【口裂け女】
夜の繁華街。
高層ビルの灯り。
仕事帰りの若い女が、一人で歩いていた。
白いブラウスに、肩までの茶髪が揺れる。
行き交う人々。
昼間ほどではないが、まだ賑わいは残っている。
それでも――
一本裏路地へ入れば別だった。
人通りは少ない。
若い女は早足になる。
『早く帰りたい』
ただそれだけだった。
「ねぇねぇ、お姉さん」
背後から声がした。
振り返る若い女。
若い男が三人。
派手な髪。
だらしなく開いたシャツ。
ギラギラしたアクセサリー
酔っているのか、顔が赤い。
「一人?」
煙草を咥える、金髪の長髪男。
「飲み行こうよ~」
両耳に大きなピアスを付ける、銀髪の男。
「終電まで時間あるっしょ?」
首筋に刺青が彫られた、赤髪の短髪男。
鎖のネックレスが光る。
若い女は、首を横に振った。
「急いでいるので」
「いいじゃん~」
銀髪の男が腕を掴む。
若い女の肩が跳ねた。
「やめてください!」
「そんな怖がんなって」
赤髪の男が顔を近付ける。
「俺ら優しいから」
金髪の男が煙を吐く。
三人の下卑た笑い声。
若い女は、銀髪の男の手を振り払って、走り出した。
「待てよ!」
男たちの声が追い掛けてくる。
ヒールがアスファルトを叩く。
息が苦しい。
心臓が痛い。
曲がる。
走る。
また曲がる。
気付けば知らない路地だった。
「はぁ……はぁ……」
行き止まり。
振り返る若い女。
男たちが道を塞いでいた。
「逃げんなよ」
金髪の男。
「追いかけっ子の次は、何する~」
銀髪の男。
「もっと楽しもうぜ」
赤髪の男。
じりじりと距離を詰める男たち。
若い女の背が壁に触れた。
逃げ場は無い。
その時。
コツ。
足音。
男たちが振り返る。
路地の入口。
街灯の下に、背の高い女が立っていた。
長い黒髪。
赤いコート。
そして――大きなマスク。
顔の半分以上を覆う白いマスク。
男たちは顔を見合わせる。
「なんだ?」
金髪の男。
「君の知り合い?」
銀髪の男が、若い女に聞く。
首を横に振る若い女。
マスクの女は動かない。
やがて。
ゆっくり口を開いた。
「私……綺麗?」
男たちは吹き出した。
「都市伝説か?」
赤髪の男。
「口裂け女ってやつ~」
銀髪の男。
金髪の男が笑いながら近付く。
「お姉さんも俺らと遊びたいの?」
マスクの女は答えない。
金髪の男が、煙草の煙をマスクの女に吹き掛ける。
その瞬間。
マスクの女は煙草を奪い、金髪の男の額に押し付けた。
「ぐわぁ!」
額を押さえ、後退る金髪の男。
その腹部に――
ブス。
鋏が突き立てられた。
派手な服が血に染まる。
腹を抱え、倒れる金髪の男。
「え?」
銀髪の男。
理解が追い付かない。
瞬きをすると――目の前にマスクの女が立っていた。
マスクの女が、銀髪の男のピアスを掴む。
一気に引く。
ブチッ――
銀髪の男の耳朶が千切れる。
「うぎゃ――」
耳を押さえる。
鋏が、銀髪の男の目の前で開く。
ドス。
刃が両目を突いた。
ブシュ――
両目から血飛沫。
後方に倒れる、銀髪の男。
「うわああああ!!」
赤髪の男は悲鳴を上げていた。
駆け出す。
だが――
鎖のネックレスが掴まれる。
「ぐえっ」
首が絞まり、逃げれない。
ジャギン!
鋏が首筋の刺青を裂く。
頸動脈から血が噴き出す。
膝から崩れる赤髪の男。
静寂。
路地に立っているのは、二人だけだった。
茶髪の若い女。
そして、背の高い黒髪長髪のマスクの女。
若い女は、震えていた。
足が動かない。
マスクの女が振り返る。
ゆっくりと。
こちらへ歩いてくる。
若い女は、背を壁に押し付ける。
逃げられない。
マスクの女が立ち止まった。
そして。
問い掛ける。
「私……綺麗?」
若い女の喉が鳴った。
「き、綺麗です……!」
震える声。
マスクの女は黙っている。
やがて。
マスクを外した。
耳まで裂けた口。
「これでも、綺麗?」
若い女は、必死に頷く。
「そう…… 昔の私と同じね……」
口裂け女が呟いた。
若い女は安堵した。
助かった。
そう思った。
だが。
次の言葉で凍り付く。
「なら――」
鋏が持ち上がる。
「あなたも綺麗にしてあげる」
若い女の口の中に、鋏の刃が挿入された。
ジョギンッ!
頬が裂かれた。
激痛。
熱い。
顔が燃える。
「あぁぁぁ――!」
若い女の絶叫が、夜に響いた。
――数日後――
深夜の住宅街。
学校帰りの女子高生が、一人で歩いていた。
ふと足を止める。
前方に、茶髪の若い女が立っていた。
血の付いた白いブラウス。
白いマスク。
街灯に照らされた目が笑っていた。
マスクに手を掛ける。
「ねぇ……」
マスクが外れる。
耳元まで裂けた口。
「ひぃぃ!」
女子高生の悲鳴が上がる。
茶髪の女が言う。
「私……綺麗?」
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