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無形の国

「師匠。魔王だけでなく、黒い啓示のような黒い波動を持つ魔王の眷属は、いかなる存在であってもセルネアの防御魔法を通過できないよう、エノルの魔法秩序に登録されていると存じています。」


アイオレンが戸惑う。


「だからこそギガンティックビーストが必要だったのです。ビティアとベルマウル将軍がロデンミルの結界魔法ルクナスを通過したのと同じ理屈です。」


セルベインが苦笑する。


「では、今後も魔王は同じ方法を使えるかもしれませんね。」


ビティアが今後のことを心配する。


「いいえ。同じ方法が二度使われることはありません。」


セルベインがきっぱりと言う。


「マルベラ。防御魔法の更新はどうですか?」


「はい、サー!セルネアネットワークのファイアウォールプロトコルのセキュリティパッチが完了しました。ファイアウォールの再起動を開始します。再起動率30%。稼働完了前に未認可接続が先です。敵の出現に備えてください。」


マルベラの手が素早く修正版の上を動いている。


「母上。マルベラ様のお言葉がまったく理解できません。それでも敵が来るということは分かる気がします。」


ベルマウルはマルベラの箒から飛び降りると、皆を守ろうとするかのように前へ出て剣を抜いた。


「気にするな。そろそろ慣れなさい。それでも魔女同士では互いに会話しているみたいだけど。とにかくルペンシアの魔女たちは皆変わり者だから。それより今の方が大問題よ。ベルマウル、気を緩めず準備して。」


ビティアがベルマウルを準備させる。


「ルペンシアの魔女たちは、はるか昔からエノル世界の魔法ネットワーク管理者として活動してきました。ネットワーク管理のためには高い場所が必要であり、効率的な冷却のために断崖の上の国家という姿を持つようになったのです。」


マルベラを見るセルベインの目は、懐かしい友を見るかのように温かい。


エノルの世界が始まり、その後しばらくして現れた魔女たちにセルベインが頼んだことだった。


今では語り部たちですら知らない、完全に忘れ去られた物語だが、魔女は魔法が最初に始まった時、エノルの魔法に自然に適応した最初の種族の一つである。


「バチッ! ガシャーン!」


ガラスが割れるような音とともに、セルネアの防御魔法に亀裂が発生する。


生じた亀裂は全部で10か所で、その亀裂の前に転移魔法陣が現れた。


「ゲロッ」


転移魔法陣を通じてギガンティックビーストの頭が入り込むと同時に、ビーストの口が強制的に開かれ、黒い啓示たちが流れ込んでくる。


「ボン!」


黒い啓示をすべて吐き出したギガンティックビーストは体を維持できなくなり、そのまま体が破裂して黒い煙となって消え去る。


エルフの聖域であるセルネアを黒い波動で汚しながら、黒い啓示たちが身を起こす。


「聖なるセルネアに入ることは許さない!」


するとアイオレンが怒り、黒い啓示へ向かって駆け出す。


「アイオレン、いけません。」


しかしセルベインの呼び止める声も聞かず、アイオレンはそのまま黒い啓示へ向かいながら魔法の詠唱を始める。


「ビティア。」


セルベインがビティアを呼ぶ。


「はい、師匠。あのあほなエルフが! ベルマウル、行くわよ。」


ビティアはマルベラの箒から飛び降り、アイオレンを追いかける。


「はい、母上。」


自分の名前が呼ばれるよりも先に、ベルマウルはすでにアイオレンへ向かって走っていた。


「シルブラス。」


ルガルマがシルブラスの名を呼ぶと、シルブラスはカラムブルの術とともに風のような速さで動き、アイオレンを救う。


ちょうど黒い啓示の一体が、アイオレンの背後を狙って攻撃しようと構えていたところだった。


しかしシルブラスは気功を込めた頭突きで黒い啓示を遠くへ吹き飛ばす。


10体のギガンティックビーストから現れた黒い啓示が、セルネアの広場を埋め尽くしている。


「ギガンティックビースト一体につき、黒い啓示が十ずつ隠れていたようです。」


ルガルマが黒い啓示たちの数を数える。


「すみません、ルガルマギルド長。ギガンティックビーストを救うことができませんでした。」


セルベインが苦々しく笑う。


「いいえ、セルベイン様。より多くのギガンティックビーストが犠牲になり得た事件を見事に防いでくださいました。獣人国バルエルの獣人たちを代表して、心より感謝申し上げます。」


ルガルマはそう言って立ち上がり、右手に気功を集める。


ルガルマは自分がいるにもかかわらず恐れもなくセルベインを狙って近づいてくる黒い啓示へ向け、ためらいなく気功弾を放った。


「ぐあっ!」


気功弾を受けた黒い啓示は悲鳴を上げながら後方へ吹き飛ばされ、そのまま倒れて伸びる。


「ボン!」


しかし黒い啓示は最後の悪あがきとでも言うように、その場で爆発して黒い煙となり消え去る。


ルガルマが向かう先々へ気功弾が飛び、黒い啓示を一撃で倒していく。


「セルネア迎撃魔法発動。ターゲティング完了。連発魔力砲、発射開始。」


マルベラの言葉が終わると同時に、城壁の上に魔力砲が召喚され、黒い啓示に向けて閃光を連続発射し始める。


「マルベラ。抜け出そうとする黒い啓示を追跡してください。」


セルベインがマルベラに指示する。


「位相スキャン中。魔力痕跡確認。黒い啓示確認。数20。」


マルベラはセルネアの高い尖塔に設置された水晶石を使い、セルネア全域を迅速にスキャンする。


「この程度の数でセルネアを攻撃するとは、セルネアを占領するのが目的ではないようですね。一体何を狙っているのでしょうか。」


セルベインは再び考え込む。


セルベインが気付いたことを、魔王が知らないはずがなかった。


「セルネア守護魔法発動。エルテレオン騎士団召喚。」


マルベラの言葉が終わると同時に、広場に武器を持った戦士12人が同時に召喚された。


「あっ!おじ様!?」


ビティアが召喚された騎士団を見て驚いて叫ぶ。


するとドワーフがビティアの方を振り向いた。


「そうか。我らの子孫たちは今もなおこの地で元気に暮らしているのか。はっはっは!」


ドワーフが満足そうに笑う。


彼の両手には巨大なハンマーが一本ずつ握られている。


そしてハンマーにはドワーフ王国グラウムバルの旗が描かれている。


「ああ。ならばやはり!」


ビティアの驚きが深まる。


「深淵の鎚。雷鳥螺旋風!」


ドワーフは鶏の羽を振るかのように、二つの重いハンマーを前方へ時間差をつけて投げる。


ドワーフの手を離れたハンマーは高速で回転し、二つのハンマーの間に雷が発生して互いに繋がった。


ハンマーはブーメランのように黒い啓示たちの間を駆け巡る。


黒い啓示たちはハンマーに打たれて吹き飛ばされ、雷に打たれて灰となって消えた。


「ドワーフの祖先、グラウムバル様。」


ビティアは黒い啓示が迫っていることも忘れ、ぼんやりとグラウムバルを見つめている。


「母上、しっかりしてください。イスカ・ロック。」


ベルマウルが魔法の呪文でビティアへ近づく黒い啓示を退ける。


「母上、大丈夫ですか。戦闘中に気を緩めるなんて母上らしくありませんよ。」


ベルマウルがビティアに今が戦闘中であることを思い出させる。


「あっ、ごめん。でもエクスバークおじ様が見たら、サインをくださいってしがみついていただろうな。残念ね。ということは、あの獣人はまさか。」


ビティアが召喚された獣人の方を見る。


「バルエル様。」


ルガルマが敬意を込めた表情で頭を下げる。


「カラムブル。」


バルエルと呼ばれた獣人は、自らの遠い子孫を見て微笑むと、すぐに青き狼となって突進する。


「気功分身。」


バルエルは前進しながら気功術でさらに二体の分身を召喚した。


物理的実体を持つ分身と共に、三匹の青き狼が組織的に黒い啓示を狙う。


「分身の能力は本体の50%が限界だと聞いていましたが、100%同じ身体能力を持つ分身を二体も作られるとは見事です。一つ学ばせていただきました。」


ルガルマがバルエルを見て尊敬を込めて感嘆する。


その時、エルテレオン騎士団の中で、自分の体よりも大きな帽子を深くかぶった女性が空へ向かって魔法の呪文を唱える。


「魔女ルペンシアからの要請を確認。位相攻撃魔法陣起動。バックアップシステム作動。リフレクター位置再調整。」


マルベラは魔女ルペンシアの攻撃魔法と同期し、セルネアの上空に反射鏡を召喚してその角度を調整する。


「ロックオン完了。」


マルベラの言葉が終わると、ルペンシアの攻撃魔法が発動する。


魔女ルペンシアの魔法陣から伸びた黒い髪の毛が噴き上がり、空中に浮かぶ反射鏡に当たって角度を変える。


それぞれの髪の毛は反射鏡で跳ね返りながら黒い啓示を貫いた。


すると黒い啓示たちは、髪を通じて伝達された強力な状態異常魔法にかかる。


さらに体力の落ちた黒い啓示は状態異常に耐えきれず倒れ、灰となった。


セルネアのエルテレオン騎士団のうち、ドワーフのグラウムバル、獣人のバルエル、魔女ルペンシアが先に動いた。


残り九人のエルテレオン騎士は待機モードを維持している。


「たった三人で。」


ビティアが驚く。


ビティアは理性を失って暴れるアイオレンを、ようやくなだめたところだった。


セルネア広場に現れた黒い啓示たちが、瞬く間に全滅する。


「ん?」


セルベインが違和感に気付き、後ろを振り向く。


するとセルベインが振り返るのと同時に、エルテレオン騎士団のエルフの弓使いが後ろを向き、自らの背中に背負った矢筒から矢を抜き、素早く二本の矢を放った。


すぐに二本の矢がセルベインの見ている方角へ飛んでいく。


矢は目標へ向かう途中で、建物の前では自ら消え、建物を通り抜けた後に再び現れて飛び続ける。


矢に付与された「命中対象以外無効化」の魔法によって、対象以外の全てを通過し、矢はただ目標だけを目指して一直線に飛んだ。


「ドスッ! ドスッ!」


目には見えていなかったが、エルフの弓使いは黒い啓示の背中に矢が刺さる音を聞いた。


そしてその音を聞くと、エルフの弓使いは再び三本の矢を取り出し、連続して三本の矢をさらに放つ。


「ドスッ! ドスッ! ドスッ!」


そしてエルフの弓使いは再び三度、矢が刺さる音を聞く。


しかし最後まで矢が向かった方向から目を離そうとはしない。


「魔王。あなたの目的はレクイエムコアでしたか。」


セルベインの言葉どおり、一体の黒い啓示が矢の刺さった体で死にかけながらも、瞬間移動魔法陣を越えて消えようとしていた。


移動魔法陣の前で矢が飛んでくるのを見た魔王は、黒い啓示二体を前後に並べる。


最初の二本で後方の黒い啓示は即死したが、その黒い啓示は死ぬ前に自らの黒い波動を前方の黒い啓示へ注ぎ込み、防御力を高めていた。


そして前方の黒い啓示は、瞬間移動魔法陣へ向かって走り続けていた。


それを見たエルフの弓使いは、確実な処理のために三本の矢を放つ。


三本とも致命傷ではあったが、黒い啓示はすでに死んだも同然の体で瞬間移動魔法陣を越え、その後体が消えた。


「セルネアネットワーク・ファイアウォール再起動完了。未認可移動魔法陣すべて消滅。ファイアウォール稼働率100%。」


マルベラの言葉どおり、ファイアウォールは再起動し、魔王が作った移動魔法陣も消滅した。

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