灰の門を越えて
人類はもはや空を気にしない。
星々はすべて征服し、惑星たちは開拓し、重力さえも支配の対象となった時代だ。
太陽系全体を人類が作った超高度ネットワークで接続し、さらには次元の向こうの別世界とさえ手を取り合ってから久しい。
「私たちは今や存在するすべての世界と対話することができる。」
喜びと歓喜に満ちた歓声が全宇宙に響いたこともあった。
しかし今では、もはや誰も胸を躍らせない。
次元の門が開かれるたびに、人類は新しい友を得て、見知らぬ文明を観察し、ときには教えながら拡張していった。
都市は海の中に、惑星の表面に、空の上に、宇宙のどこにでも作ることができ、結晶のように精密なドローンたちが生命を監視する。
生物学的寿命は誰も気にせず、子供たちは現実と仮想を区別する必要さえなく、肉体の殻を克服した存在として成長する。
生物の死が病院ではなくデータベースサーバーで語られる時代、デジタルコートを身にまとった世界は、それほどまでに美しかった。
あまりにも完璧で、時には神さえもこのユートピアを嫉妬するのではないか、そんな優越感に満たされることもある。
恐ろしいほど強い自信を誇示する時代。
そして、その恐怖が現実になった。
最初は静かだった。
一つの次元ゲートで通信が途絶える。
警告音もなく、警報も鳴らないまま、一つの門が丸ごと閉じられる。
二番目のゲートで光が炸裂する。
超光速で交流する次元の接続線が武器へと変わって戻ってくる。
しかし、それを知る前に、すでにそこには何も存在していない。
数百個のゲートが同時に開放され、次の瞬間に明滅し、そして消滅する。
人間が作った次元位相変位技術は、いかなる悲鳴も残せないように、すべてを消滅へと変えた。
長距離光学望遠鏡で見た最初の被害映像の中で、海王星表面都市が海王星と共に消える。
その直後、土星リングの恒星都市が消えた。
人類はそうして、自らが作った技術によって一つまた一つと消されていた。
あるものは強欲のためであり、あるものは裏切りのためであり、あるものはただ生まれ持った本能のためだった。
輝かしい人類の文明は虚無の空間へと変わっていき、次元はもはや互いを繋ぐ門ではなく、互いを斬る刃となる。
文明は一つまた一つと灰色に燃え尽きていく。
地球第6次元制御基地、レオネクス研究所。
徐々に消えていく計器盤の灯りの中で、科学者カルセオンは静かにモニターを見ている。
そして、その傍にはホログラムが空中に浮かんでいる。
科学者カルセオンのパートナーである超知性体人工知能、オルディナだ。
「宇宙破壊率98.4%です。現在、太陽系に残っている基地はレオネクスと金星衛星基地のわずか二か所のみです。」
オルディナがカルセオンを見ながら観測結果を語る。
研究所の床が揺れ、警報音が研究所全体へ広がる。
「エネルギーコアの安定性が低下しています。残存時間214秒です。」
次元崩壊により、メイン電力はすでに消失している。
かろうじて稼働中の補助電力も出力が十分ではない。
カルセオンは手を伸ばし、空中に浮かび上がった制御コンソールで研究所最後の次元ゲートの作動を確認する。
しかしカルセオンの予想どおり、次元ゲートを作動させるための電力が不足している。
そのため、別の世界へと続く光はかすかだ。
そちらの世界にはまだ生命は存在せず、無秩序な魔法エネルギーだけが流れている。
そのためカルセオンは、あえてこの世界を選ぶ。
なぜなら、まだ汚染されていないことが、すなわち可能性を意味していたからだった。
「カルセオン。この場所はどのような世界なのですか?」
オルディナが静かに尋ねる。
「エネルギーの流れは前例のない混沌。だが、それゆえに構造化の可能性が存在する。変数は多いが、生存率は41.3%。」
カルセオンが淡々と言う。
「名前はあるのですか?」
オルディナが尋ねる。
「私が付けた。エノルと。」
カルセオンは次元ゲートから続く光の流れを見ながら答える。
「あなたも一緒に行くのですか?」
静かな質問、そして感情のないプログラムの声だ。
しかし、その中には何か微かな波がある。
カルセオンは少なくともそう信じたい。
カルセオンが微笑む。
「いや。ただ一つだけしか送ることができない。」
その瞬間、オルディナのホログラムが消える。
そしてオルディナの論理コアが研究所システムを占有し、自分自身をメインサーバーへ移そうとする。
「私が残ります。カルセオン、あなたが行ってください。」
しかしカルセオンはオルディナのメモリチップセットを取り外した。
透明な水晶石の中で光粒子たちが美しく動いている。
メモリチップセットは静かに振動する。
『オルディナの抵抗か、それとも抗議か、あるいはその両方だろうか。』
カルセオンは震える自分の手を見ながら意味を与えてみる。
再びオルディナは研究所のスピーカーシステムを通じて話を続けた。
「カルセオン。権限が制限されました。命令の復帰を要請します。」
しかしカルセオンはゆっくり歩いて行き、ゲートの前に立つ。
基地は丸ごと崩壊しつつあり、研究所の防火壁の扉は最後の息を吐きながらあえいでいる。
「エノルには、オルディナ。君が必要だ。」
カルセオンの声は穏やかだ。
周囲のすべてが消え去っていく。
しかし消え去るということへの理解はあっても、今や人類は生物学的な死を理解していない。
すべてを知っている科学者カルセオンでさえ、死だけは言葉以上の価値として感じたことがない。
だが今、古い生物学的本能に目覚めつつある。
そして、その時が来ていることを直感している。
だが、恐ろしいとかそういう感覚ではない。
ただ科学者として、また別の好奇心が生まれている。
カルセオンは心の片隅に残った好奇心を感じる。
そして、それが未練という感情なのだとすれば、それもまた正しいと思ってみる。
カルセオンは、ほんのしばらくではあるが考える時間があることに微笑む。
決意に満ちたカルセオンの目が再び現実を見る。
「エノルの魔法世界には、まだ秩序がない。」
「君だけが、それを整理できるはずだ。」
カルセオンの右手が、オルディナが入ったメモリチップセットを優しく次元ゲートの中へ押し込む。
「一緒に行けなくてすまない。」
「だが、今私たちが失いつつあるすべてのものよりも、君が作る未来の方がはるかに価値があり、大切なものになるはずだ。」
ゲートが反応し、最後の力を振り絞って、オルディナが入ったメモリチップセットをエノルへ転送し始める。
しかし、その瞬間、チップセットは反発して再び跳ね返ってくる。
カルセオンは逃さず、跳ね返ってくるメモリチップセットを再び力を込めて次元ゲートのほうへ押し込む。
カルセオンの表情は終始揺るぎない。
爆発するかのように防火壁が弾き飛ばされ、周囲のあらゆるものが四方へ飛び散っている。
カルセオンの髪が激しくなびく。
「ドーン! ドーン! ドーン! ドーン!」
連続する爆発音が四方に響き渡る。
まるで、一つも逃さないという怒りに満ちた咆哮のように四方へ響いている。
ついにオルディナが入ったメモリチップセットが、次元の光の中へ完全に消える。
「無限の信頼を。」
「そして、ありがとう。」
カルセオンが言い残せなかった最後の言葉を口にする。
カルセオンが属していた世界が消滅する。
そして、何も残らない。




