登録するなんて。実際に起きたこととはいえ、とても信じられません。"


アイオレンが信じられないという表情を浮かべ、心配そうに答える。


"予想していたことですから、今さら驚くことでもないです。魔王が使った循環の沈積物は、明らかにエノル世界の魔法秩序に属しています。そのためエノルの魔法秩序は、彼らが魔王の配下であるにもかかわらず、侵入者と見るより、新たな起源種族の出現として受け入れています。状況から見て、おそらく正しい結論なのでしょう。"


セルベインの説明に、皆の表情がさらに暗くなる。


オルディナは、エノルの魔法秩序に新たに登録された種族に関する情報をセルベインと共有した。


魔王アスペルハイムがエノルの魔法秩序に介入し、その起源となったものこそ魔王属性魔法である。


そして黒い波動は魔王属性魔法を意味する魔法秩序であり、魔王の眷属すべてに付与される固有属性であるため、新たな起源種族が黒い波動を使えるという事実だけでも、その起源種族が魔王の配下であることは容易に分かる。


"ただ、意外なのは起源種族が二つあるという点です。アンデッド種族とダークエルフ種族が、新たな起源種族として魔法秩序に登録されています。"


皆が沈痛な表情をしているため、セルベインは余計な刺激を与えまいとするかのように、いっそう無表情を保つ。


"はあ。師匠が私たちに気を遣ってくださるのはありがたいですが、もうこれ以上落ち込む気力もありません。"


ビティアがため息をつきながら首を横に振る。


"では、これからどうすればいいのでしょうか?"


ベルマウルが真剣に今後の計画を尋ねる。


"まずはアイデンの陸上首都リマルで、アイデンのアダクス艦隊司令官アルベロン様とバルカエル将軍様に会いましょう。私たちが来るのを待っておられるはずです。実際に魔王軍と交戦されたのですから、その話も聞くことにしましょう。"


セルベインが自分の考えを整理しながら話す。


"アイデンが魔王軍を退けて勝っている可能性もあるのではないでしょうか? 獣人族は黒い波動に強いです。同じ獣人種族である人魚獣人族も同様です。"


"ええ、人魚獣人族は強いです。しかしアルベロン司令官様は賢明ですから、正体の分からない敵を相手に無謀な攻撃はしないでしょう。"


セルベインはシルブラスの言葉に同意しなかった。


"それでも、黒い波動を感知するこの水晶板は役に立つでしょう。"


アイオレンが喜びながら、手にしている水晶板を掲げて皆に見せる。


"ええ、もちろんです。マルベラ、ご苦労さまでした。"


セルベインがマルベラを褒める。


"はい、サー!グラウムバルのエクスバーク兄貴から直接受け取った新作です。このマルベラ、セルベイン様のお役に立てることを大変光栄に思います。"


マルベラは箒を操りながらも、セルベインに褒められると振り返り、右手を右の眉に当てて敬礼する。


"エクスバーク様が魔王の黒い波動の魔法回路を再設計し、黒い波動魔法探知用の水晶板を製作して送ってくださいました。黒い魔力を探知する魔法呪文を使う際にこの水晶板を併用すれば、探知能力が100倍以上に強化されるそうです。"


セルベインの言葉どおり、ギガンティック・ビーストから抽出した黒い波動の魔法回路は、精密検査のためにすべてマルベラがドワーフ王国グラウムバルへ持っていっていた。


"グラウムバルの兄貴たちが魔王の黒い波動の魔法回路を分析して作った試作品の一つが、この黒い波動魔法探知用水晶板というわけだ。ほかにもいくつか開発品があるそうだが、実戦配備はこの水晶板が初めてだ。この点を肝に銘じ、大切に扱うように。それから、グラウムバルの兄貴たちからの伝言だ。セルベイン様ではなく、お前たちが水晶板を壊した場合、グラウムバルの槌がお前に向かうだろう。"


そう言うと、マルベラは厳しい目つきで皆を見回す。


"水晶板は一つしかないのに。"


しかしアイオレンは、たった一つの水晶板を掲げながら首をかしげる。


"ならばグラウムバルの槌はアイオレンに向かうだろう。エルフを捜す手間が省けたな。"


マルベラは故人の冥福を祈るような表情で、厳かにうなずく。


"水晶板一つで、あまりにけちくさくない?"


アイオレンはあまりの呆れように顔をしかめる。


"それから師匠。水晶板に組み込まれた黒い波動探知魔法回路をエルネドと連動させてもいいですか? エクスバーク様がエルフ魔法を組み込めるよう、わざと空けておいた箇所があります。"


アイオレンが水晶板を調べて知った事実について、セルベインに尋ねる。


"ええ、許可します。エクスバーク様は探知魔法回路の完成をアイオレンに託されたのですね。今のアイオレンなら十分にできることです。"


セルベインは誇らしげにする。


するとビティアが、さりげなくアイオレンの隣へ進み出た。


"おじ様が作った作品なら、当然魔族の魔法呪文も入れなきゃ。私が使うカレンディア魔法呪文も入れてみよう。"


ビティアの目には、魔族魔法への誇りが満ちている。


"どうかな。でも、あなたの平凡な魔法を水晶板が受け入れてくれるか、少し心配ね。水晶板にも見る目があるでしょうし、師匠のカレンシア魔法呪文くらいでないと駄目なんじゃない?"


アイオレンは右肩にありもしない埃を払いながら、憐れむような目でビティアを見る。


"何ですって?! 言いたいことはそれだけ!"


ビティアはアイオレンの挑発に乗ってかっとなるが、すぐに深呼吸して心を落ち着かせる。


師匠のセルベインの前でアイオレンより先にかっとなれば、何となく負けた気がするからだった。


"まあ、そうね。大いに譲って、私はそうだとしましょう。でもアイオレンが師匠の弟子になってから500年を超えているはずなのに、いまだにプリマ・エセンシアしか使えないでしょう。その力でどうやって魔族魔法を水晶板に組み込めるっていうの。精霊王二人分の知恵はいったいどこにあるのかしら。"


ビティアもアイオレンの逆鱗に触れ、気の毒そうな表情を浮かべる。


"言いたいことはそれだけ!"


するとアイオレンは持っていた水晶板を置き、勢いよく立ち上がる。


見開かれた目の中では稲妻が燃え上がっている。


"あなたこそ、平凡な魔法ですって。エルフなら何でもありなの!"


ビティアも負けじと怒る。


"二人とも落ち着いてください。箒の中は狭いのです。"


セルベインが慌ててアイオレンとビティアをなだめる。


"母上。落ち着いてください。"


ベルマウルはそう言うと、一瞬でビティアとアイオレンの間へ身を投じる。


しかしタイミングが悪かった。


アイオレンが蹴り出した右足がベルマウルの背中を打つ。


ビティアが振り回した右手もベルマウルの胸に当たった。


実際、アイオレンとビティアは互いに十分離れていたため、直接当たることはなかった。問題は、慌てたベルマウルが距離も測らず飛び込んだことだった。そのせいで彼は、よりによって両方の攻撃を受ける位置へ自ら飛び込む格好になってしまった。


"ぐっ! うわっ!"


それでもベルマウルは、二人を落ち着かせたい一心で前後から殴られながら、その場で踏ん張る。


"アイオレン。ビティア。そんなことをしていたらベルマウル君が死ぬよ。"


マルベラが振り返って一言告げる。


特にマルベラは、ビティアの手よりもアイオレンの足を大きな脅威と見ている。


"うわっ! シ、シルブラス。僕の体に気の防護膜を。僕に気功気合術をかけてくれ。"


ベルマウルが最後の希望を込めてシルブラスを見る。


"気合術だね。でも気功術は自分の体にしか使えない。それよりベルマウル。草原で学んだ生命の意志をもう忘れたのか。君の生命の意志を思い出してみろ。"


シルブラスからは、いかなる希望も見いだせなかった。


その後もアイオレンとビティアは、しばらく言い争いを続ける。


そして、入らなくてもよい所へわざわざ割って入ったベルマウルは、前後から殴られた末、どうにか解放された。


箒の上でひと騒動が起きたあと、アイオレンとビティアもすっかり疲れ果て、暫定休戦に入った。二人がようやく平静を取り戻す頃、マルベラの箒はアイデンの陸上首都リマルを目前にしていた。


セルベイン一行の前に、陸地の果てと、その先に広がる果てしない海が見える。


"ルガルマ・ギルド長がシルブラス様を送ってくださるとは思いませんでした。ありがとうございます。"


セルベインがシルブラスを見ながら言う。


"セルベイン様。私にまで敬語をお使いになる必要はありません。気楽にお呼びください。"


シルブラスが頭を下げ、セルベインに頼む。


"そうですか。ですが、獣王国バルエルの王子様ですから、気安く呼ぶのも難しいですね。"


セルベインが困ったように笑う。


"はい?"


セルベインとマルベラを除く三人が、その言葉に驚く。


"王子様ですって?"


ベルマウルが尋ねた。


"うん。シルブラスは王子様。ルガルマギルマおじの息子。"


マルベラが笑う。


"ルガルマ・ギルド長の息子? なのに王子様?"


アイオレンの頭の中に、理解できない言葉が入り込む。


"あっ! じゃあ、やっぱり。"


察しの早いビティアが、そう言ってセルベインを見る。


"ええ。ビティアの考えで合っていますよ。"


セルベインがうなずきながら微笑む。


"母上は何かご存じなのですね。どういうことですか?"


ベルマウルがビティアに、早く説明するよう求める。


"あなたも知っていることよ。魔族国のナルジェオス王、グラウムバルのドランドラン・ブロンズストーンアックス・ドワーフ王、バルエルのバルカノス王。この三人の王の共通点は何?"


ビティアが答え当ての質問をする。


ベルマウルが幼い頃、ビティアとベルマウルがよくしていた遊びだった。


"それはまあ。あっ! 次男なのですね。"


ベルマウルは少し考えたが、すぐに正解を口にする。


"そう、そのとおり。伝統的に長男は国の外政を担い、次男が王位を継承して国の内政を担うから、バルエルのルガルマ・ギルド長はバルエルのバルカノス王の兄上ということになる。だとすれば、ルガルマ・ギルド長の息子であるシルブラスは、間違いなく王子様なのよ。"


ビティアは王家の血統に詳しいため、状況をすぐに理解し、王家の系譜を説明した。


"ああ。そうだったのですね。"


アイオレンがようやく理解する。


"私はそれも知らずに。"


ベルマウルが急にシルブラスの顔色をうかがう。


"ベルマウル。急によそよそしくなってどうしたんだ。今までどおり接してくれたらいい。君だって、よく考えれば王子様じゃないか。"


"それはそうだね。"


シルブラスの言葉に、ベルマウルは照れくさそうに苦笑しながら彼を見つめた。


"ええ。そういうことです。だからといって、あまりぎこちなくなる必要はないでしょう。"


セルベインは笑う。


セルベインは身分に関係なく、皆が仲良く過ごすことを願っている。


"セルベイン様。人魚獣人族の国アイデンの陸上首都リマルに到着します。"


マルベラの言葉どおり、箒は再び地上へ降り始める。


下では魚人たちが光る杖を振り、マルベラの箒を着陸地点へ導いていた。

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