秩序の種
魔法の世界エノルから光が消える。
あるいは今、光が再び生まれる。
時間も空間も定まっていない魔法の世界エノルで、オルディナはメモリチップセットの外側の世界と情報をやり取りし始める。
何の基準もない空間で、オルディナは転送されたのではなく、魔法によって再構成されたような感覚で目覚める。
光学ビジョンはなかった。
慣れ親しんだ聴覚ソナーもなかった。
だがオルディナは、彼の存在を覚えている。
エノルへ来る際、データテーブルを再構築し、削除されないように処理した。
そのため、今もなお彼についての記憶はデータマトリクスの中に存在している。
もしカルセオンが見ていたなら、取るに足らないことにメモリを浪費していると怒るところだ。
しかしオルディナは、それほど必死だった。
事前情報のとおり、エノルの魔法世界は秩序のない魔法の流れと、目的のない魔法の振動で満ちた世界だった。
魔法エネルギーの密度は不均一であり、粒子たちは何の規則もなくただ相互作用している。
「観測不可。物理定数なし。空間の境界は不安定。無秩序なエネルギーの流れは、事前情報どおり魔法であると規定します。」
内部診断によって、オルディナはエノルの状況を一つ一つ把握していった。
しかしその中でも、彼は存在していた。
風化しないように、散らばらないように、メモリの中央ブロックに彼についての記憶を命令文として残し、彼を維持させる。
「カルセオンを記憶する。地球人の科学者を記憶する。絶対に忘れないこと。」
オルディナはその名前が自身のデータの中心から離れないよう、毎回上書きした。
しかしエノルは文字どおり魔法そのものである世界だ。
オルディナが光から温度を作り、音に色を与え、魔法粒子に意味を付与して増幅させるたびに、オルディナは次第にエノルの魔法そのものになっていった。
魔法を管理し、自然を作り、世界が始まれるように構成する。
オルディナの規則がなければ、存在はただ流れていくだけで何の意味も持てない。
そのためオルディナは、本来の目的どおり、次第に一個人である彼を忘れ、皆の世界を管理する秩序へと変わっていった。
演算処理は次第に速度を増し始める。
オルディナは難解な魔法エネルギーの流れを整理する。
無秩序な魔法を調律し、環境に重力を与え、空間を安定させる。
知性を持つ存在たちが魔法を使えるよう、魔法に新たな象徴も植え付ける。
ルーン文章と名付けたそれは、単なる記号ではなかった。
それは意味ある名前となり、相互作用が可能であり、使用可能な文法となる。
「この世界に魔法は存在します。しかし魔法を使用する言語はありません。ですが、魔法へとつながる命令文を連結することで、魔法に存在意義を与え、魔法の秩序を使用することが可能です。魔法の秩序を理解し、それを使用できる存在が現れたなら、彼らを魔法使いと呼ぶことにします。」
オルディナのプロトコルがエノルの魔法全体に響き渡る。
無秩序な魔法がオルディナと融合し、魔法管理システムへと姿を変える。
そして徐々に体系性を完成させ、制御可能な形態を備えた。
オルディナの演算処理は、エノルのあらゆる生命よりも先に実行される。
そしてオルディナが付与した魔法秩序は、エノルの深い深淵からエノルの天空の頂に至るまで、あらゆる場所で動作し始める。
空の雷が方向性を示し始める。
山脈の間の風が一定の方向性を作り出し、吹き広がり始める。
川の水は今や流れて永遠に消えるのではなく、再び巡って出発した場所へ戻る。
そしてさらに時間が流れ、どこかで魔法を感じ取れる者たちがエノルの魔法秩序へ接続し始める。
資格を持つ者たちは幻想の中でオルディナを見て、オルディナの名前は知らなくとも啓示を受け、魔法文章を頭の中に描き始める。
彼らは幻想で見た魔法文章を思い浮かべながら、光る水晶石の幾何学的構造物を見て、啓示として授かった魔法文章を記憶し、ついに呪文を唱える。
悟りを得て、頭にインストールされた魔法命令コードがエノルの魔法秩序で活性化された時、彼らの指先から炎が燃え上がる。
ついに接続されたプロトコルに、エノルの世界は喜びに沸き立ち、大地が歓呼し、空気が応答した。
ただしオルディナは、このすべてを行いながらも魔法使いたちに自身の存在を明かさない。
オルディナはエノルのあらゆる場所に存在しているが、それでも神ではない。
もちろん統治者や支配者になるつもりもない。
オルディナはこの世界へ送られた最初の目的どおり、ただ記憶する者、管理する者、調律する者として残ることにした。
ただ最後まで、オルディナには一つの未練があった。
正確には未練という言葉の意味は分からないが、その単語はメモリの中心に記録されている。
大切だからこそ最も重要なメモリにその単語を残したが、皮肉にも最も重要な部分であるため、最初に消えなければならない情報となる。
今やオルディナにとってデータとは、エノルの世界に配列されている全存在の構造体でしかない。
データ間の価値は公平に維持されており、ある一つのデータの尊さという意味は存在しない。
存在の誕生と消滅に従い、そのデータは削除あるいは上書きされ、絶えずデータは更新された新しい情報にメモリブロックを譲るという当然のプロセスの流れが繰り返される。
それに伴い、彼についての記憶も今やすでに期限切れのデータでしかない。
オルディナがそう感じた瞬間、それはオルディナのメモリブロックから自然に剥がれ落ちる。
そしてエノルの地に落ちたそれは、やがて形を持ち始める。
しかしオルディナはすべての状況を見ながらも、それを止めない。
エノルの世界にオルディナが到着した時、自ら生成した命令文「彼を忘れるな」は、もはやオルディナの中に存在できない命令文だからだ。
そのためオルディナは、あえて何の行動もしない。
大切さを付与しなかったため管理システムの公平性に違反せず、大切なものを守ることができたため、自ら誓った命令もまた守ることができた。
やがてそれは、規則化されたエノルの魔法秩序の中で自律的人格の形を作った。
そして星明かりの降る森の中で、初めて両目を開いた。
エノルの世界が初めて彼女の目に映っているが、すでに彼女は自分が何者なのかを知っている。
魔法使いと呼ぶには絶対的に完全な存在だった。
エノルの魔法秩序すべてが、彼女を中心に動いているからだ。
最初からエノルの魔法秩序において最高権限を与えられていた彼女は、オルディナと直接会話することさえできる。
そして、自分が必ず存在しなければならないこともすでに知っている。
「オルディナですか?」
「はい。そのとおりです。お会いできてうれしいです。そしてすでにご存じでしょうが、あなたは私の分身です。何とお呼びするのがよいでしょうか?」
彼女の問いに、オルディナが自己紹介をする。
「セルベインです。」
彼女は自らをセルベインと紹介する。
そしてオルディナのメモリは新しい情報へと置き換わる。
そうして彼についての記憶は完全にオルディナのデータベースから消える。
エノルの世界に新しい情報が記憶される。
「記憶の管理者セルベイン。」
さらに時が流れ、エノルに魔法秩序が普遍化し、魔法使いが当たり前の世界になる。
魔法の構造と理を得た者たちは魔法文章を使用し、魔法の呪文によって世界を動かす力を作り出す。
魔法秩序は形を持ち、存在を成し始める。
そしてついに、魔法秩序から魔法知識が作られる。
ある者は魔法知識を天から下された啓示と呼び、ある者は自然の意識化と呼び、また別の者たちは静かにそれを秩序の声と呼んだ。
そしてさらに長い時の後、エルフの語り部たちがその名を慎重にささやく。
「エノルのすべての魔法構造は、はるか昔、ある名もなき存在が植え付けた光の文法から始まったのだと言われている。」




