【山姥】
【簡単!即金!】
【一晩で十万円!】
【運ぶだけの仕事です】
スマホの画面を見ながら、エイタは笑った。
「楽勝じゃね?」
隣では友人のシュウが頷く。
二人とも高校を中退していた。
金がない。
働く気もない。
だから、こういう仕事に飛びついた。
相手から送られてきた指示は簡単だった。
【山奥の一軒家】
【一人暮らしの老婆】
【家の中にある金目の物を回収するだけ】
【住人がいても高齢者なので問題ない】
――そう書かれていた。
深夜。
エイタは軽トラックを走らせる。
ライトに群がる虫を潰して進む。
助手席のシュウが、スマホの地図アプリで指示された場所を確認する。
街灯もない山道。
木々が窓を叩く。
細道を抜けると一軒の古い家が現れた。
「あった…… マジでこんな所に住んでんのかよ」
シュウが笑う。
「さっさと始めようぜ」
エイタがエンジンを切り、袋を背負う。
二人は、目出し帽を被り、ヘッドライトを点ける。
山の中に開けた場所。
ライトに照らされる。
大きな古民家。
立派な鬼瓦。
庭には畑。
人の気配はない。
パリン。
二人は窓を割り、中へ侵入した。
生魚のような湿った獣の臭がする。
物色する二人。
徐々に違和感を覚える。
居間の机には、複数のスマホ。
仏壇には、頭頂部が開かれた頭蓋骨が並ぶ。
「なんだこれ……」
エイタは、金の仏具を袋に詰めながら、頭蓋骨を見た。
「知らねぇよ」
シュウは、古い箪笥から通帳を引き抜く。
「それより金だ」
その箪笥には、血の付いた衣類と目出し帽が入っていた。
しかし、金に目の眩んでいる二人はそれを無視する。
金目の物を漁っていると――
「誰じゃ……」
背後から声がした。
振り返る。
白髪の老婆。
腰の曲がった小さな老人だった。
「泥棒……かい?」
老婆は震えていた。
「やべ」
エイタが舌打ちする。
老婆は逃げようとした。
その瞬間。
ドン!
シュウが突き飛ばした。
老婆は壁へ激突する。
ゴキッ。
嫌な音がした。
あらぬ方向に曲がる首。
老婆は動かない。
目を見開いたまま。
息もしていない。
呆気ない最期。
「お、おい……」
エイタの顔が青ざめる。
「死んだ……?」
シュウは数秒黙り込んだ後、
「今さらだろ…… こんなところ誰も来やしない」
と吐き捨てた。
二人は、金目の物を袋へ詰め込む。
現金。
通帳。
貴金属。
予想以上の収穫だった。
「帰ろうぜ」
玄関へ向かう。
だが――
ギシ。
背後で床が鳴った。
二人は振り返る。
そこにいた。
死んだはずの老婆が。
「ひっ……」
エイタが驚く。
老婆は背筋を伸ばし立っていた。
グギ。
首を直す。
口元が裂けていた。
耳元まで。
裂けた口から、黒い歯が何重にも覗いている。
「もう、帰るのかい?」
老婆が笑った。
ギチギチギチ。
骨が軋む。
身体が膨らむ。
背中が伸びる。
髪が蛇のように蠢く。
その姿は、もはや人間ではなかった。
巨大な女。
異様に長い腕。
獣の牙。
爛々と輝く目。
山姥だった。
「ごちそうじゃぁ……」
絶叫と共に、二人は逃げ出した。
玄関へ。
外へ。
軽トラックに乗り込む。
エイタは、急いでエンジンを掛ける。
ドルドルドル――
アクセルを踏み込む。
だが、進まない。
「早くしろ!」
シュウの怒号。
気付けば山姥が荷台を持ち上げていた。
空転する後輪。
「うわぁぁぁ」
エイタが焦る。
軽トラックをひっくり返す山姥。
ガシャン!!
フロントガラスが砕ける。
天井が潰れる。
「助けて!」
額から血を流しながら、泣き叫ぶエイタ。
山姥から返事はない。
代わりに。
バギン!
助手席のドアが剥ぎ取られる。
巨大な腕が伸びた。
グシャ。
シュウの身体が握り潰される。
悲鳴は一瞬だった。
車内に血と肉が飛び散る。
エイタは小便を漏らした。
死にもの狂いで、車内から這い出る。
山姥は楽しそうに笑う。
「若い肉は柔らかいねぇ」
グチャ。
――翌朝。
古民家の台所。
大鍋が火にかかっていた。
グツグツ。
肉が煮えている。
皿の上には、二人の少年の頭。
頭蓋が綺麗に開かれ脳味噌が覗く。
老婆は、鼻歌を歌いながら包丁を動かしていた。
鍋の中は、野菜と胴体を煮込んだ汁。
四肢の骨付きの肉が、網で焼かれる。
脂が滴り、美味そうな匂いを漂わせている。
「いただきます」
老婆は笑った。
畑で採った葉物野菜に、脳味噌を巻いて頬張る。
新鮮な脳汁が滴る。
実に美味そうだった。
蕩ける老婆の目。
食事を終えると、老婆はスマホを手に取る。
慣れた操作だった。
SNSを開く。
新しい投稿を作る。
【簡単!即金!】
【割りの良い仕事あります】
【山奥の一軒家に荷物を取りに行くだけ】
投稿して数分。
通知が鳴り始める。
【興味あります! ヤス】
【詳しく教えてください! マル】
【今日でも行けます! ケント】
次々と届く連絡。
老婆は笑う。
皺だらけの顔を歪めて。
おやつの人間の指をボリボリと噛み砕きながら。
「わしが下山しなくても、人間が寄ってくる。こんなに簡単に引っ掛かるなんて……」
にたりと笑う山姥。
「楽な時代になったね――」
湯呑みの血を飲み干す。
「次は、誰にしようかの」
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