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怪異収集録  作者: もろ犬


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2/2

【付喪神】

暗く狭い部屋。


扉の隙間から光が僅かに漏れ入る。


黴と薬品の臭い。


それと、僅かな腐臭が混じる湿った空気が、換気されずに、永い年月蓄積する。


使われなくなった教材が、埃を被って眠る理科準備室。


そこで――僕は目を覚ました。




身体が硬直して動かない僕。


目覚めたばかりで、意識が朦朧とする。




ガチャ。


鍵が解除された。


息を飲む。


ギギ。


古びた扉が、軋みながら開かれる。


逆光の二つの人影が現れた。




ジジ。


ノイズと共に、白濁した照明が部屋に色を付ける。


僕は、眩しくて瞼を閉じようとしたが……出来なかった。




少女が部屋に入って来た。


今にも泣き出しそうな、不安そうな顔。


少女と目が合う。


何か言いたげな、助けを求めるような目で僕を見る。


潤んだ少女の瞳に、僕は目を逸らせない。




少女の背後に白衣の男性が立つ。


ガチャ。


後ろ手で扉を閉めると、内側から鍵を掛けた。


粘り付くような視線で、少女を頭から足まで舐め回すように見る。




少女は、小動物のように震え、振り向くことも出来ない。


ただ……僕を見詰める。




「先生……もう止めてください…… 今までの事は……誰にも言いませんから……」


背中を丸め、両腕で胸元を隠し、懇願する少女。




しかし、先生の耳には、少女の声が届いていないようだ。


コツ。コツ。


白衣を揺らし、不気味に歩み寄る先生。




ガバッ。


突然――背後から少女を抱き締めた。


先生の鼻息が少女の髪を揺らす。


涎が少女の首筋に垂れる。




『助けて!』




少女の声が僕の脳に直接届いた。


ドクン!


心臓が激しく鼓動した。




その瞬間――僕は思い出した。


毎週行われる、この光景を。


何度も慰み物にされる少女を。


その度に、僕に救いを求める少女を。




グギギ――


僕は、軋む身体を無理やり動かした。




バゴン!!


先生の獣のような顔に、木製の拳を打ち込んだ。


鼻が折れる鈍い音。


前歯が唾液と一緒に吹き飛ぶ。




ドガン――!


扉に後頭部をぶつけた先生が崩れ落ちる。


白目を剥き、痙攣する身体。


顔面から血が流れ続ける。




僕は、少女の手を引き理科準備室を出た。


ぎこちなく足を動かして、初めて歩く。


時折、躓きそうになる。


その度に少女が支えてくれた。




「ありがとう…… ずっと待ってたよ」


少女が、光に包まれた笑顔で、嬉し涙を流した。


繋いだ手から少女の温もりが伝わる。


僕の心臓にも温もりが宿る。




誰も居ない夕暮れの廊下を、手を繋ぎ二人で歩く。


コロン。


薄暗い廊下に、僕の模型の臓器が転がった。




廃校となった理科準備室の床には――


今も、少女の白骨死体が眠ったままなのに……


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