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黒き方舟の軍団

ネクソハイムで魔王アスペルハイムの艦隊が次元門が開くのを待っている。


かつて光の種族と熾烈な戦いを繰り広げたネクソハイムの黒き方舟軍団だ。


黒き方舟軍団は第1軍団から第4軍団まで、全4個軍団で構成されている。


軍団は、次元門を越える能力を持つ戦闘特化型の移動手段であるナイトヘヴンを使用する。


戦闘型ナイトヘヴンの場合は可変構造となっており、魚に似た形態から背びれを含む上部を左右に展開すると、広い甲板を持つ船のような形に変形することもできる。


戦闘軍団を率いる軍団長は4人がいる。


そして軍団の序列は、そのまま軍団長の序列でもある。


アスペルハイムの右腕とも言える存在である第1軍の軍団長はグレイハルスだった。


次に左腕とも言える存在は、第2軍軍団長モルバルド。


第3軍の軍団長はセフェローサ。


第4軍の軍団長はカラスレイン。


現在、第1軍団から第4軍団まで全てが次元門が現れる空間の周辺に集結し待機していた。


アスペルハイムはエルフ聖域セルネアから奪取したレクイエム・コアで、ネクソハイムとエノルを結ぶ次元門を作る準備をする。


しかし、過去に光の種族が住む世界を消滅させるのに強力な効果を発揮したブラックホール爆弾は、まだエノルへ移動させることができない。


エノルは魔法秩序によって成り立つ世界だからだ。


簡単に言えば、魔法秩序に登録されていないものは、どのようなものであっても存在することができない。


さらに、オルディナはネクソハイム世界に関することと、アスペルハイムが光の世界を破壊した際に使用した全てのものを記憶している。


アスペルハイムはオルディナの存在を知らないが、エノルの魔法秩序を作ったオルディナの立場からすれば、アスペルハイムに関係するものは何一つ魔法秩序の中に含めなかった。


魔王もすでに知っているように、たとえネクソハイムからエノルへ向かう次元門を開いたとしても、魔法秩序に登録されなければエノル世界で物理的な力を行使することはできず、再びネクソハイムへ押し戻されるのであった。


そのため、エノル世界のレクイエム・コアを利用する必要があった。


エノル世界で保管されている循環の沈積物は、言い換えればエノルの魔法秩序の副産物でもあった。


したがって、レクイエム・コアの副産物によって形態を構築すれば、既に存在しているエノルの魔法秩序を利用した結果であるため、エノル世界で自然発生した生命体と見なされることができた。


実のところ、レクイエム・コアすら持っていなかったアスペルハイムは、最初は非常に長い試行の末にエノル世界で魔王として存在力を認められたのである。


考えてみれば、封印されているとはいえ、アスペルハイムも今では魔王という形でエノルの魔法秩序に登録されているため、エノルに存在できるのであった。


今回奪取したレクイエム・コア1つで、ネクソハイムからエノルへ通じる次元門をしばらくの間だけ開くことができる。


ちょうど黒き方舟軍団1個軍団が渡ることのできる時間であるため、アスペルハイムはまずグレイハルス軍団長が率いる黒き方舟軍団第1軍団をエノル世界へ呼び寄せようとしていた。


黒き方舟軍団が全て見守る中、ついにエノル世界へ向かう次元門が開かれた。


予想通り、レクイエム・コア1つで作られた次元門はその規模が小さく、維持できる時間も短かった。


「ネクソハイム黒き方舟軍団。第1軍団、前進せよ。」


黒き方舟軍団第1軍軍団長グレイハルスが命令すると、第1軍のナイトヘヴン艦隊が次元門へ向かって前進し始める。


黒き方舟軍団全員が見守る中、第1軍がエノルへ向かう次元門へ近づいている。


「ダーク・カーン様に真っ先にお呼びいただけるとは、グレイハルス軍団長はお幸せですね。」


4人の軍団長全員が接続された映像の中で、第3軍軍団長セフェローサがそれとなく話を切り出した。


「ははは。セフェローサ軍団長。少し待てばダーク・カーン様が順番に呼んでくださるのですから、ここで嫉妬する理由が何でしょうか?」


グレイハルスがセフェローサをなだめる。


「ですが、第1軍団より遅れて行くのなら、我々に何が残るというのですか!」


映像の中で第2軍団軍団長モルバルドが不満に満ちた表情を浮かべる。


「ダーク・カーン様が直々にお決めになったことであるが、忠誠心だけなら第4軍団も決して劣ってはいない。」


第4軍軍団長カラスレインが先発に選ばれなかったことへの不満を口にする。


「軍団長たちの忠誠心はダーク・カーン様もすでにご存じです。それを知らない軍団長たちではないはず。ここで再び不満を口にすることは、ダーク・カーン様への忠義ではありません。私も軍団長たちのために待つつもりですから、あまり性急に考えないでいただきたい。」


グレイハルスが軍団長たちをたしなめる。


「ですが、まるで我々に恩着せがましく仰っているように聞こえますので、そのお言葉は少々耳障りですね。」


グレイハルスの言葉に、セフェローサが肌に皺が寄らない程度にほんのわずか顔をしかめる。


「第4軍団にそのような慈悲は不要だ。」


セフェローサの言葉にカラスレインが激昂し、第4軍団のナイトヘヴン艦隊を次元門の方へ動かし始めた。


「カラスレイン軍団長。第4軍団を下がらせなさい。ダーク・カーン様がお決めになった順序を守らねばなりません。」


グレイハルスは第4軍団の動きに神経を尖らせる。


「第1軍団、速度を上げて次元門通過を急げ。第1軍団後尾部隊は遮断戦術を実施し、他の軍団が次元門を越えられないよう阻止せよ。全責任は私が負う。」


映像の中でわずかに顔を背け、グレイハルスが自らの副官に命令する。


「はっ。」


副官はすぐに持ち場を移動し、グレイハルスの命令を第1軍団全体に伝達する。


「第1軍団が速度を上げています。どういうことですか?」


しかし、第1軍団の加速について第2軍団軍団長モルバルドが強く問いただした。


「次元門が少々不安定なので、迅速に通過する必要がありそうです。」


グレイハルスが適当に状況を説明する。


「しかし、第3軍団の測定結果では次元門の状態はまだ良好です。わざわざ速度を上げるほど急ぐ理由はありません。」


第3軍団軍団長セフェローサが微笑む。


そのセフェローサをグレイハルスが睨みつけるが、セフェローサはまったくひるまなかった。


「どうにも納得できない。当然、第4軍団が行くべきことだ。」


ついに第4軍団が見送りの隊列から離れ、次元門の方へ移動し始めた。


「軍団長たちは落ち着いて自重されよ。」


徐々に軍団が統制を離れて競争しようとする動きを見せると、グレイハルスは命令するような口調に変え、時間を稼ごうとする。


「グレイハルス軍団長は黒き方舟軍団の軍団長たちを愚か者だとお考えですか? 第1軍団の後続部隊が遮断戦術で背後を塞ぎ、我々が次元門へ近づけないよう動いていることを、こちらが気づかないとでも?」


そんなグレイハルスに向かって、第3軍団軍団長セフェローサが厳しく叱責する。


「セフェローサ軍団長! 他の軍団長たちを扇動するな。この状況、必ずダーク・カーン様に報告するぞ。」


そしてグレイハルスはこの言葉とともに先に映像から退出してしまう。


「皆さん、ご覧になりましたね? 我々に隠していることがあるのは間違いありません。果たしてダーク・カーン様は、エノルを滅ぼす時に共にする栄誉ある軍団として誰を選ばれたのでしょうか!」


セフェローサが3人の軍団長に問いかけた。


「当然、第4軍団だ。第4軍団、次元門へ向けて全速前進せよ。」


カラスレインはそう言い残して映像から退出する。


「第2軍団は、他の軍団に功績を譲るほど寛大ではないです。」


モルバルドも映像から退出する。


「プリンテシル、準備しなさい。我々も急ぐとしよう。」


映像が終わると、第3軍団軍団長セフェローサは急いで指揮席から立ち上がり、副官を呼ぶ。


「第3軍団の精鋭部隊を編成しました。第3軍団本隊が到着するまで、どうかご無事で。」


別の副官が黒い波動を利用して自分の姿をセフェローサに変え、セフェローサの代わりに指揮席へ上がる。


「うん。オペレイアも気をつけて。」


「はい、ありがとうございます。セフェローサ様もどうかご無事で。武運をお祈りいたします。ラノク様にもよろしくお伝えください。」


オペレイアがうなずく。


「セフェローサ様。急がなければなりません。」


プリンテシルがセフェローサの手を取って走り始める。


第1軍団の後尾部隊を、第4軍団が横から入り込んで猛烈に体当たりしながら押しのけていた。


あちこちでナイトヘヴン同士が絡み合いながら衝突し、黒き方舟軍団の艦船同士がぶつかり合って破壊される。


衝突によって完全に破壊されたり半壊した艦船が黒い火花を散らしながら隊列から脱落していった。


「そのまま押し切れ。」


第4軍団軍団長カラスレインは、自らの第4軍団で第1軍団の後尾部隊を完全に押し潰して決着をつけようとする。


「第4軍団だけに良い思いはさせられません。」


すると、第4軍団の横から今度は第2軍団が突っ込み、次元門の外へ押し出そうとする。


「ちっ! 待つこともできない狂犬どもが。」


グレイハルスが、第1軍団後尾部隊と第2軍団、そして第4軍団が完全に入り混じって滅茶苦茶になった後方を振り返る。


しかし、その軽蔑を含んだ視線は冷たかった。


「急いで次元門を通過しろ。」


そうして第1軍団の指揮艦と第1軍団先頭部隊が次元門を越え、エノルの世界へ移動する。


第1軍団の先頭部隊が次元門を越えると、第1軍団の後尾部隊はナイトヘヴン同士を連結させ、他の軍団が次元門を通過できないように、まるで次元門の蓋のようにその前を塞いだ。


そうしてナイトヘヴン同士の激しい肉弾戦がしばらく続いた後、エノルへ繋がる次元門が薄れていき、閉じる兆しを見せ始めた。


その時、第3軍団のナイトヘヴン高速機動巡洋艦100隻が次元門に向かって全速力で突進し始めた。


それを見て第1軍の艦船が立ちはだかるが、第3軍団は速度を落とさずそのまま衝突する。


「ドォン!」


衝突した艦船が引き裂かれ、弾き飛ばされた。


しかし第3軍団は第1軍の艦船を粉砕しながら、徐々に内側へ食い込んでいく。


実のところ、第3軍団の高速機動巡洋艦100隻のうち70隻には誰も乗っていなかった。


その代わり、乗員スペースに至るまで全て爆弾で埋め尽くされた爆弾無人艦であった。


第3軍団は無人艦で紡錘形陣形の外殻を形成し、その内側に位置する30隻だけが第3軍団の中核であった。


「セフェローサ様。エノルへ向かう次元門が閉じ始めています。」


プリンテシルが緊張した様子でセフェローサを振り返る。


「流星降下戦術開始。」


セフェローサが指示する。


「ドォン!」


セフェローサの指示によって、紡錘形陣形の外殻を構成する無人艦の一部がその場で自爆する。


そしてその爆発圧力で第1軍団が押し戻されると、第3軍団のナイトヘヴンが迅速に押し入った。


「もう一度だ。」


セフェローサの指示で再び無人艦が爆発し、隙間を作る。


まるで地面にドリルで穴を開けるかのように、第3軍団は無人艦をドリルのように利用し、第1軍団という堅固な地盤を掘り進め始めた。


連続爆破を行いながら、第3軍団は流星降下戦術によって第1軍団に隙を作りつつ、消えゆく次元門へ向かって進んでいく。


そしてついに無人艦を全て使い果たした時、第3軍の30隻が次元門の前へ到達した。


それを見た第1軍団は、次元門に向けて一斉砲撃を行った。


「ドォン!」


主砲から発射された砲撃は、すでに消えた次元門を通り抜けて遥か彼方へ飛び、その一点で交わって黒い爆発を引き起こした。


その時、残されたネクソハイム黒き方舟軍団長たちの間に映像通信が入る。


「ちっ。結局、第1軍団だけが渡った。」


第4軍団軍団長カラスレインが腹を立てる。


「ははは。ですが、第1軍団の戦力を削れたのですから気分は良いです。グレイハルス軍団長の表情が見ものです。」


第2軍団軍団長モルバルドが上機嫌に笑う。


「軍団長同士でこれほど協調性がなくては、後でダーク・カーン様にどうお会いするおつもりですか?」


セフェローサに変身したオペレイアが、優雅にセフェローサの口調を真似る。


「ふん。誰が言う。」


だが、第4軍団軍団長カラスレインは聞く耳を持たない。


「まったくその通りです。」


第2軍団軍団長モルバルドがうなずく。


やがて映像が消えると、セフェローサに変身したオペレイアは安堵のため息をついた。

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