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草原の都

獣王国バルエルの首都もまたバルエルである。


だからといって、王国の都に他種族のような王国を象徴する建築物があるわけではなかった。


バルエルの都は木の柵で囲まれた境界があるだけで、基本的には草原と区別して見られる部分がない。


首都バルエルは、あくまで自然な草原の延長線で自然と共に暮らす獣人たちの生活をそのまま見せている。


木の柵の内側には、獣人たちが暮らす天幕型の住みかがある。


獣人たちは自分たちが使用する天幕型住みかをゲルと呼ぶ。


最初に獣人たちへゲルの作り方を教えた彼女がそれをゲルと呼び、それ以来、獣人たちはゲルという名前を使い続けている。


冒険者たちが使用する魔法テントとの違いは、内部空間を魔法で拡張しておらず、外から見えるのと同じ大きさの実寸であるという点だ。


ゲルの機能を拡張する際には、すぐ隣にもう一つゲルを作り、通路でつなげることもできる。


もともと設置や解体が容易な構造であるため、ゲルを移動するのも簡単であり、そのような柔軟性によってゲルの規模を拡大することも容易である。


そのため、ゲルのあるバルエルの首都は生きている都市だった。


草原はいくらでも広く、隣人がゲルを広げれば場所に執着することなく、ゲル同士が柔軟に互いの場所を譲り合いながら必要な土地を作っていく。


しかしゲルの位置が変わったことで自分の家を見つけられなくなるのではないかという心配は、鼻がよく利く獣人たちの間では冗談にすらならない。


ただし、獣人たちの住みかの中にも動かないゲルは存在する。


他種族や冒険者たちのための宿屋である。


ゲルが動くことで道に迷ってしまう他種族に配慮した空間だ。


それでも獣人たちの住みかで迷子になる場合が多く、警備隊の獣人たちが宿を探して案内することが毎日のように起こっている。


また、広大な草原には土地がいくらでもあった。


そのため、獣王国バルエルではゲルを二階建てにしないが、これは他種族にとって問題となることがあった。


食堂ですら広い平屋構造である。


もし食堂で少し外側の席にいたなら、注文をする場所と料理を受け取る場所があまりにも離れていて、互いに見えすらしなかった。


獣人たちはカラムブルに変身して長距離も容易に行き来するが、それはあくまで獣人たちにのみ当てはまることだ。


他種族にとっては無理な要求だった。


そのため、草原では小型の浮遊式魔法荷車が他種族の利便のために有効活用されている。


エノルの世界で魔法荷車は誰でも扱える非常に基本的な道具だ。


魔法荷車が獣人より遅いとはいえ、広大な草原を歩いて疲れ果てて倒れないためには必ず使用しなければならなかった。


しかも決められた目的地を往復するものなので、獣人たちの住みかで道に迷う心配もない。


そして首都バルエルの中央部には獣王国バルエルの王宮がある。


王宮の周囲には、王宮に劣らぬほど壮麗な姿のゲルが王宮を円形に取り囲むように配置されている。


それはバルエル王国の貴族たちの住みかであり、行政業務のための機関でもある。


草原の獣王国バルエルは獣人たちが暮らす場所だ。


したがって、この場所は他種族から見ると、目に見えるよりもすべてのものが遠く離れている。


この特徴により、初めてバルエルを訪れた他種族は草原での生活に慣れるまでかなりの時間を必要とした。


しかし、一度草原を味わえば決してその魅力から抜け出せなくなる場所でもある。それがまたバルエルだった。


「ベルマウル将軍は乗り物酔いでかなり苦労しているようですね。」


セルベインが心配そうに言う。


ベルマウルは夕方の晩餐会に来ることができなかった。


体に良い薬草を処方してもらい、お粥を一杯食べた後、早々にゲルの住人となった。


「草原の風に乗るには少し無理があったようです。」


まずルガルマがセルベイン一行に丁重に謝罪する。


「ご心配なく。誰もルガルマギルド長を責めてはいません。」


セルベインが笑う。


「寛大なご配慮に感謝いたします。」


ルガルマが再び丁重に言う。


「はぁ。竜騎士団ドラカン・ナバレスを率いる将軍だというのに、魔族の面目が丸つぶれです。師匠、私がこれまで甘やかしすぎて育てたのでしょうか?」


ビティアは、魔族国の恥を一人でさらしてしまった息子の再教育問題について悩む。


「確かに。ベルマウル将軍が竜騎士団の名前さえ出さなければ、一人で背負えば済んだことを騎士団全体の問題にしてしまったわね」


アイオレンがビティアを慰める。


しかし、その顔は笑っている。


「シュッ!」


ビティアはアイオレンの表情を確認しようと、アイオレンの方へ勢いよく顔を向ける。


するとアイオレンは険しいビティアの視線を避けようとして、同じ速さで顔をそらしてかわす。


ただし、そこは何もない草原だった。


「お前。」


目だけをぱちぱちと瞬かせるアイオレンの後頭部を、ビティアがにらみつける。


「ドン! 師匠、やっぱり駄目です。バルエルに正式要請して、魔族国の竜騎士団全員に獣人族の騎乗訓練を受けさせなければなりません!」


食卓を強く叩きながら席から立ち上がったビティアが周囲を見渡す。


その言葉を聞いた獣人たちは皆、ビティアの視線を避けた。


「ビティア。獣人たちが怯えているじゃありませんか。そんなことはやめて、ひとまず座りなさい」


セルベインがそれとなくビティアをなだめる。


「ビティア王女のお気持ちは理解できます。しかし獣人族は背中に他種族を乗せることを好みません。ベルマウル将軍の場合は、ただ特別なケースであるだけです。」


ルガルマが困ったような表情を浮かべる。


「ふふふ。トンッ!」


するとビティアは意味深な笑みを浮かべながら、すぐに懐からマルザルドの鱗を取り出して力強く置く。


「こうなると思って、この前会った時にちゃんと確保しておいたんです。触ってみてください。完全に新品ですよ。」


ビティアが誇らしげに言う。


「ビティア、お前。その状況で守護竜の体に付いている生きた鱗を剥ぎ取ったのか?! それも魔族を守護する灰色の古代守護竜であるマルザルド様のものを!!!」


アイオレンはあまりにも呆れて口が開く。


「ゴクッ。」


しかも、開いた口から飲み物がこぼれそうになったのを辛うじて飲み込む。


「別にいいじゃない。マルザルドは心が広いから大丈夫よ。今回が初めてでもないし。」


実際、ビティアは常習犯だった。


「感じられる気配から見ても、確かに守護竜マルザルド様のもので間違いありませんね。」


ルガルマが鱗に込められた魔力に感嘆する。


「それなら取引は成立です。」


ビティアが満足そうに笑う。


ルガルマはビティアが食卓に置いたマルジャルドの鱗を自分の絹布で包み、それを丁重に再びビティアの前へ置く。


「高貴な御方の力が込められた非常に貴重な品を見る機会をいただきました。しかし草原で獣人たちと取引するという側面から見れば、ビティア王女の今回の取引は不成立です。」


ルガルマがマルジャルドの鱗を丁重に断る。


「ルガルマギルド長は相変わらずですね。」


その様子にセルベインが笑う。


過去にあったある出来事を思い出したからである。


「ルガルマギルド長。黒き啓示を阻止するためには、必ず精霊エルフ軍団シルヴァル・エルトゥアの力が必要です。意地を張るのはやめてください。」


過去の出会いでセルベインはルガルマに迫った。


「セルベイン様がシルヴァル・エルトゥアのことまで考えながら獣人たちを案じてくださる姿と、これまでいただいたご恩をどうして返しきれるでしょうか。しかし草原とは守られるものではなく、自ら守る時にこそ意味があると私は考えております。その点について、僭越ながら申し上げます。セルベイン様のお言葉は誤っております。」


かつてのルガルマは堂々とセルベインに申し入れ、その選択が間違っていなかったことを、今繁栄している獣人族の姿からセルベインははっきりと感じることができた。


「ですが……」


ビティアは言葉を失い、ためらう。


「ビティア。今日はビティアの負けのようですね。また別の日に再挑戦しましょう。」


セルベインが笑いながらビティアの敗北を宣言する。


「コトッ!」


そしてルガルマは自分側の皿が片付けられると、横向きに長くベルマウルの剣を置く。


「そして、この剣についてです。ベルマウル将軍はこの剣についてどれほどご存じなのでしょうか?」


ルガルマの表情は非常に真剣だった。


すると、その言葉の重さを感じ取ったビティアも慌てて席に座る。


「実はほとんど知りません。エクスバークおじ様でさえ、この剣の名前を教えてくださいませんでした。」


ビティアはベルマウルに関わることなので、ルガルマの返答を待つ。


「そうですか。」


ルガルマが静かに鞘に納められた剣を撫でる。


「エクスバーク様がなぜこの剣をベルマウル将軍に与えたのかは分かりません。しかしこの剣は、根本的にベルマウル将軍とは釣り合っていません。」


ルガルマは「基本的に」という言葉ではなく、「根本的に」という言葉を用いて淡々と答える。

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