草原の竜騎士
時の痕跡よりも速く、青い風が草原を疾走している。
自信満々だったベルマウルは、いざ草原に入った途端、自然に閉じかけた目を再び開くことができない。
耳に響く激しく荒々しい風の音が、ベルマウルの心臓の鼓動とともに恐ろしく揺れ動いている。
「戦場を広く見よ。」
竜騎士団ドラカン・ナバレスは、空の上から広い視野で敵を観察する。
竜の品格に満ちた優雅な羽ばたきは、まるで空に浮かぶ空中要塞のように堂々としている。
しかし今、草原をかすめる青い風は、自然に最大限寄り添っている。
草をかすめ、木をかすめ、通り過ぎる虫をかすめながら、風はその間を自由に駆け巡る。
驚くほど近くで草原と一体となりながら前へ進んでいく。
しかし風はただ通り過ぎるだけで、一度たりとも草の一本すら踏まない。
木の枝がルガルマのたてがみにほとんど触れそうだが、正確には紙一重で触れていない。
葉先がベルマウルの肩に触れたような錯覚はあったが、実際には触れていない。
「なぜだ」
強く勇猛な青い風は、すべてを踏み潰し折り砕きながら、草原にいくらでも溢れるほど多くの痕跡を残すことができる。
しかし青い風は、何一つ乱さない。
それはルガルマだけでなく、後に続く青き狼も同じだった。
二つの青い風は、草原とともに自然に吹き抜けていく。
ルガルマのすぐ後ろを走る青き狼が、静かにベルマウルを見守っている。
周囲のすべてが速く通り過ぎていく。
「私だけか。私だけがこの流れに同化できていないのか」
ベルマウルは、自分が草原における異質な存在であることに気づき、嘆く。
そしてその考えが心を蝕むと、次第に周囲を認識できなくなり、めまいを感じていた。
「ベルマウル、しっかりしろ」
自らに言い聞かせながら、ルガルマの背から落ちかける体を必死に支える。
そうしてルガルマの背にしがみつこうとする。
だが間もなく、手足の力が抜けていく。
「意識を……」
ベルマウルは意識を集中させようとするが、すでに体は言うことを聞かなくなっていた。
その瞬間、青い風の中からベルマウルが弾き飛ばされる。
そして高速で吹き飛ばされるベルマウルを追っていた獣人が、軽々と空中で捕まえた。
ルガルマのすぐ後ろを走りながら、ベルマウルを静かに見守っていた獣人である。
青い風が歩みを止める。
「シルブラス。お前に任せる」
ルガルマが獣人に指示する。
「はい。ルガルマギルド長」
そしてルガルマは再び青い風となって消えていった。
「やれやれ。その間に吐いてしまったのか。」
ベルマウルの吐瀉物に、シルブラスは鼻をひくつかせながら小さくため息をつく。
シルブラスは草原の大木が落とす広い木陰の中にベルマウルを寝かせると、近くの川辺へ向かった。
草原を吹く風がベルマウルの髪を撫でている。
夕方が近い時刻。
野原に夕日が差し込み、暖かな風の中でゆっくりとベルマウルの意識が戻ってくる。
しばらくして意識を取り戻したベルマウルの目に、大きな木の生い茂った葉が映る。
頭を起こして周囲を見渡すと、深く広がる木陰の下に横たわる自分の体が見えた。
「何が……あっ。」
ベルマウルが何が起こったのか思い出そうとすると、一つ残らずすべてが頭の中にあった。
「なんという恥ずかしいことだ。」
ルガルマの背で気絶して落ちたことだけでも忘れたいのに、獣人の体に吐いてしまった場面まで鮮明に覚えている。
ベルマウルは改めて、自分の頭の融通の利かなさに不満を抱いた。
「あ!ベルマウル将軍。ようやくお目覚めになりましたか。」
顔を向けると、一人の獣人が水の入った竹筒を慎重にベルマウルへ差し出した。
「ありがとうございます。」
気分は優れなかったが喉の渇きがひどかったため、ベルマウルはためらうことなく竹筒を受け取り、水を一気に飲み干した。
「あの...」
竹筒を獣人に返しながら、ベルマウルは少し躊躇する。
「あ!そのことでしたら大丈夫です。私の体に吐かれたものはもう拭き取りました。青き狼に乗るのが初めてでしたら、十分あり得ることです。」
獣人はにっこりと微笑んだ。
「はあ。やはり覚えていらっしゃるのですね。」
ベルマウルは、草原中の空気がなくなってしまうほど深く大きなため息をつく。
「慰めになるかどうかは分かりませんが、ルガルマギルド長の背に乗ることは、獣王国バルエルでは大変な名誉です。たとえベルマウル将軍のお姿が見るに堪えないものであったとしても、ギルド長の背に乗ったという名誉がありますので、完全にみっともない話として広まることはないでしょう。」
獣人は語尾を曖昧に締めくくりながら、ベルマウルを慰める。
獣人はすでに友だちにこの話を伝えたい気持ちでいっぱいだ。
「はあ。ルガルマギルド長にあれほど自信満々に申し上げたのに、自分が情けないです。」
ベルマウルの激しいため息が再び大きく広く吐き出される。
「あまり落ち込まないでください。それより、お気分はいかがですか? ベルマウル将軍がお飲みになった水には、鎮静効果と乗り物酔いに効く薬草を入れてあります。」
獣人の言葉に、ベルマウルは自分の体を触ってみる。
「本当ですね。良い感じです。」
そういえば、獣人から渡された水を飲んでから、体が落ち着いたような気がする。
「それでは、また行きましょうか? 夜になる前に獣王国の首都バルエルへ到着するには、急がなければなりません。」
獣人はベルマウルが大丈夫だと分かると、満足そうにうなずく。
「それはどういう意味で,」
突然、ベルマウルは嫌な予感を覚える。
「カラムブル。」
獣人はすでに呪文とともに巨大な青き狼へと変身していた。
しかし青き狼を見た瞬間、ベルマウルの脳裏にトラウマがよみがえり、吐き気が押し寄せてくる。
「大丈夫です。私はルガルマギルド長のように、あれほど見事に走ることはできません。ですからご安心ください。」
青き狼がベルマウルを安心させる。
「そうですか。よろしくお願いいたします。」
しかし、選択の余地はなかった。
ベルマウルは獣王国での最初の夜を、セルベイン一行と離れて草原で一人過ごしたくはなかった。
そのため、硬くこわばった両脚を両腕で持ち上げ、どうにか青き狼の背中へ乗り込む。
「自己紹介が遅れました。私はシルブラスと申します。」
ベルマウルが自分の背に乗ると、シルブラスが先に自己紹介をする。
「はい。ベルマウルです。助けてくださってありがとうございます。」
ベルマウルはシルブラスの背の上で少し緊張しながら答える。
「あっ。一つ忘れていました。私も青き狼のハウリング部隊所属です。ギルド長ほどではありませんが、私も一応は青い風なのですよ。」
そしてその言葉とともに、シルブラスの周囲で気の揺らぎが始まる。
「はい!? それはどういう意味ですか。うっ。うわあっ!」
ベルマウルの悲鳴とともに、シルブラスが疾風のように飛び出す。
青い風は、痕跡としてベルマウルの声だけを残し、すでにそこにはいなかった。
ベルマウルの耳にシルブラスの言葉が聞こえたのと同時に、再びベルマウルの体は魂ごと前方へ引っ張られるようにして飛び出していた。




