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魔王の贈り物

マルベラの箒が、獣王国バルエルの草原を非常に速い速度で飛んでいる。


走る者の上には飛ぶ者がいることを証明しようとでもするかのように、箒は青き狼の足取りよりはるかに速く移動している。


おかげでセルベイン一行は、広大な草原にある獣人たちの農場を素早く行き来できるようになり、移動時間が短縮された分、より多くのギガンティックビーストを検査することができた。


ただし、その代償としてセルベイン以外には誰にも理解できないマルベラの話を聞き続けなければならない。


「セルベイン様に恐れながら申し上げますと、マベル零式は断言しますが、空飛ぶシルクロードと呼ぶことができます。あら、でもシルクロードって何でしたっけ?!」


マルベラは自分で話しておきながら、時々自分でもその意味が分からなかった。


「師匠が以前おっしゃっていた痕跡遺伝という現象ですね」


次の農場へ向かう途中でアイオレンが言う。


マルベラの箒は穂を4本使用しただけあって、10人が輪になって座り話を交わせるほどの広い空間を提供している。


そのうえ箒の周囲は魔法の呪文によって外界と遮断された静かな空間となっており、風の音一つ聞こえない。


「痕跡遺伝ですか?」


ベルマウルには初めて聞く話だった。


「はい。簡単に言うと、直接経験してはいないのに覚えているものを指します。ほとんどは想像力が加わって夢として見るもので、目覚めるともう覚えていられないものです。しかし痕跡遺伝現象が発生すると、まるで直接経験したかのように記憶し、頭に浮かび、時には現実になることもあります。」


アイオレンは自分の知る範囲でできるだけ分かりやすく説明しながらセルベインを見る。


「違うよ、アイオレン。痕跡遺伝だなんてそんな低俗な表現は私には似合わないじゃないか。どうせならロストテクノロジーと言ってくれ」


マルベラがアイオレンの言葉を訂正する。


「ロストテクノロジー?」


ベルマウルはマルベラの言葉に首をかしげる。


「マルベラ、ロストテクノロジーって何?」


アイオレンがマルベラに聞く。


「アイオレンはそれも知らないの。ロストテクノロジーじゃないか」


ベルマウルの耳にマルベラの返事が聞こえる。


「え? 何か聞き間違えた気がするのですが」


ベルマウルはマルベラの妙な返答が理解できず首をかしげる。


「さあですね。」


するとアイオレンもベルマウルのように首をかしげてみせる。


「師匠なら何かご存じなのでしょう。」


結局ビティアがセルベインに尋ねた。


「今は考えすぎです。痕跡遺伝とは今に属していないすべての記憶です。つまり過去だけでなく、これから起こり得る可能性の記憶でもあります。それが魔女たちの役割であるため、魔女の国ではよく見られる現象ではありますが、もしかしたら時が流れれば、本当に誰もが使える日が来るかもしれませんね。」


セルベインは自分だけが知るやり方で微笑む。


ギガンティックビーストの検査が繰り返されるほどにコツが身につき、最初より速度が上がり始める。


進行速度が速くなると、検査もまたさらに早く終わる。


検査の終盤には、停止飛行中の箒の上から直接魔法の呪文をかけ、黒い魔法回路を回収してそのまま現場を離脱し、農場に着陸すらしないという妙技まで披露した。


北部から来た援軍の助けもあり、予想より早くギガンティックビーストの全検査が終了する。


確かな成果も得られ、多くのギガンティックビーストから黒い魔法回路を回収した。


しかしルガルマは水晶板の報告書を見ながら、ずっと結果を確認していた。


「何か問題がありますか?」


ルガルマの表情が暗いため、セルベインが心配して問う。


セルベイン一行は最後の農場で黒い魔法回路を回収し、マルベラの箒で獣王国の首都バルエルへ戻っている途中だった。


「はい、セルベイン様。ギガンティックビーストの総数が合いません。確かに10頭不足しています。」


ルガルマの表情は尋常ではない。


「一、二頭ならともかく、10頭となれば間違いようのない数字ですね。」


セルベインは獣人たちが普段からギガンティックビーストを徹底して管理していることをよく知っている。


一、二頭も間違えないのに、10頭なら間違いなく別の理由がある。


ルガルマの不安げな視線に全員が緊張したその時、セルベインの右腕の腕輪から警告音が鳴り始める。


「警告。未承認アクセス試行中。防御魔法に衝突。ダメージ確認。防御魔法力低下。第二次未承認アクセス試行中。アクセス試行増加。防御魔法力連続低下。」


セルベインの右腕の腕輪から状況を知らせる声が続いている。


「セルベイン様。セルネアネットワークのファイアウォールに対するハッキング試行があります。管理者権限で接続中。物理的特性の分析完了。ギガンティックビーストと同一。未承認トラフィック数10。」


マルベラは自分の前に水晶板を召喚し、その上に浮かび上がった各種情報を確認する。


普段から意味不明なことをよく口にするマルベラだからこそ、その口調は無視するとしても、質問するような視線はすべてセルベインへ向けられた。


「師匠、何が起きたのですか? まさかセルネアに何か問題でも発生したのでしょうか?」


アイオレンが慌てる。


「時間がありませんね、マルベラ。瞬間移動魔法を使用します。このままセルネアへ移動しましょう。」


そう言うと同時に、セルベインは急いで魔法の呪文の準備をする。


「はい、セルベイン様。セルネアへの接続権限を要求中です。全員の接続権限を取得します。セルネアネットワークへのログイン準備完了です。」


マルベラの手が水晶板の上を演奏するかのように動き、準備が終わるとセルベインに知らせる。


「ポルタ・セルネア。」


セルベインが魔法の呪文を唱えると、草原を高速で飛行していたマルベラの箒は、次の瞬間、全員を乗せたまま、まるで最初からそこに存在しなかったかのように消え去った。


次の瞬間、セルベイン一行はセルベインのポルタ・セルネアの魔法によって、獣王国バルエルの草原からセルネアへ移動している。


「師匠、ここはどこですか?」


ビティアが周囲を見回す。


突然変わった周囲の様子に、誰もが驚いた表情を隠せない。


全員の前には、水晶で造られた半透明の高い建物と、清潔な街路が見える。


大きすぎず、また小さすぎもしない、ちょうど心地よい大きさの城の内側の広場に、マルベラの箒が到着していた。


「ここはエルフの聖域の一つであるセルネアです。」


アイオレンがそう言いながら立ち上がり、エルフ式で丁重に挨拶する。


「なるほど。」


ルガルマが席から立ち上がり、獣人族の方式で丁重に挨拶する。


シルブラスもルガルマに続いて後ろから礼を示す。


「ここがセルネアなのですね。」


ビティアも名前を聞いたことはあったが、来るのは今日が初めてだった。


ビティアは納得した表情で立ち上がり、魔族の王女として礼儀を尽くす。


「セルネア? セルベイン様と似た名前の場所ですね。」


ビティアの隣で共に礼を示した後、ベルマウルが興味深そうにあちこちを見回しながら言う。


「エルフの聖域の中でも、セルネアは非常に特別な場所です。もう一つの名は無形の国。そしてここは深淵の内側にあります。」


セルベインは懐かしそうな目で周囲を見回す。


「深淵の内側ですか?」


ベルマウルには理解できない。


「はい。文字通り深い海のそこです。」


アイオレンが人差し指を上へ向けると、見上げた先では魚が泳いでいる。


しばらくして床に巨大な魚の影が映り、セルベイン一行の上を悠々と泳ぎながら通り過ぎて消えていった。


透明で巨大な結界がセルネア全体を包み込み、水の侵入を防いでいる。


結界の外には大小さまざまな魚たちが泳ぐ姿が見える。


「キャー!」


ベルマウルが大きく驚いて悲鳴を上げる。


静かな空間に声が反響し、空間に響くベルマウルの声はひときわ大きい。


「シーッ。」


ビティアはベルマウルの口を塞ぎ、静寂な空間に響くベルマウルの声を慌てて止めた。


「ドン! ドン! ドン!」


そしてセルネアの防御魔法を激しく叩く音が響く。


その音が全員の意識を現実へと引き戻した。


「ギガンティックビースト接続によるセキュリティ魔法の防御力喪失50%。識別子・黒き啓示の遮断失敗。未認可接続増加中。間もなく敵が出現します。」


マルベラが状況を報告する。


「実は草原が目的ではなかったのです。魔王は最初からここを狙っていたようですね」


ついにセルベインは魔王の真の意図に気づく。


「もう贈り物の箱を開けたのか? 気に入ってくれると良いのだが。」


魔王アスペルハイムは黒き啓示の目を通してセルベインを見つめながら、封印石の中で微笑んだ。

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