【十三階段】
曇天の空。
早朝の通学バス。
バスに揺られながら、欠伸を噛み締める生徒。
イヤホンをして、ショート動画を漠然と眺める。
「こんにちわ。こんばんわ。おはようございます。モロチャンネルです」
若い男の配信者。
お決まりの挨拶で始まる動画。
夜空に満月が輝いている。
「今回は怪談検証企画と言うことで――此方に来てます!」
大袈裟な効果音と共に、映し出される古びた廃校。
禍々しい雰囲気は十分に伝わる。
歩きながら、語り始める配信者。
「この学校には“十三階段”と呼ばれる階段があります…… 十二段しかないはずなのに……満月の真夜中だけ十三段目が現れる……」
素人の恐怖を煽る演技。
「一人で入るのは、心細いですが……」
正面玄関のバリケードを外し、校舎に侵入する配信者。
校内は真っ暗で、配信者の照明だけが頼りだった。
『不法侵入www』
『通報案件』
『お巡りさん――不審者が居ますよ~!』
『真っ暗で怖っw』
画面の脇にコメントが流れる。
「十三段目を踏んだ者は、自分自身に出会うとも、連れて行かれるとも言われています」
配信者は低い声で話すと、階段を映した。
「今は二十三時ですが、先ずは確認の為、階段を数えてみます」
階段の下に立ち、足元を映す。
「一、二、三、四……」
声を出しながら数える配信者。
一歩ずつ、ゆっくりと上る。
「……十、十一、十二」
映像が足元から配信者の顔に変わる。
「まだ……問題無いようですね~ では、真夜中の零時に再挑戦です」
少し笑いながら、階段を下りる配信者。
『何も起きないじゃんw』
『つまらん』
『マジ検証頼むw』
次々に流れるコメント。
「零時になりました……始めます」
編集された動画。
時間が飛ぶ。
先程と同じように、階段の下に立ち、足元を映す配信者。
「一、二、三、四……」
声を出しながら数える配信者。
一歩ずつ、ゆっくりと上る。
既視感のような動画。
「……十、十一、十二」
十段目辺りから、照明が不自然に明滅しだした。
映像にノイズが走る。
グチョ。
何か柔らかい物を踏んだ感触。
「十三……!?」
配信者の声が震える。
右足が何かを踏んでいた。
恐る恐る足を上げる。
そこにあったのは――
顔だった。
血塗れの。
階段の一段として埋め込まれた。
配信者自身の。
歪んだ顔。
「うぎゃ――!」
ドタドタバタン!
階段を転げ落ちる配信者。
画面が回転する。
映像が乱れる。
照明が消えて、何も見えなくなった。
「助けて……」
配信者の弱々しく、掠れた声。
黒い画面に、音声だけが聞こえる。
ズリ……
ズリ……
何かが引き摺られる、生々しい音。
コメントが黒い画面に流れる。
『絶対ヤラセだろ』
『血塗れの顔の造型エグw』
『迫真の演技www』
『つまらん』
『つまらん』
『つまらん』
『この動画……誰が投稿したの……』
プシュ――
バスが停まる。
「雨か……」
窓を覗く生徒。
スマホの画面を閉じた。
何事も無かったようにポケットに仕舞う。
折り畳み傘を出し、正門に向かう。
何時もと変わらない日常。
関心の薄れた世の中。
日々更新されるSNS。
本当の叫びも……気付かれなければ、毎秒埋もれて行く。
やがて……噂だけが残り――
それは新たな怪異になる。
新着コメント。
『次はあなた』
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