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怪異収集録~本当に怖いのは怪異か、人間か。一話完結の現代怪談~  作者: もろ


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9/10

【山姥】

【簡単!即金!】


【一晩で十万円!】


【運ぶだけの仕事です】




スマホの画面を見ながら、エイタは笑った。


「楽勝じゃね?」


隣では友人のシュウが頷く。


二人とも高校を中退していた。


金がない。


働く気もない。


だから、こういう仕事に飛びついた。


相手から送られてきた指示は簡単だった。




【山奥の一軒家】


【一人暮らしの老婆】


【家の中にある金目の物を回収するだけ】


【住人がいても高齢者なので問題ない】




――そう書かれていた。




深夜。


エイタは軽トラックを走らせる。


ライトに群がる虫を潰して進む。


助手席のシュウが、スマホの地図アプリで指示された場所を確認する。


街灯もない山道。


木々が窓を叩く。


細道を抜けると一軒の古い家が現れた。


 


「あった…… マジでこんな所に住んでんのかよ」


シュウが笑う。


「さっさと始めようぜ」


エイタがエンジンを切り、袋を背負う。


二人は、目出し帽を被り、ヘッドライトを点ける。


 


山の中に開けた場所。


ライトに照らされる。


大きな古民家。


立派な鬼瓦。


庭には畑。


人の気配はない。


 


パリン。


二人は窓を割り、中へ侵入した。


生魚のような湿った獣の臭がする。


 


物色する二人。


徐々に違和感を覚える。


居間の机には、複数のスマホ。


仏壇には、頭頂部が開かれた頭蓋骨が並ぶ。


「なんだこれ……」


エイタは、金の仏具を袋に詰めながら、頭蓋骨を見た。


「知らねぇよ」


シュウは、古い箪笥から通帳を引き抜く。


「それより金だ」


その箪笥には、血の付いた衣類と目出し帽が入っていた。


しかし、金に目の眩んでいる二人はそれを無視する。




金目の物を漁っていると――


「誰じゃ……」


背後から声がした。


振り返る。


白髪の老婆。


腰の曲がった小さな老人だった。




「泥棒……かい?」


老婆は震えていた。


 


「やべ」


エイタが舌打ちする。




老婆は逃げようとした。


その瞬間。


ドン!


シュウが突き飛ばした。


老婆は壁へ激突する。




ゴキッ。


嫌な音がした。


あらぬ方向に曲がる首。


老婆は動かない。


目を見開いたまま。


息もしていない。


呆気ない最期。




「お、おい……」


エイタの顔が青ざめる。


「死んだ……?」


シュウは数秒黙り込んだ後、


「今さらだろ…… こんなところ誰も来やしない」


と吐き捨てた。




二人は、金目の物を袋へ詰め込む。


現金。


通帳。


貴金属。


予想以上の収穫だった。




「帰ろうぜ」


玄関へ向かう。


だが――


ギシ。


背後で床が鳴った。


二人は振り返る。


そこにいた。


死んだはずの老婆が。




「ひっ……」


エイタが驚く。




老婆は背筋を伸ばし立っていた。


グギ。


首を直す。


口元が裂けていた。


耳元まで。


裂けた口から、黒い歯が何重にも覗いている。


「もう、帰るのかい?」


老婆が笑った。




ギチギチギチ。


骨が軋む。


身体が膨らむ。


背中が伸びる。


髪が蛇のように蠢く。


その姿は、もはや人間ではなかった。


巨大な女。


異様に長い腕。


獣の牙。


爛々と輝く目。


山姥だった。


「ごちそうじゃぁ……」




絶叫と共に、二人は逃げ出した。


玄関へ。


外へ。


軽トラックに乗り込む。


エイタは、急いでエンジンを掛ける。


ドルドルドル――


アクセルを踏み込む。


だが、進まない。


「早くしろ!」


シュウの怒号。


気付けば山姥が荷台を持ち上げていた。


空転する後輪。




「うわぁぁぁ」


エイタが焦る。




軽トラックをひっくり返す山姥。


ガシャン!!


フロントガラスが砕ける。


天井が潰れる。


「助けて!」


額から血を流しながら、泣き叫ぶエイタ。


 


山姥から返事はない。


代わりに。


バギン!


助手席のドアが剥ぎ取られる。


巨大な腕が伸びた。


 


グシャ。


シュウの身体が握り潰される。


悲鳴は一瞬だった。


車内に血と肉が飛び散る。


 


エイタは小便を漏らした。


死にもの狂いで、車内から這い出る。




山姥は楽しそうに笑う。


「若い肉は柔らかいねぇ」




グチャ。 




――翌朝。


古民家の台所。


大鍋が火にかかっていた。




グツグツ。


肉が煮えている。


 


皿の上には、二人の少年の頭。


頭蓋が綺麗に開かれ脳味噌が覗く。


老婆は、鼻歌を歌いながら包丁を動かしていた。


鍋の中は、野菜と胴体を煮込んだ汁。


四肢の骨付きの肉が、網で焼かれる。


脂が滴り、美味そうな匂いを漂わせている。




「いただきます」


老婆は笑った。


畑で採った葉物野菜に、脳味噌を巻いて頬張る。


新鮮な脳汁が滴る。



実に美味そうだった。


蕩ける老婆の目。




食事を終えると、老婆はスマホを手に取る。


慣れた操作だった。


SNSを開く。


新しい投稿を作る。




【簡単!即金!】


【割りの良い仕事あります】


【山奥の一軒家に荷物を取りに行くだけ】




投稿して数分。


通知が鳴り始める。




【興味あります! ヤス】


【詳しく教えてください! マル】


【今日でも行けます! ケント】




次々と届く連絡。


老婆は笑う。


皺だらけの顔を歪めて。


おやつの人間の指をボリボリと噛み砕きながら。




「わしが下山しなくても、人間が寄ってくる。こんなに簡単に引っ掛かるなんて……」


にたりと笑う山姥。


「楽な時代になったね――」


湯呑みの血を飲み干す。


「次は、誰にしようかの」

ここまで読んでいただき、ありがとうございました!


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これからも『怪異収集録』をよろしくお願いいたします!

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