五つの塔
「内人国のガーディアン管制所から多数のガーディアンが出動しました。」
ロデンミル外人国ガーディアン管制所で水晶板の信号を見た一人の職員が、所長に知らせる。
「さすがにセルベイン様のお言葉どおりだ。」
所長は感嘆している。
「はい。外人国所属のガーディアンたちにも攻撃命令と出動命令が伝達されました。」
「魔法コアの状態はどうだ?」
所長が心配そうな目で再び尋ねた。
「現在、すべての魔法コアはガーディアンから分離して別途保管中です。魔法コアは活性状態ですが、ガーディアンを動かすことはできません。」
「そうか。幸いだな。油断せず引き続き状況を確認し、念のためガーディアン保管所にも人員をさらに増やして、魔法コアが作動しないよう徹底的に監視させろ。」
「はい。承知しました。」
所長の命令を受けた職員は、急いで水晶板を操作してガーディアン保管所に連絡する。
「内人国管制所とは接続できるか?」
所長が別の職員に聞く。
「接続を試みていますが、依然としてこちらの呼び出しに応答していません。」
「それでも誰かが応答できるかもしれん。引き続き試みろ。」
所長は別の職員にも指示を出す。
「ガーディアンが暴走する可能性があることをどうしてお分かりになったのだろう。やはりセルベイン様はすごい方だ。ところで、内人国管制所でいったい何が起きたんだ。」
所長は不安そうな表情を隠せない。
「虚像の塔。その中には何もない、か。」
ビティアの表情が深刻になる。
「何か問題でもあるのですか?」
ベルマウルが尋ねる。
「この塔、最初から存在していなかったんだ。つまり、ここには最初から塔などなかったということだ。」
ビティアが状況を整理してみる。
「それで?」
「もしかすると、この塔だけでなく内人国の塔がすべて虚像かもしれない。もしそれが事実なら、そこには何らかの意図がある。それも、とても悪い意図がな。」
そしてビティアの懸念はすぐに現実となる。
「ドン!」
塔の虚像を突き抜けて、上方からビティアとベルマウルの前に何かが落ちてくる。
それは衝撃音とともに地面に着地した後、体を起こす。
「やられたな。」
目の前の存在を見て、ビティアが歯を食いしばる。
「黒い啓示です。」
ベルマウルが冷静に自身の剣を抜く。
「ミルゲイル。」
ビティアがつむじ風の魔法呪文を唱える。
しかし魔力がベルマウルのものであるため、その力はかなり弱い。
「黒い啓示を倒すには、風魔法では力が弱すぎて無理ですね。」
ベルマウルから見ても、黒い啓示を相手にするには弱すぎる呪文だ。
「いや、十分だ。ここで黒い啓示一体を相手にしている時間はない。この場を離れるぞ。」
そう言うと、ビティアは塔の外へ駆け出した。
ベルマウルも剣を納め、素早くビティアの後を追う。
「グアッ!」
つむじ風が巻き上げた土煙によって、黒い啓示は驚いた声を上げながら、しばらくの間、二人を視界から見失う。
ミルゲイルは攻撃魔法ではなかったが、ビティアとベルマウルが移動する時間を稼いでくれた。そして黒い啓示が慌てて再び二人を追って虚像の塔の外へ出てきたときには、すでにビティアとベルマウルはその場にはいなかった。
ビティアとベルマウルは間を置かず迅速に最も近い路地へ入り、黒い啓示の視界から逃れる。
「グアアアッ!」
ビティアとベルマウルを取り逃した黒い啓示は怒りを抑えきれず、大声で叫ぶ。
そしてこの大きな声は、ビティアとベルマウルを発見したことを周囲に知らせる合図でもあった。
黒い啓示の咆哮を聞きながら、ビティアとベルマウルは足を止めることなく塔から離れていく。
しかし黒い啓示はすぐに鼻をひくつかせながら、魔王アスペルハイムから与えられた能力でベルマウルの魔力の痕跡を追う。
やがて黒い啓示はベルマウルが向かった方向を特定し、高く空へ跳び上がって空中で待機中の飛行型ガーディアンの足をつかむ。
ガーディアンは黒い啓示が手で指し示した方向へ飛び始めた。
「では、塔はどこにあるのでしょうか? あの巨大な塔を隠すのは不可能だと思います。」
走りながらベルマウルがビティアに尋ねる。
「止まれ。」
ビティアはベルマウルの問いに答えようとして口を開いたが、再びベルマウルを制止し、建物の壁にぴったりと身を寄せた。
ベルマウルも素早くビティアの後ろで壁に身を寄せる。
二人のすぐ目の前を、地上型ガーディアンたちがビティアとベルマウルが身を隠した建物の脇を通り過ぎていく。
「まさか。」
ガーディアンたちの移動方向を見つめていたビティアの頭に、ある考えが閃く。
「カランディア。」
ビティアは自分の目とベルマウルの目にカランディアの魔法をかける。
そして、真実の目であるカランディアの魔法によって、隠されていた偽装が剥がされる。
「塔じゃなかった。」
ビティアは息を呑む。
ビティアが見ている光景を、ベルマウルも同じように見ている。
五つの塔は、すでにすべて空に浮かんでいた。
しかも、それぞれが一本ずつ浮いているのではなく、すでに一つの超巨大構造物として直列に連結されていた。
塔は水平方向に長く伸びた管状構造体の姿をしている。
そしてその先端では、外人国へ向けて黒い稲妻が閃き、旗のように揺らめいている。
「ベルカザード。」
ビティアも実物を見るのは初めてだが、エノルの世界であの特徴的な黒い稲妻が放たれる場所はただ一つしかない。
「あれがベルカザード。」
ベルマウルは、その黒い稲妻をまとった巨大な姿に驚きを隠せない。
「魔王の魔法槍ベルカザード。心臓の封印を引き裂く槍。そして魔王が持つもう一つの武器。」
「この前、魔王剣ネビラクは消滅させたじゃないですか?」
ビティアの言葉にベルマウルが尋ねる。
「黒い波動は消えない。ただ光に打ち勝てず、しばらく退いただけだ。」
ビティアは首を横に振る。
「だが幸いなことに、ベルカザードはまだ完全な状態ではないようだ。」
ビティアは空に浮かぶ魔王の槍を注意深く見つめる。
「なるほど。母上のお話を聞いてみると、確かに槍の柄が少し短いようですね。」
そう言われてみると、ベルマウルの目にも槍の長さが明らかに短く見えた。
「まだ外人国の塔三つを吸収できていないからだろう。」
ビティアは正確にその理由を言い当てた。
「その通りです。普通の長さを考えると、まだ完成していないのかもしれませんね。」
ベルマウルも頷く。
しかし、三つの塔が欠けている状態であっても、ベルカザードから放たれる黒い波動の魔力は凄まじかった。
「誰が作ったのでしょうか?」
ベルマウルが小声で尋ねる。
「内人国自身だ。」
ビティアは右手を上げ、人差し指を立てて小さな円を描いてみせる。
「内人国が自ら魔王の槍を作ったというのですか!?」
ベルマウルは信じられないという表情を浮かべる。
「魔王がよく使う手口だ。規則のために存在する世界が、逆に規則の超越を夢見ていたというわけさ。」
ビティアは静かに目を閉じる。
「賢者ダルガンも結局は人間なんだ。そして魔王が人族の心に宿るための時間はいつだって十分にある。人の寿命は短い。それに対して魔王アスペルハイムの時間は永遠だからな。一度や二度は誘惑を退けただろう。だが世代を重ねるうちに、人族は永遠に続く魔王の誘惑に、結局は十分に飼い慣らされてしまうしかなかったんだろう。」
ビティアは人族の限界について痛ましげに語る。
「さて、どうでしょう。ただ単にそのダルガンという賢者の心が弱かっただけではないでしょうか。人族が生きている間に受ける誘惑の時間など、どれほどのものでしょう。おそらくエルフや魔族に比べれば、その時間は本当に短いはずです。一つ事実を訂正してください。人が魔王の誘惑に負けたのは、単に根性が足りなかったからだ、と。」
ベルマウルはそう言いながら、ゆっくりと剣を抜き、自分の背後へ密かに接近していた地上型小型ガーディアンを一刀のもとに真っ二つに斬る。
ベルマウルの強烈な一撃によって、小型ガーディアンは魔法コアまでもがそのまま真っ二つになった。




