空の上の戦場
魔王の槍であるベルカザードが黒い波動を広げながら、ますます力を増している。
まもなくベルカザードは、近づいてくる相手へ向けて槍先を向けた。
マルザルドを先頭とするナバレス竜騎士団が突撃陣形を形成し、ベルカザードへと接近していた。
ビティアがベルカザードの槍先部分に視線を固定する。
ベルマウルと守護竜ノクティルがマルザルドのすぐ右後方で待機していた。
竜騎士たちは互いの間隔をさらに狭めながら、突撃陣形から次第に紡錘陣形へとその形を変えていく。
ビティアがベルマウルの方を振り向き、頷く。
「ナバレス竜騎士団!攻撃開始!」
ベルマウルが竜騎士団に全面攻撃を指示する。
竜騎士団の槍先で魔力が圧縮され、集中した魔力エネルギーはやがて槍先から魔力弾となって発射される。
発射された魔力弾はベルカザードを守る飛行型ガーディアンに命中し、攻撃に耐えきれなかったガーディアンたちは爆発して撃墜された。
だが、ベルカザードを構成する塔からは、撃墜されたガーディアンよりもさらに多くの数のガーディアンがあふれ出し、隙間なくベルカザードへの道を即座に遮断する。
今度は暴走したガーディアンだけでなく、翼を持つ黒き啓示たちもいる。
「ナバレス竜騎士団!前進せよ!攻勢を止めるな。」
「グオオオ!」
ビティアの攻撃命令に、守護竜たちは口を開いてドラゴンブレスを放った。
守護竜たちの咆哮とともにドラゴンブレスが敵へ向かって飛び、竜騎士団も連続して魔力弾を相手へ放ちながら、ベルカザードを中心に広範囲の魔力弾砲撃を加える。
紡錘形陣形から前方へ向けて発射された魔力弾は、正面に布陣した黒き啓示とガーディアンたちへ降り注ぎ、魔力弾を受けた黒き啓示とガーディアンたちは次々と地上へ真っ逆さまに落下していく。
しかしベルカザードは黒き啓示とガーディアンたちを絶えず補充し、物量で持ちこたえながら道を譲らない。
竜騎士団の強力な砲撃によって崩壊した部分も、ベルカザードは即座に修復し、隙を作らなかった。
「第5塔のエレブラン節石までの距離。まだです。」
拮抗した綱引きは、一歩たりとも引かないまま続いている。
「マルザルド。」
ビティアがマルザルドを呼ぶ。
マルザルドが巨大な翼を左右に広げ、ドラゴンブレスを吐く。
「グオオオ!」
マルザルドの黄獄ブレスが第5塔の先端部を狙って放たれた。
だが魔王は、黒き啓示とガーディアンたちを盾として黄獄ブレスの射線上へ押し込む。
「ドカン!ドカン!ドカン!ドカン!」
激しい音とともに、黒き啓示とガーディアンたちは黄獄ブレスに直撃し、少しも耐えられずその場で爆発して消滅する。
しかし魔王はためらうことなく、なおも黒き啓示とガーディアンを押し出し続けた。
続いて、消耗した数を上回る黒き啓示とガーディアンたちが、ベルカザードを構成する塔からあふれ出してくる。
古代竜であるマルザルドの黄獄ブレスに当たって灰となれば、魂までもが焼かれ、もはやベルカザードのもとへ戻ることはできない。
だが黒き啓示たちは、それを知っていながらも、自ら一切のためらいなく黄獄ブレスへ向かって身を投じた。
空中で黒き啓示とガーディアンが燃え砕け、その炎の残骸が四方へ飛び散る。
そしてその意志によって、黄獄ブレスの力を少しずつ削っていく。
それでもマルザルドの黄獄ブレスそのものを防ぐことはできず、たとえ最初より弱まっていたとしても、黄獄ブレスのその恐るべき威力は依然として第5塔の節石を狙って飛んでいく。
「ドォン!」
マルザルドの恐るべき黄獄ブレスが第5塔の後部を直撃し、巨大な爆発が発生した。
ただし魔王が黒き啓示とガーディアンたちを犠牲の盾として前面に立てたことで、黄獄ブレスの軌道はわずかに逸れ、その結果、第5塔のエレブラン節石を破壊することはできなかった。
第5塔の破壊された外壁の下から、エレブラン節石の姿が見える。
ベルカザードから噴き出した黒き啓示とガーディアンたちはベルカザード正面へ出てきて、防衛線をさらに厚く形成する。
その時、ビティアが持っている水晶板が点滅する。
「座標固定。三角測量完了。接続待機中。」
水晶板から案内音が聞こえる。
「準備してください。」
しばらくしてセルベインの声も聞こえてくる。
ロデンミル外人国管制所。全員が避難したその場所に、セルベインだけが一人残っている。
セルベインは魔王がベルカザードに集中している隙に、魔王に気付かれないようベレクトゥル攻城兵器へ黒い波動を注入していた。
そしてベレクトゥル攻城兵器の再起動に成功する。
もともとロデンミルの八塔の魔力を利用する兵器だ。
今はその力が魔王の黒い波動となっているが、魔力源が変わったとしても攻城兵器としての役割は十分に果たすことができた。
「エネルギー充填完了。発射待機中。」
水晶板にベレクトゥルの発射最終段階が表示される。
「座標を送信します。」
ビティアはベルカザードの空間座標をセルベインへ送信する。
しばらくして、ロデンミル外人国からベレクトゥルが発射された。
「ドォン!」
だが、黒い波動によって圧縮された力があまりにも強すぎたため、ベレクトゥルは発射の衝撃で完全に破壊される。
幸い、すでに発射された黒い光線は外人国の空を横切りながらベルカザードへ向かって飛んでいく。
ルクナスの結界門が黒い光線を阻もうとしたが、圧縮された黒い光線を防ぐことはできなかった。
黒い光線はそのままルクナスを貫き、目標である第5塔のエレブラン節石へ向かって空を切り裂きながら一直線に突き進む。
すると魔王は黒い光線を避けようと、急いでベルカザードを回転させた。
「バチッ!」
急旋回によってベルカザードの物理的構造体が損傷する。
しかし、そのおかげで黒い光線はエレブラン節石に命中せず逸れてしまう。
魔王アスペルハイムは二発の強力な攻撃を防ぎ切り、顔に笑みを浮かべた。
そしてセルベインとビティアの顔にもまた笑みが広がる。
魔王が気付いた時よりもわずかに早く、その瞬間ベルマウルがノクティルとともに第5塔後部に姿を現した。
魔王は慌てて黒き啓示とガーディアンたちに指示を出したが、ベルマウルの行動の方がわずかに速い。
ベルマウルはエレブラン節石のすぐ手前まで接近する。
ビティアが用意した二度の攻撃は、当たればよし、当たらなくても大きな問題はなかった。
実際には、ベルマウルが塔へ接近できるように魔王の注意をこちらへ引き付けておくことの方が大きな目的だった。
遅ればせながら魔王アスペルハイムは気付いたが、すでに時は遅かった。
ベルマウルは自らの剣を高く掲げた後、魔法の呪文を唱える。
「エルセリオン!」
するとベルマウルの剣から光が噴き出した。
ベルマウルが間を置かず剣を上から下へ振り下ろすと、光の波がエレブラン節石をそのまま真っ二つに切り裂く。
やがて二つに分かれたエレブラン節石は暗くなり、機能を失った。
「任務完了。」
そう言うと、それ以上留まることなくベルマウルはすぐにノクティルとともにその場を離脱する。
第5塔のエレブラン節石が機能を失っても、すでに第6塔は第5塔と結合するため移動中だった。
魔王は第6塔を止めようとしたが、巨大な質量を持つ物体が移動中に突然停止することは不可能だった。
そのため第6塔は減速できず、そのまま第5塔の後部に衝突する。
「ドォン!」
衝撃音が空に大きく響き渡る。
巨大な物体同士が空中で激突し、まるで空が裂けるかのような不気味な音を立てた。
二つの塔の連結構造体が破壊されると同時に、ベルカザードの五つの塔の連結構造体にも過負荷がかかり、結合できなかった第6塔がそのまま後方からベルカザードを押し続ける。
さらに、その後ろを追っていた第7塔と第8塔も後方から連続して衝突する。
ついに衝突の連鎖反応は槍の前方部分にも影響を及ぼし、その結合が解け始めた。
こうしてベルカザードの物理構造が破壊されると、ベルカザードはもはや構造体を維持できなくなり、すべてが分離して崩壊し始めた。
制御を失った八つの塔は空中に浮かんでいられず、ゆっくりと落下する。
塔の内部に蓄積された黒い波動が塔の上下から噴き出した。
だが皮肉なことに、その黒い波動が塔から押し出されることで周囲の空気も一緒に押しのけ、塔の落下速度を下げる効果を生んでいた。
そのため塔々の落下速度は非常に遅かった。
つい先ほどまで天空の威容を誇っていたベルカザードの残骸が地上へ降り立つ。
「ドォン!」
そっと地面へ落ちたとはいえ、巨大な構造物である。
市民たちは避難していたものの、塔が地面に接触した時には大地が揺れ、その下敷きになった都市は跡形もなく完全に粉砕された。
「ドォン!ガガァン!」
なおも塔では連鎖的に内部爆発が発生しており、その爆発音はまるで魔王アスペルハイムの怒りを示しているかのようだった。
ベルカザードの機能が停止すると、ベルカザードの黒い波動によって維持されていた結界の門ルクナスもまた消滅した。
魔王アスペルハイムの封印石。
ロデンミルとのすべての魔力接続が、たった今完全に断たれる。
魔王アスペルハイムは静かにその場から立ち上がった。
魔王が自らの手を広げる。
その手のひらの上には小さな光の欠片が載っている。
エルセリオンの光の欠片である。
敗北の色が濃くなり、ベルカザードを失う状況となると、魔王は最後の力でベルマウルのエルセリオンが発動した時、その光の欠片を一つ選び取った。
魔王アスペルハイムの黒い瞳がその光を見つめている。
二度も計画を台無しにした、その光の一欠片である。
「何が問題だった。」
魔王は手を上げ、黒い波動を光へと染み込ませた。
わずかな拒絶反応はあったが、光はこれを受け入れる。
そしてさらに明るく輝く。さらに強くなる。
アスペルハイムは表情を変えることなく、黒い波動を光の欠片へと注ぎ込み続ける。
無表情であるがゆえに、かえって八つ当たりをしているようにも見え、アスペルハイムの行動はより残酷に感じられた。
こうして魔王は光に黒い波動を注ぎ込みながら、何かを待っている。
光の欠片は非常に明るく輝いたが、やがて黒い波動をこれ以上吸収できなくなる時が来ると、きらめきながら光が引き裂かれ、闇に飲み込まれた。
その瞬間、魔王の瞳がごくわずかに揺れた。
「ふむ。」
魔王の表情が真剣になる。
「確かに何かあった。」
そして顔を上げ、闇の向こうへ視線を向ける。
魔王は古い記憶の中から一つのパズルを探している。
「そうか。地球人の科学者。カルセオン、お前か。」
思い浮かんだ名前を口にする。
魔王はゆっくりとその名を繰り返しながら記憶を辿った。
「そしてエルセリオンは、お前の作品だというわけか。」
魔王の言葉に、周囲の闇が揺らめく。
そして再び魔王の静かな微笑み。
「よい。これでお前たちだと分かった。三度目はない。」
魔王の目が新たな戦場へと向けられる。




