ベルマウルの剣
「エクスバーク様、ありがとうございます。大切に使わせていただきます。」
ベルマウルはエクスバークに頭を下げ、心から感謝した。
「そうか。だが剣の名は自分で考えてみるがいい。」
エクスバークはいたずらっぽい表情で言った。
「え? ですが考えたところで、剣の名前を私がどうやって知るのですか。いつものように教えてはいただけませんか?」
「さあな。それはできんな。」
エクスバークの反応は気乗りしないものだった。
「ですが、ルーンフォージの際にまず剣の名前が覚醒し、その名に込められた記憶が徐々に剣の姿を形作っていくと聞いています。つまり剣の姿として発現した時点で、その剣にはすでに固有の名前があるということでしょう。それにもかかわらず、わざわざ隠し絵探しのようなことをしなければならない理由を教えてください。」
なんとなく面倒なことになりそうだったので、ベルマウルはできる限り丁寧にエクスバークの気持ちを変えようとした。
「ビティはよく教育したようだな。言っていることは正しい。だが、それでもそれはお前の役目だ。」
エクスバークはベルマウルの地味な誘惑を退けた。
「ははは。それなら仕方ありません。」
ベルマウルは照れくさそうに笑いながらビティアを見た。
「おじ様は意地悪すぎます。」
すると、ひとまずビティアがベルマウルの肩を持った。
だが、エクスバークの眼差しに何らかの意図があることに気づいていたのも事実だった。
「私が何をした? この程度ならただでやっているようなものだ。私が全部やったら、ベルマウルは何で食べていくんだ?」
エクスバークは余裕を失わない。
ルーンフォージマスターではない普通の職人が作った魔法剣は、通常、その所有者が剣に名前を与えるようになっていた。
しかし、エクスバークのようなルーンフォージマスターが製作した魔法剣は、魔力を集中させる過程で剣が自ら意志を持ち、自我が生まれる現象が発生する。そして、その自我の記憶あるいは思い出が、まるで魂のように剣に宿るのだ。
「焦る必要はない。どうせ剣自身が判断してくれる。」
エクスバークはのんびりとしていた。
「はい。これが最後の試練というわけですね。頑張ってみます。」
ベルマウルはそう言いながら静かに剣を鞘に収め、自分の座っている椅子の右側に立てかけた。
「それでも剣が拒まないということは半分は合格だ。でなければ抜いた瞬間に剣の殺気を感じていただろう。」
エクスバークはベルマウルを励ました。
「エクスバーク様の魔法剣はみんな剣の記憶を持っているんですよね。じゃあビティアの剣にもすでに名前があるの。」
アイオレンはビティアが帯びている剣に興味を示した。
「もちろんだよ。私たちの出会いは運命だったの。手にした瞬間、その名前がすぐに分かったんだから。」
自慢するようにビティアの顎が上がった。
「そういう点で言えば、私は何と言いますか。なんだか剣がすねているような感じでした。」
ベルマウルは手に伝わってきた感覚を思い出しながら、しょんぼりした。
「お前、剣破将だろ。いつ壊されるか分からないのに、剣の機嫌がいいわけないじゃないか。」
「えっ!? 剣はそんなことまで覚えているんですか!?」
エクスバークの言葉にベルマウルは慌てた。
「当然だ。この業界は噂が広まるのが早い。」
エクスバークは状況を楽しんでいる。
「でも、おじ様が作った剣がそんな簡単に壊れるはずがないです。」
今度はビティアがエクスバークに尋ねた。
「まあ、ビティの言う通りだ。ベルマウルの剣はベルマウルより長生きするだろう。それは私の名にかけて自信を持って言える。」
エクスバークは得意げに笑った。
「エクスバーク様には何かお考えがあるのですね。」
変わらぬ余裕を見せるエクスバークをずっと見ていたセルベインが、察しよく聞く。
「さすがはセルベイン様です。だが今回は私に任せてくださいませんか?」
「ええ、もちろんです。」
エクスバークの要請に、セルベインは笑いながらうなずいた。
「それでもセルベイン様も気づいてしまった状況だ。だからヒントを出す。ベルマウルの剣の名前は“ミ”で始まる。」
そしてセルベインの介入をなだめるかのように、エクスバークは名前の最初の文字を教えた。
「“ミ”で始まるのですね。それでもあまりにも手掛かりがありません。」
アイオレンは頭の中でエルフの壮大な知識の巻物を広げ、“ミ”で始まる単語を集めてみたが、すぐに無理と言う表情をする。
「剣の持ち主でしょう。何か思い浮かぶのはない。」
ビティアがベルマウルを見た。
「ミ。」
ビティアの言葉に、ベルマウルが再びその言葉とともに再び剣を手に取り、目に血管を浮かべながら“ミ”を剣に込める。
だが剣は無反応だ。
「師匠はきっとご存じのはずです。」
ビティアは確信に満ちた表情でセルベインに尋ねた。
「何を受け取るかによるでしょう。古いことわざにも、交わされる言葉の中に友情が芽生えるというものがあります。」
セルベインはエクスバークの真似をしながら、のんびりと自分の前に置かれたティーカップを持ち上げ、口元を隠した。
だが、笑いをこらえきれず口角が上がっているのを慌てて隠しただけなので、あまりにも分かりやすい行動になっていた。
分かっていながら知らないふりをしているのがあまりにも見え見えだ。
「師匠!」
そこでビティアとアイオレンが同時に恨めしそうな気持ちを込めて叫んだ。
「セルベイン様、絶対に教えてはいけません。みんな、もうそこまでだ。これ以上ヒントはない。」
駄々をこねる可愛い弟子たちに、セルベインの厳しい心が弱くなりかねないので、エクスバークは急いで場を収めようとした。
「おじ様、それはひどくないですか? 剣の名前も分からないのに、魔法剣でどうやって魔法を発動するんですか?」
ビティアが抗議した。
「剣の名前も知らないのに、何の度胸で魔法を発動するというんだ。まずは剣に認められることが先だ。何事にも順序というものがある。」
エクスバークは、それは駄目だという表情をした。
「いくらなんでも、魔法剣を渡しておいて使い方も教えないなんて、剣を使えと言って渡したんですか、それとも使うなと言って渡したんですか?」
「もちろん使えと言って渡したんだ。」
「……」
エクスバークの短い即答に、言いたいことは山ほどあったが、ビティアの言葉は口の中をぐるぐる回るだけだった。
「ベルマウル将軍が準備できた時、剣は必ず応えるはずです。剣に関する疑問も自然と分かるようになるでしょう。さて、少し別の話をしましょうか。エクスバーク様と相談した結果、現在魔王は露骨に動いています。そしてロデンミルで勝利したとはいえ、それは魔王の計画を少し遅らせたに過ぎません。ですので、おそらく魔王の次の目標は獣人族国家、獣王国バルエルになるでしょう。」
セルベインは自然に話題を変えた。
「ベルマウルもこの機会にバルエルへ行って学んでこい。」
エクスバークが計画の中にベルマウルを組み込んだ。
「ベルマウルだけですか?」
突然の提案に、ビティアが驚いて席から立ち上がる。
「ビティ。ドワーフの話は最後まで聞くものだ。私を除いて、ここにいる全員がセルベイン様と一緒に行くんだ。私も今回、ロデンミル議会国の冒険者ギルドのギルド長になったからな。私の推薦状を持って行けば、バルエルのギルドまで行く名目になるだろう。冒険者として活動する身分もすでに用意してある。」
「ああ、そういうことだった。」
憤慨していたビティアは、エクスバークの話を最後まで聞くと、気まずそうな表情で再び席に座った。
「魔族国の親馬鹿王ナルジェオスを説得する事が残ってはいるが、それはビティがうまく片付けてくれ。」
エクスバークはある人物を思い浮かべながら、とても自分には無理だというように手を振った。
「おじ様、それは心配しないでください!ベルマウルとの冒険旅行は一度もしたことがなかったので、とても嬉しいです。」
ビティアはベルマウルと共にする思い出が増えることに喜んだ。
「ロデンミルの冒険者ギルド、公式指名依頼なのですから、報酬は当然支払われるのでしょうし、バルエルまでの費用もすべてロデンミル冒険者ギルドが支援するものと考えてよろしいですよね?」
アイオレンは目を輝かせながら、費用の問題を再確認した。
「ちっ! さすがセルベイン様の弟子というべきか、決して油断できないな。今のロデンミルの事情を知っていながら、まだそんなことが言えるのか?」
エクスバークは小さく舌打ちする。
「それとこれとは別です。」
ビティアもアイオレンに加勢する。
「仕方ないな。ほどほどに使うんだぞ。」
渋々ながらエクスバークは、ロデンミル冒険者ギルドの魔法紋章が刻まれた名札をアイオレンに渡す。
「それからベルマウルは、この機会にバルエルの冒険者ギルドのギルド長、ルガルマから剣術訓練を受けるように。手続きはすでに終わらせてある。なかなか新鮮な経験になるはずだ。」
エクスバークはベルマウルを見ながら、これからやることを伝えた。




