ルクナスの継承された同一性
ローデンミール外人国の通りには、まだ昼の気配が残っている。
店々は今も営業中であることを知らせる魔法灯を灯し、商店街の看板は吹いてくる風に心地よく揺れながら、行き交う客たちを誘っていた。
「こちらの商品も本当に素晴らしかったわ。」
ヴィティアが、つい先ほどまで買い物を楽しんでいた通りを手で指し示す。
ベルマウルは魂を半分ほど抜かれたような状態で頷く。
ヴィティアとベルマウルは、再び買い物をしながら商店街を回っていた。
魔族の女性が推薦した商店街には、珍しい魔法材料から希少な装身具、そして古代の化石に至るまで、ないものがなかった。
そしてヴィティアは、それらを一つ残らずすべて購入する。
例外はなかった。
ベルマウルの両腕ではもはやどうにもならないほどの包みが、ベルマウルの前に積み上がる。
再び荷物を持つことを思い、ベルマウルは自然とため息が出たが、幸い今回は違った。
「どう? 今回はずっと軽いでしょう?」
ヴィティアが笑いながら言う。
「母上。配送サービスがあるのに今まで僕をこき使っていたんですか!」
ベルマウルが不満げな声を上げる。
「ほほほ。全部あなたの体力管理のためじゃない。」
ヴィティアが笑いながら正面に向かって手を振る。
すると、二人の前に魔族の女性が使っていたのと同じ浮遊式の魔法荷車が近づいてきて止まった。
そして、購入した品物をすべて積み込む。
ヴィティアは魔法荷車の前方にある水晶板に目的地を入力した。
やがて魔法荷車は優雅にアイテルノスへ向かって移動し始めた。
「さて、本当の目的地へ行ってみようかしら?」
ヴィティアがルクナスのある方を見ながら言う。
商店街を見て回りながら歩いてきたにもかかわらず、ルクナスは近くにあった。
そしてしばらくして、ヴィティアとベルマウルは結界の門ルクナスの前に立つ。
空までそびえ立つ半透明の白い結界壁が静かに輝いている。
内人国は内人国全体をドームのようにすっぽりと包み込み、ここに唯一の出入口を作っていた。
それがヴィティアとベルマウルの前にある結界の門ルクナスである。
「バン!バン!見たでしょ?」
ヴィティアがノックするように手でルクナスを軽く叩く。
すると、金属でもガラスでもない、不思議に弾力のある音が返ってくる。
「これが純血の人族だけを通す結界の門ルクナス。魔族は当然通れないわ。」
ヴィティアは、当たり前のことだと言わんばかりの表情で肩をすくめる。
「なるほど。それで、周りに警備兵もいないんですか?」
ベルマウルが周囲を見回しながら尋ねる。
「内人国と外人国に分かれてはいるけれど、基本的にはローデンミールという一つの国家でもあるし、そういう意味で人族同士は信頼関係が前提ということよ。」
「そうなんですね。」
ヴィティアの説明に答えながら、ベルマウルはルクナスを見上げる。
ルクナス、その結界壁の向こう側はローデンミール内人国だ。
内人国は壁の向こうに、本当に手を伸ばせば届きそうなほど近くにあるにもかかわらず、意見が合わないという理由でここに壁を築き、外人国の人々を拒んでいる。
「壁を作って背を向けるほど大した問題には思えませんが、人族の行動は理解できません。」
ベルマウルが首をかしげる。
「それは内人国の人族にしか分からないでしょうね。」
ヴィティアもベルマウルと同じ表情をする。
「もういいわ。見たなら帰りましょう。今日買った物も整理しないといけないし。」
ヴィティアはすでにルクナスに背を向けている。
しかし好奇心を抑えられなかったベルマウルは、自分もそのバンバンという感触を知ろうと手を上げ、ルクナスに軽く触れる。
そしてベルマウルの予想とは違い、その手はすうっと内人国の中へ入っていった。
「え?」
ベルマウルの手が何の抵抗もなくルクナスを通過する。
「えっ……おかしいな……」
ベルマウルはきょとんとする。
「ちゃんとやってないのよ。ほら、もう一回。バンバン
ってしなきゃ。」
ヴィティアはベルマウルが何か失敗したのだと思い、急いでベルマウルの隣に来て、自らバンバンと叩いて見せる。
「そうじゃなくて。」
慌てたベルマウルは、今度はもっと強く右手でルクナスを叩こうとする。
しかし、より強い力によって、ベルマウルの腕はさらに内人国の側へと入り込んでしまった。
「嘘でしょ……」
ヴィティアもようやく異変に気づく。
ヴィティアは外人国側に残っているベルマウルの左手を両手で掴み、そのままルクナスへ押し込む。
結果は明白だった。
ヴィティアの手は弾き返され、ベルマウルの左腕はそのまま内側へ吸い込まれるように通過する。
「そんなはずが。だとしたら、ベルマウルごめん。説明は後でするわ。」
ヴィティアがベルマウルに謝ると同時に、力いっぱいベルマウルをルクナスの方へ押す。
「うわっ!」
そしてベルマウルは悲鳴とともに、そのままルクナスを通過して内人国へいる。
「母上?! 驚いたじゃないですか。」
ベルマウルが慌てて叫ぶが、すでに遅かった。
「だから先に謝ったじゃない。どこか怪我はない?」
ヴィティアは少し舌を出してウインクすると、ルクナス越しにベルマウルの無事を聞いた。
「はい。何も異常ありません。おかげさまで大丈夫そうです。」
ヴィティアの突然の行動には驚いたものの、とりあえずベルマウルは身体をあちこち見回して状態を確認する。
思いもよらない方法で、ベルマウルはローデンミール内人国の中にいた。
「ここがローデンミール内人国。」
ベルマウルが見渡す内人国は、ベルマウルの期待とは違い、その様子は外人国とそれほど変わらなかった。
そして横からヴィティアの声が聞こえる。
「思ったより悪くないでしょう?」
ヴィティアが満面の笑みを浮かべている。
「うわあっ! 母上?! ちょっと待って。どうしてここに?」
ヴィティアの姿にベルマウルは再び驚き、悲鳴を上げる。
内人国へ渡ってきたヴィティアが再びルクナスの方へ向かう。
そしてヴィティアが手でルクナスを叩く。
「バン!バン!」
立ち入りを拒む結界の門からは依然として反応音が聞こえるが、ヴィティアはルクナスを越え、すでに内人国の中にいる。
「魔族は通れないんじゃありませんか。」
「通れないわ。普通ならね。」
ベルマウルの考えは当然だとヴィティアは言う。
「あなたは私の息子。そして私の分身であり、私の一部でもあるの。たぶんルクナスは、そういう継承された同一性までは見分けられないみたいね。」
ヴィティアがなりに状況を分析する。
「つまり、僕が入った後で母上を僕の一部だと認識して、母上も通したということですか?」
ベルマウルが尋ねる。
「まあ、そんなようなものよ。ベルマウル、あなたの魔力の中に私の魔力を隠していたの。だから今の私は魔族じゃないわ。厳密に言えば、もう一人のベルマウルということになるわね。」
ヴィティアの言葉どおり、現在のヴィティアの魔力はベルマウルの魔力と同じ気配を見せている。
それは普段の赤く暗い魔力の気配ではなく、ベルマウルと同じ安定していて清らかな魔力の気配だった。
「それでも危険だったじゃないですか。」
ベルマウルが心配そうに言う。
「私はあなたの魔力の中に隠れているから危険はないけれど、その分あなたの魔力には負荷がかかっているわ。だから早く用事を済ませた方がいいわね。」
「そういうことですか。わかりました。」
ヴィティアの言葉にベルマウルは笑いながら頷く。
ベルマウルが見ている内人国の道路は整然として静かだった。
ただし、人族だけが住む内人国は、外人国に比べて通りを行き来する人の数が少なかった。
それどころか、ルクナスをあまりにも信用しているため、誰もヴィティアとベルマウルの出入りを気にしていない。
「とにかく、二人とも入ることができてよかったです。」
ベルマウルは安堵する。
「それはルクナスに聞いてみないとね。ただ一つ確かなのは、この機会は二度と来ないかもしれないということ。次もルクナスの規則が私たち二人を通してくれる保証はないのよ。」
ヴィティアがゆっくりと歩き出す。
「行きましょう、ベルマウル。入った以上、調査の始まりよ。今こそ内人国の本音を覗き見る機会だわ。」
ルクナスを通過したヴィティアとベルマウルは、ルクナスから離れながらローデンミール内人国のさらに奥へと歩いていく。
ひとまず二人は第五塔ネルマルクへ向かう。
ヴィティアとベルマウルは、ダルガンが《ダルガンの手》という呪いの魔法を作り出した禁忌の塔を、調査対象の第一優先に定める。
たとえ発覚したとしても後悔が残らないよう、まず最初に確認しておきたかったのだ。




